消えるマジシャンとして生計を立てていた夫婦、子供を身籠もってから夫は突如失踪してしまう。精神を病んだルイーズが産んだ赤ん坊は透明人間だった。エンジェルと名付けられた子はルイーズに愛情たっぷり注がれて育つが、外には出ないよう諭される。ある日、窓から見えた隣の家の少女マドレーヌに惹かれて、ルイーズの約束を破り外に出る。マドレーヌは盲目だった。仲睦まじくなる2人だったが、マドレーヌが手術のためにニューヨークに旅立つ。目の視力を回復して戻ってきたマドレーヌにエンジェルは自分の正体を明かそうと決意するが・・・・・・。
1時間半で軽い気持ちで観られる映画だった。早朝に観に行ったので眠たくてボンヤリと見ていたが、まず映像が美しい。長焦点レンズを使って思いっきり背景を暈かしているから、緑が緩い六角形型にキラキラと暈けている。それにマドレーヌに大胆に寄って背景を思いっきり暈かしている。白系の家のシーンや森のシーンでの配色も美しい。特に森のシーンでは少女マドレーヌの着ている服の色と肌の色と髪の色に周囲の自然の色が調和して目に優しく入ってくる。色で無垢な少女の溌剌とした若さを表現しているとでも言おうか。
少女と赤い傘のポスターを観て、一瞬『赤い風船』という昔のフランス映画を連想させたので、メルヒェンチックな無垢な映画なのかと期待して観ていたが、結構エロティックなシーンが多かった。母ルイーズが赤ん坊を産んだ時、泣き声は聞こえるが、白い布が沈んだように映し出されているだけで、透明人間であることが分かる。乳を吸わせたり、スプーンで食事をさせたり、水で顔を洗ったりするシーンでは、乳首がひとりでに尖ったり、マッシュドポテトがスプーン型に削り取られたり、水が手の形に変形したりした。乳首を吸うシーンは後に繰り返されるが、これは何か深い意味を持たせると言うよりも、お遊びのようなものだろうか。他にも階段を上がるシーンでは埃の溜まった階段に靴跡が付いていったりする。透明人間だが白いシーツを被ると形は浮き出るという定番の工夫も成されている。それらの透明人間の存在を見せるためのシーンを観て最近のCGはよく出来てるなぁ、全く不自然なところがないと感心していたが、CGはほとんど使っておらず昔ながらのアナログな手法でこれらの透明人間のシーンを表現しているというから驚き。
マドレーヌは3人の役者が演じている。その移り変わりのシーンも、ジャンプして一度フレームアウトして戻ってくると二人目の女優に変わっているという鮮やかさ。
母ルイーズは精神を病んで施設に入居。そこで透明人間の子供が生まれるのだが、成長するまで施設で育つことになる。ルイーズの表情がとてもそれっぽくてリアリティがある。狂気というのとは違う、どこかが壊れてしまい疲れた人間のようだ。それでも愛情はたっぷり注がれる。オーの発音をする時は唇を丸めてと言ったり、黒板にOやSを書かせたり。SはSecret(秘密)のS、透明人間であることは外部に知れるといけないから秘密にしておかなければならない。
施設は恐らく精神病院だろうか。ルイーズが亡くなって部屋を片付けるシーンでは壁にエンジェルが描いた森の絵が描かれているが、そのシーンだけを観るとまるでルイーズが精神を病んで描いた絵のように見える。看護師達がそれらを何の感慨もなく消してしまう。その様子をエンジェルが遠目で眺めている視点で描かれている。映画の中の視点はエンジェルであることが多い。看護師達はエンジェルの存在に気づいていたのだろうか。
最初は赤ん坊の存在は精神を病んだルイーズの妄想だろうかとも思われたのだが、視点がずっとエンジェルなのでその可能性は低いだろうと思いながら見続けた。少女マドレーヌに自身の存在を打ち明けた後に絶望するマドレーヌだったが、その姿を見て心中したり自分の目を潰してエンジェルと運命を共にするなどの最悪の選択を取るんじゃないだろうかとも考えられたが、最後はハッピーエンドに落ち着いた。