大正時代の長屋で広角・標準・中望遠単焦点レンズを使って撮る!

部屋の中で単焦点レンズで撮る!
部屋の中で単焦点レンズで撮る!

大阪阿倍野区にある金魚カフェのレンタルスペースを貸し切ってのコスプレ撮影。大正14年に建てられた長屋なので、恐らく普段撮っているスタジオ、例えばハコアム大阪やオフィスビルの一部屋を改装したスタジオよりも狭いだろうなと、購入して間のないズームレンズCanon EF24-70mm F2.8L Ⅱ USMを持っていくことにした。

他に持っていったレンズはOtus1.4/55、Otus1.4/85の超弩級単焦点レンズ2本、これはひょっとしたら暈かしの表現もいるだろうなという観点から。Canon EF24mm F1.4L Ⅱ USMは狭いから広角でボカしたい時に使えるだろうなという考えから、Canon EF11-24mm F4L USMは、もし24mmの広角でもフレームアウトしてしまうような場合と、超広角レンズが紡ぐ特異な表現の写真が撮りたい場合に備えてということで、計5本のレンズを持っていった。

結果から言うと、ほとんどの撮影シーンで55mmと85mmの単焦点レンズを使っていた。普段使っているスタジオよりも手狭な空間であるにもかかわらずだ。元々撮影スタジオではなく大正時代の長屋の雰囲気をそのままに残しているレトロな雰囲気と間取りの部屋なので、広角に寄れる明るい大三元ズームレンズもしくは24mm広角単焦点レンズが重宝するだろうなと踏んでいた。ところが実際には真逆の結果となった。

実は先日も、野外などの広い場所では標準や望遠の単焦点レンズ、距離が取りづらい狭いスタジオでは広角から中望遠の焦点域をカバーしたズームレンズがいいだろうというセットになった考えで撮影に赴いたのだけれど、いざ撮影する段階になると、野外のロケ地でズームレンズを多用することになった。早い話背景を生かしたいから余りボカしたくないのと、アニメのシーンと同じ広さで撮りたい場合は単焦点レンズでも脚で移動すれば撮れるがズームの方が楽というのと、レンズ交換は手間がかかるし面倒だから広角から中望遠まで撮れるズームレンズにつけっぱなしの方が撮影がスムーズに進んで楽という理由からだった。密閉された撮影用スタジオとは違う、そこそこ人通りのある場所でのレンズ交換というのは負担を感じることがある。

また道路脇のレンズ交換は車の排気ガスに混じっている塵がカメラの中に混入しやすいのではないかという懸念があった。以前撮影の帰りにビルに反射した夕陽が綺麗で写真に収めようと、交通量の多い幹線道路の脇でカメラにレンズを取り付けて撮ったことがあるのだが、しばらくしてから絞って撮って霞み除去などを施してカリカリに加工したら、数多の極小のゴミが写り込んでいる事に気づいた。つい先日キヤノンの安心メンテスタンダードに出してセンサーを綺麗に清掃して貰ったばかりなのにである。普段の撮影では気づかないのだが、F8以上に絞って霞み除去のようなかなり特殊な加工を施すと目立ってしまうセンサーに付着したゴミだったので、人物写真なら暈かして撮ることが多いしカリカリに加工することはあまりないけど、風景写真にはハイダイナミックレンジ加工の際にその手の加工をする場合があるからちょっと致命的かなという事で、キヤノンの安心メンテスタンダードでカメラを清掃に出した。約4,000円の損失。この苦い体験があったので、野外で車の通行がある場所では余りレンズ交換をしたくなかった。そこで余りレンズ交換する必要がないズームレンズの使用が増したという事になった。しかし結局その後日が暮れかけてからは交通量の多い橋の隣でレンズ変えまくったけれど。

距離が取りづらいからまずは24−70mmのズームレンズをつけて撮ってみた。しかしこれがどうも決まらない。撮影はじめだからテンションがまだ乗っていなかったりエンジンがかかっていないというのもあったのかもしれない。どんな撮影でも何枚も撮り続けて試行錯誤して最も良さげな構図を見つけるという段階を踏む。しかしなぜか決まらない。ズームレンズ特有のディストーションのせいだろうか。Canon EF24-70mm F2.8L Ⅱ USMで撮っていて感じるのは、写真はパリッとして綺麗なのだが、歪みがどうも気になる。立ちポーズのツーショットを撮っても28mmで膝上の写真になるのもどうも気に入らない。

写真を見せ、横から撮りましょうという事になった。そこで単焦点レンズのOtus1.4/55に付け替えて撮ることにした。横からなら二部屋分あるから距離が取れる。普段のコスプレ撮影用スタジオと同じ感覚で撮れる。レイヤーさんの構図指南もあり写真も決まった。85mmに付け替えて撮っても良かったかも知れないが、この日は撮影時間が短かったので同じ単焦点レンズをつけたまま次のカットを撮る事になった。

model:Kirisaki | 55mm | F1.4 | 1/125s | ISO200
model:Kirisaki | 55mm | F1.4 | 1/125s | ISO200

今度は同じ構図でツーショット。これがまた尊い写真が撮れた。(file.6089)

さて次は斜め正面から座っているツーショットを撮る事になり、レンズをCanon EF24mm F1.4L Ⅱ USMに付け替えて上から撮ったのだが、また決まらなくなった。そこでどうせズームで撮るなら超広角レンズにして歪みを生かし思いっきり特異な感じで撮ってみたらホラーチックなイメージに合うのではないかとレンズを付け替えたら上手くいった。写真を見せたらレイヤーさんも喜んでくれた。引き続きピンショットも同じレンズで撮っていく。

11mm |1/80s | F5.6 |  ISO1000
11mm |1/80s | F5.6 | ISO1000

歪み表現はもういいかなと、再度単焦点レンズOtus1.4/55に付け替えて正面から撮影。ウエストアップの写真になるが、背景を思い切り暈かすことでモデルが映え、背後の写経の文字も良い感じにボケて空気に浮いているように見せることが出来た。この撮影の詳しい解説はまた別の機会に。

55mm |1/250s | F1.4 |  ISO200
55mm |1/250s | F1.4 | ISO200

使いたかった24mmの広角単焦点。寄ってボカして被写体はダイナミックに。

24mm |1/250s | F1.4 |  ISO100
24mm |1/250s | F1.4 | ISO100

一階に移動しても単焦点レンズで撮影していった。

55mm |1/50s | F1.4 |  ISO1600
55mm |1/50s | F1.4 | ISO1600

廊下なので狭いかなと思い24mmの単焦点レンズで広く撮ってみたが、歪みなのか人物が小さく写るためかちょっと絵が決まらない。そこで85mmをつけることにした。廊下なのでそこそこ距離が取れる。

F1.4でISO感度は1600。これ以上はノイズが目立ち描写が潰れるので上げたくない。F2.8だと暗すぎる。そこで単焦点レンズを使って撮影。

構図を工夫した一枚。敢えて人物を僅かに入れることで印象深い写真に仕上げる。大橋了介の筆だったか、ふとパリの街角の広告が張り出されている壁の絵画を想起させた。

55mm |1/50s | F1.4 |  ISO1600
55mm |1/50s | F1.4 | ISO1600

野外ではズームレンズ、大正時代の家の部屋では単焦点レンズという全く異なるスタンスで撮影することになったが,むしろ普段の凡庸な考え方を廃することで写真もまた良いものに仕上がることを実感した1日だった。