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チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛 – チューリップ・バブルに翻弄されるオランダ版ロミオとジュリエット

チューリップ・フィーバー

原作はフェルメールの絵画に着想を得て執筆されたデボラ・メガーの小説「チューリップ・フィーバー」。映画内ではフェルメールについては一切言及されていない。

舞台はスペインからの独立を果たし黄金時代を迎えていた17世紀オランダ。身寄りもなく修道院に引き取られていたうら若き修道女ソフィアが、ナツメグなどの貿易で財を築いた香辛料王コルネリス・サンツフォールトに引き取られて結婚する。貧困から引き上げてくれた夫に応えようと跡取りの子作りに専念するが、コルネリスが高齢のためかなかなか子宝に恵まれない。

そんな中、夫婦の肖像画を描くことをコルネリスが提案し、将来を嘱望されている若い画家ヤン・ファン・ロースに制作を依頼する。最初は自身の心の内の動揺に抗ってヤンをクビにしようとした女だったが、次第に恋心が抑えられなくなり、若き画家と密通を重ねる。

一方でコルネリスの屋敷の召使いであるマリアは魚の行商人ウィレムと恋仲になっていた。折しもチューリップバブル真っ盛りの時期で、修道院から買い入れたチューリップの球根が値上がりして、ウォレムは一晩にして財を築いた。

ところがマリアとヤンが仲睦まじく交わっているところ(実際はマリアに化けたソフィア)を目撃したウィレムは失意の内に酒屋になだれ込み、そこで大金を売春婦にすられてしまう。追いすがる際に売春婦呼ばわりしたことで女の兄が怒りだして一悶着となり周囲から袋だたきにされ、そのまま無理矢理海軍に放り込まれてしまったのだった。

待てども現れない魚の行商人ウォレムに業を煮やすマリアはその頃腹の中にウォレムの子供を宿していた。海軍に行ってしまったことを知ったマリアは絶望に囚われる。コルネリスに知れれば解雇される恐れがあったが秘密は守るというソフィアに、もし話したら画家と密通していたことを夫にバラすと逆に脅される。

なかなか子供に恵まれないソフィアだったが、このピンチをチャンスに変えるべく一計を案じることになる。エロ医師や産婆、棺桶の運搬人らと共謀して、召使いマリアの孕んでいる赤ん坊をコルネリアの子供だと偽って取り繕えば、コルネリア念願の世継ぎも出来るし、召使いマリアも身の破滅から救われ、ソフィアも秘密を共有することで不義を暴露するという脅しから解放されるだけでなく出産の際に皮膚の伝染病で死んだということにすれば屋敷から抜け出して画家と駆け落ちできるという一石三鳥の名案だった。

画家ヤンの方はというと同じく修道院からチューリップの球根を先物取引で買い入れていた。驚くほどの高値で売れたものの、アトリエ兼住居には債権者達が押し寄せていて外に出してくれないので、名代を立てて球根を取りに行かせたが、肝心の男が根っからの飲ん兵衛で、修道院からの帰途につくなか、酒に酔っ払ってしまいタマネギの球根と修道院長から渡された物を食べてしまう。そのタマネギの球根と言われていた物こそ高値の付いたチューリップの球根だった。一攫千金は夢と潰えた。

ソフィアの方も死を装って長時間棺桶に入れられていたことで恋心が失せてしまい、かといって家に戻るに戻れずそのまま失踪してしまう。その際に青いケープを水路に放り投げたことで、後にそれを見つけたヤンがソフィアは自ら身を投げて死んだと勘違いしたのだった。

そんな折、海軍に行っていたはずだった魚の行商人が召使いの元に戻ってきた。すべての顛末を打ち明ける召使いの話を偶然居合わせて聞くことになった夫は、召使いと行商人に屋敷を譲って、自分はバタヴィアに旅立ってしまう。

それから数年後、画家は修道院の壁画を描く依頼を請け負うことになった。そこで再び女と再会を果たす。

よく出来た筋書きで、バッドエンドと思われたが、妻に裏切られた夫を含む全員が幸せになるハッピーエンドなお話だった。チューリップバブルの折に世界で初めて先物取引が成されたとのこと。映画を見ていると、特に字幕だと、ボンヤリしているとストーリーが追いにくくなる。特にチューリップ投機のやり方や取引方法などは字幕だと恐らく会話が簡潔に省略されているせいか、分かりづらかった。

チューリップバブルと言えば、最近Twitterで当時のチューリップ価格の高騰と暴落を示すチャートが、仮想通貨の暴落時に流れてきた。仮想通貨も様々なコインがあるが、チューリップもその花の色や形などで価格が異なり、○○提督などの名前がつけられている。最も高値なチューリップの球根が、花びらに割れた跡のような色が付いている「ブレイカー」と呼ばれる品種だった。なぜそのような色が付いたり花びらが割れたりするのか当時は謎だったが、ウイルスに感染してそのような色の花になるという事だ。チューリップバブルはその後、オランダ政府が売買を禁止したことで価格が暴落し、二度と値が戻らなくなる。

タマネギと言われていた球根を間違えて食べてしまう話は、実際にそういう挿話が残っているそうで、そこから着想を得たのだろう。

シーンの所々が絵画のような光のタッチで見ているだけで引き込まれるようだった。『牛乳を注ぐ女』を彷彿とさせる召使い。窓際に立つ横顔のソフィア。

勘違いによるすれ違いのプロットは『ロミオとジュリエット』のよう。オフィーリアは美しい姿で水死したが、ソフィアは死から免れて、最悪の事態は免れたエンディングを迎える。

客層は平日だったこともあり、年配の女性が多かった。この日はリンドン・ジョンソン大統領の映画も観たが、こちらは打って変わって年配の男性が多かった。やはり映画の内容によって客層は偏る。