アルフレッド・ヒッチコック監督。ケーリー・グラント、グレース・ケリー出演。1955年公開。アメリカ映画。
金持ちからしか盗みを働かないことで有名なジョン・ロビーにはキャットという渾名があった。刑務所に服役していたが、ナチスドイツの爆撃により刑務所が破壊された際に脱獄、その後はレジスタンスとして活躍して勇名を馳せたことから、恩赦となり、リゾート地リヴィエラの高台で悠々自適の生活を送っていた。
何者かがロビーの犯行手口とソックリな宝石泥棒を繰り返していたため、キャットの犯行であると新聞が掻き立てる。ロビーは疑いを晴らすために、かつてのツテを頼って保険会社の人物を紹介して貰う。その人物から多額の保険金が掛けられている宝石の持ち主リストを入手、大富豪の親娘と知り合い、ザ・キャットになりすましている泥棒を待ち構えて捕まえようとするが・・・・・・。
60年前以上の映画にもかかわらず、冒頭から絵が綺麗。ニースかモナコの風景だろうか。空撮による自動車走行シーンも圧巻。絶壁に建つ石造りの民家の連なりが異国情緒を喚起させる。警察に追われて街中の花屋に突っ込むシーンは、ただただカラフル。やはりそこかしこに花が咲いていて彩りを添える。デジタルリマスターで綺麗にしているのかもしれない。掲載した予告編は色褪せているが、動画配信サイトで観た本作は色味が全く異なり精彩だった。
本作はテクニカラーという手法で撮影されている。赤青緑の三色のフィルターを通してそれぞれ記録された3本のフィルムを、一本のフィルムにまとめてカラーにしている三色法と呼ばれるカラー方式で、日本では昔の映画のポスターでよく見かける総天然色のことを指している。
特色としては空や緑の木々の色が濃い。俳優の肌もコントラストが高いイメージだ。昔の懐かしいカラー映画にありがちの色使い。油絵の具で塗りたくったような凄惨な色調。
しばらく観ていると、海水浴に浸るシーンでひときわ美しい顔立ちの女性が出てくる。女優グレース・ケリー。名前だけはどこかで聞いたことある。6年ほど女優として活躍した後、モナコ大公妃となる女性だ。この映画のロケがきっかけでモナコ大公に見初められて結婚した。80年代に交通事故で同地で亡くなる。
そのグレース・ケリーと張り合うフランス人女性の口撃が微笑ましい。あっちは中古、こっちは新車、どっちの方が乗り心地が良いかと自動車に喩えてロビーを牽制する。
夜は二種類の方法で演出されている。恐らく日中に撮ったであろうと思われるシーンを思案や緑の色調に編集して夜に見せているのがひとつ。80年代から90年代にかけて制作されたグラナダテレビの『シャーロック・ホームズの冒険』でも夜中のシーンでは幾たびかこれと同じ手法が採られていた。探偵物なので夜の野外のシーンが多い。
もう一つは普通に暗い夜のシーン。最後に18世紀フランスを模した仮装舞踏会のシーンが流れるが、外は暗く役者達は明るい。恐らくスタジオでの撮影かと思われるが、もしそうならお屋敷のセットはなかなかお金がかかっていそうだ。
トレジャーボートで海をかけるシーンも背景を合成したセットだろうか。やたらと水しぶきが俳優に抱えるが、見えないところでスタッフが水をバッシャバッシャやっていると想像するとおかしみがある。
この時代の映画は色が濃い。コッテリとしたソースの載ったチキン南蛮のように色が濃い。よく写真の世界では、カメラで撮ったそのままの色が現実世界そのままの本当の色だとか、日本の四季の自然には本来の色があり、彩度を強めるとその本来の色が台無しになるだとか言う人がいるが、カメラ自体が映像エンジンで独自の色づけをしていることを知らないカメラを手にしたばかりの初心者だったり、正確な記録を優先する創造性に欠けた発言だったりする。そのように加工された美しい紅葉の写真に対する嫉妬も含まれているというか99%は嫉妬から生まれた屁理屈だろう。彩度マックスも一時期バズってコケにされていたが、アレはアレでカメラマンの持ち味だから、彩度マックスな写真がヘタクソだとか批判するのも、尻馬に乗って批判しているだけで根拠に乏しい。
ヒッチコックは自身の作品にカメオ出演することでも有名だが、今回も冒頭の警察から逃げるバスの車中のシーンで、横に長いビスタビジョンの右端にちょこんと無表情で座っていた。
というわけでグレース・ケリーが出ている映画を観たくなってきたのだった。