桜の風景写真をパンフォーカスで撮ってからというもの、F9やF11の紡ぎ出す描写力の世界にすっかり魅了されてしまった。
F9やF11は今まで未知の世界だったせいもあるのだろう。ポートレートやコスプレなどの人物撮影では、通常は背景を思い切り暈かして撮る手法が定石となっている。野外で人物をパンフォーカスで撮るなどという事は今まで念頭にもなかった。
なぜなら、野外で人物をパンフォーカスで撮ると、人物も背景も総じて平坦になり、被写体が強調されず、つまらない写真になってしまうからだ。
スタジオでのポートレート撮影では、F11まで絞る写真が多いのは知っていた。だが様々なシチュエーション背景が存在するコスプレ撮影の場合、スタジオ内でも絞って撮る事は希だった。野外で撮る時と同じく、背景がのっぺりとしてしまい、被写体そのものの魅力が掻き消されてしまう。
2年目のコスプレ撮影を通じた桜ロケで気づいたのは、桜を暈かしすぎていないだろうかという事だ。うすうすと感づいてはいた。どうも桜を暈かした写真が多く、モデルになってくれている子も、もっと桜をクッキリと写して欲しいのではないだろうかと思っていたら、案の定、せっかくの桜だから、桜もクッキリ撮って欲しいという要望があった。
とはいったものの、今年の桜ロケは早い時期に予定を立てすぎてしまい、大阪は3月23日という例年より数日早めの桜の開花予想を当てにしていたら、予定していたロケ地だけが寒かったのか全く桜の咲く時期を逸してしまった。桜がほとんど咲いていない時分に、背景の桜を暈かして満開に咲いているように見せるしかなかったという理由もある。
普段開放や開放付近で撮っていると、レンズの設定を絞って撮るのには勇気がいる。つまらない写真になってしまわないだろうかという恐怖心があるからだ。デジタルカメラだからそんな写真になってしまえば設定をいつもの開放気味に変えて撮れば良いのだが、時間が惜しいのだろうか、それともモデルの素晴らしいポーズを最高の設定で取り逃してしまう事の恐怖心からだろうか、なかなか今までは絞って撮る事に躊躇いがあった。
ポートレート撮影を絞って撮る事に抵抗があるもう一つの理由は、女性の肌が写りすぎてしまう事だ。開放や開放付近で撮れば、ある程度の肌の凹凸は誤魔化せる。毛穴やその他諸々の凹凸が、絞って撮る事によってクッキリと写ってしまうので、女性を美しく幻想的に撮りたい場合などは、人物撮影で絞って撮る行為が躊躇われるのだ。
そのような恐怖心を振り払って、絞って撮っていく事にした。
本来ならF1.4の開放か、F2.2まで僅かばかりに絞って、芝生を暈かし被写体を映えさせたいところだが、散った桜が芝生に舞っている事もあり、F9まで絞って撮ってみた。男装キャラで、写真全体に対して顔の割合も小さいので、肌の写りに関しては気にならない。
こちらの写真は、200mmの単焦点望遠レンズで、F11まで絞って撮っている。手前の桜が前日の雨と春の嵐で散ってしまっていたものの、背景の桜がまだ咲いていたので、圧縮効果を狙って、望遠で絞って撮ってみた。開放F2.8で撮ると桜が暈けすぎて、全体的にぎゅっと詰まった感じが薄れてしまう。
こちらは別の場所で撮影した。同じく圧縮効果を狙ってF11で撮影。ISO感度を1600まで上げているためか、ノイズ処理で肌の描写が綺麗になっている。高感度撮影によるノイズ処理には、このような美肌になる効用もある。ただしこの写真はフルサイズで撮っているので、APS-C機の場合はノイズが多すぎて、逆に汚く写る事になるかもしれない。
同じく200mmの単焦点望遠レンズを使って、F9まで絞って撮影。ソフトボックスの光が肌を大変綺麗に写しているだけでなく、このコスプレのためにモデルが用意した上質な布の質感まで写し取っている。このようなストロボを用いた人物撮影では、野外であってもパンフォーカスで撮るのが、理に適っている。
85mmのレンズに付け替えて、F9まで撮影。要望通り、背景の桜の花も形がキチンと分かるほどにクッキリと写っている。実際には等倍で見ると奥に行くほど桜は暈けているが、鑑賞する分には、そんなに暈けているようには見えない。
パンフォーカスで撮ろうと思えば、望遠よりも中望遠、中望遠よりも標準、標準よりも広角で撮る方が全体がシャープに写りやすいが、今回は敢えて200mmと85mmで撮影してみた。所有している35mm域の広角レンズが、他のレンズに比べて描写性能が劣るので、Otusの使用を優先した。
今になって思えば、もっと桜をクッキリと写すために55mmで撮っておけば良かったかなとも思ったのだが、このときはより優れた描写力を誇る85mmレンズを使いたかったのだろう。描写力も素晴らしいし、満足のいく写真を撮る事が出来た。