撮影者が撮影中に何を考えながら撮影しているか

この日は下からのアングルがベストだった。
この日は下からのアングルがベストだった。

この日は『ユーリ!!! on ICE』のコスプレ撮影をすることになり、弁天町にあるスタジオの方に赴いた。このスタジオで撮るのは久しぶりだった。

確か最後に撮ったのは個撮で、アイドルマスターのコスプレだった。寝転がりを正面からのストロボを使って上から撮り、神ショットが撮れて二人して嬉々としていたが、残念なことに当時のデータが、パソコンのハードディスクがクラッシュしてしまい、バックアップも取っていなかったので消失してしまった。写真を掲載していた子もコスプレイヤーズアーカイブを退会してしまったので、その写真を見ることは出来ない。

このようにして貴重な撮影データは思いも寄らないアクシデントで簡単に消えてしまい二度と手元には残らなくなってしまう。自分の撮った写真に愛着がない人ならそれも気に止めないだろうが、筆者は自分の撮った写真がとてもとても大切なので、その日以来頻繁に外付けハードディスクに撮影した写真のバックアップを取るように心がけている。

スタジオは雑居ビルの中にある。コスプレに使用するスタジオはこのように雑居ビルの部屋を改装したものが多い。照明は恐らく撮影用の演色性の高い製品に付け替えられている。中にはオフィスとして使われていた事を彷彿とさせる蛍光灯をそのまま使っているスタジオもあるので、雑居ビルを改装したスタジオとしては良い方ではないだろうか。

狭く急な階段を上って二階のスタジオに入ると、その日撮影する子がピンクの靴底を作っている最中だった。ハート型に自分でくりぬいてある。これはずいぶん手間のかかることだろうなと、ならばこの靴底を今日はしっかり強調して撮らなければならないという意気込みを新たにしたのだったが、いざ撮影する段階になると、靴底の加工のことなど頭からすっと抜け落ちてしまっていて、ただひたすらにダイナミックに見える構図や、イラスト通りの遠近法で撮るにはどの焦点距離や被写体との距離が最適だろうかという事で頭がいっぱいだった。箱から飛び出してきているような感じで撮れば良いのだが、どうせならもう一押しオリジナリティを出したい。

衣装は全身白、しかも箱も白なので、明るく写そうとすれば、白飛びは当然するだろう。ストロボにソフトボックスやアンブレラを噛ませて、3灯で撮影する。高輝度側・階調優先モードをOnにして撮影したらやはり白飛びを防ぐにはこのモードが一番楽だ、ヒストグラムを確認したら、きちんと白飛びを防げている事が確認出来た。

RAWで撮っているから、後からガンマ調整のチャートで白飛びを回復するか、もしくは暗めに撮っておいてRAW現像時にガンマ調整チャートで白飛びしないように明るくする方法もありそうだが、まず白飛びしてしまってはその部分はデータがない状態であり、回復も何もないので後者の選択となるが、撮影現場で実際にデータを見せて明るさを納得して貰うには、適正露出で撮るのがベストなので、高輝度側・階調優先モードを使った。このモードを使うと、オートライティングオプティマイザ(自動で明るさを最適化する機能)が使えなくなる。この理由は他の個人サイトでも述べられていたが、ISO感度200に増感して一段暗く撮影してハイライト部分は抑えつつ、暗い部分を1段分明るく持ち上げるという事がカメラ内で行われているらしい。らしいというのはキヤノンがその仕組みを非公開としているからで、写真の暗部に出るノイズやISO感度200になることなどからユーザー達が推論をたたかわせている。暗い部分を明るく持ち上げるので、暗部にノイズが出やすいとのことだ。あと暗い被写体を撮る場合は黒が潰れやすいというのもあったか、実際検証してみないことには確定できない。やろうやろうと思って先延ばし。

高輝度側・階調優先モードを使うと、ハイライトが抑えられるわけだから、本来その被写体に備わっている艶が抑えられてやや魅力が落ちてしまうという事も、カカクコムの掲示板で論戦が繰り広げられていた。例えば金属の被写体を撮る時には、白飛びが抑えられる反面、ハイライトの艶も抑えられてしまうので、被写体が持つ魅力を削いでしまうのだという。今回の撮影は被写体が人なので、金属的な艶もなく、高輝度側・階調優先をOnにしてもさして問題はないだろう。

さてどの構図で撮るかだが、イラストを見ると、どうも目線が下からのような感じがしたので、寝そべって下から撮ることにした。正面から撮った写真としたから撮った写真を見比べて貰ったら、レイヤーさんもしたから撮った写真の方が良いという事だった。イラストとは異なるが上からの写真も撮ってみた。ちょっとダイナミックに撮ってみたかったのだ。動きをつける意味での斜め構図も忘れない。

しかしどうもパース感が足りない気がする。もっと広角で撮りたかったが、この日はレンズ三本だけで、超広角レンズは持ってきていなかった。暈かす表現は恐らくこのイラストでは必要ないだろう、それにスタジオが白ベースだし暈かしてもな、ということで、24mmF1.4はもってこなかった。暈かしたければ、Otus2本を使えば事足りる。

というわけでこの日使えた広角の焦点距離が24mmまでだった。16mmでも良かった気がするが、広角表現というのは歪みやすいので、使いづらい。歪みと真っ直ぐ、この案配に気を配らないと、絵が破綻しやすくなる。

今回はイラストのように白い箱の形をハッキリとさせたいという要望もあり、肌を白く飛ばすというやり方ではなく、やや暗めで撮影した。

撮影中はこのようにいろんな事を考えているのだけれど、ひょんな事が頭に思い浮かぶこともある。床の間戦隊こたつレンジャー。撮影とは全く関係ないが、こういう柔軟性も必要な気がする。それだけリラックスして撮影しているという事だろう。