或る撮影の1日 – 撮り慣れたスタジオでどのようにしてコスプレイヤーが望む写真を撮っていくか

綺麗に撮るのは簡単なようで難しい。
綺麗に撮るのは簡単なようで難しい。

レイヤーさんが早速写真をTwitterの方に上げてくれたので、忘れないうちに解説していくことにしよう。

最初の一枚。オーソドックスな構図。ハコアム大阪の教会スペースでの撮影だが、まぁどう撮るか迷うところである。過去には背景を思いっきり暈かして撮ったり、ストロボを敢えて使わずにその場の環境光だけで撮影したりしたことがあった。しかし今回は明るいキャラであるから、明るく撮る事になった。

背景を暈かした方が良いかと聞いたが、背景もクッキリがいいという。そもそもスタジオでは、野外撮影と違って、スタジオの造りもしっかりと写っていた方が良い場合が多々ある。逆に野外なら通常使う標準もしくは中望遠レンズでの撮影では背景を暈かさないと、どうしようもない写真が撮れてしまうことの方が多い。

しかしハコアムじゃないみたいに撮るなら、暈かして撮るのが手っ取り早い。そこで迷うのである。

使用レンズはCanon EF24-70mm F4L IS USM。とりあえずF7.1まで絞って撮る。オーソドックスである。定番の一枚、という感じ。5年前ならこれでも問題はなかっただろう。何か一工夫欲しい。

70mm | F7.1 | 1/80s | ISO250
70mm | F7.1 | 1/80s | ISO250

とりあえずカメラマンである筆者はしゃがんで、2人の足が長く見えるようには撮った。後はストロボを後ろに光らせて明るく照らすことにした。十字架があるだけに神々しい写真が撮れるかもしれないと思ったからだが、背景が明るくなっただけだった。しかし比べてみると明るいイメージになったから良いのではないか。

カメラの設定について逐一解説していこう。カメラマンの真情を吐露するよりも、Exif情報に基づいた解説を載せた方が読者にとってはより有益だろう。人間の心境告白は個人的なものであり時に都合の良い嘘をつく事もあるので互換性が曖昧になりがちだ。Exif情報は嘘をつかないばかりでなく、互換性に優れている。同じ場所でその通りに撮れば同じ結果が得られるという点で有意義である。ひとつ問題があるとすれば、フルサイズとAPS-C機で写る範囲が異なる点だ。同じレンズを使う場合に同じ構図にしようとするとAPSーC機の場合は被写体から距離を取らなければならず背景の暈けが弱くなる。同じ問題を焦点距離の短いレンズに付け替えて対応しようとすると、これもまた暈けが弱くなる。その点は各自勘案して対処して頂きたい。

焦点距離70mmは歪みをより少なくするためにズーミングをテレ端側に寄せた。海外の写真教本を読んだ時にスタジオポートレートは焦点距離100mmだったか135mmで撮るのが良いと書かれていたことが頭の片隅に残っていたというのと、以前このズームレンズで35mmや50mmで全身を撮ったらどうも歪んでいるのかフレーム内で綺麗に決まらなかったことから、中望遠の領域を選んだ。

F値7.1は解像感を出すため。今回は暈かさなかった。

シャッタースピード1/80秒は手ぶれ防止機能の付いたレンズなので、シャッタースピードを1/焦点距離としてもブレないだろうと思ったから。ストロボも焚いているので、被写体は止まるはずだ。なるべく明るめに撮るように心がけた。

ISO感度250。高輝度側・階調優先をオンにすると、最低ISO感度が100から200に切り替わる。二人との白いスーツの衣装なので、高輝度側・階調優先をOnにして白飛び防止を心がけた。RAW現像でも白飛び防止は出来るが、その場合は暗めに撮らなければならない。現場で明るさを確認しながら撮るなら、高輝度側・階調優先をOnにした方が楽だ。

ISO感度を1600まで上げて撮る

次に同じ場所で、LEDライトに照らされた格子窓を前にして撮ろうという事になった。これはひょっとしたらISO感度を上げて撮ったら窓の明かりが神々しくなるかもしれない教会だしという事で、ISO感度を1600まで上げて撮ってみた。しかし元々暗くボンヤリしていた明かりが普通の明るさになっただけだった。

55mm | F7.1 | 1/80s | ISO1600
55mm | F7.1 | 1/80s | ISO1600

F値は先ほどと同じF7.1。シャッタースピードは1/80秒。やはり絞って撮っているから明るさがまだまだ足りないのだろうか。しかし明かり窓を明るくするためだけに、これ以上はISO感度を上げたくない。ノイズが気になるし、服の白飛びのこともある。

なんだかんだ言っても、これはこれで綺麗に撮れている。一つの収穫は、左側のレイヤーの子の顔が、LEDライトのおかげで美しいグラデーションを描いていることだ。ソフトボックスとアンブレラを使って撮ってもいるので、左の子の顔も綺麗に写っている。

F1.4で背景を暈かして撮ると空気感が出る

向かいの赤いスペースで撮影。前はここが教会やったな、なんて事を話しながら撮影していた。ここも背景をボカすかクッキリ撮るか迷うところではあるが、当人達に好みを聞いてもハッキリしない。そういうものである。ということで暈かす暈かさないの二通り撮ろうという事になった。

55mm | F1.4 | 1/250s | ISO200
55mm | F1.4 | 1/250s | ISO200

同じ場所で何度も撮影しているのだが、何度でも迷う。床と階段の縁がもう一つなので、そこはなるべく写さないようにしようとしたが、全身を撮ろうとすると当然床は写り込むわけである。以前の撮影で誰かは忘れてしまったがやはり床がダサいから写さないで欲しいと言われたことがあったので、今回も心がけた。

手っ取り早いのが横構図である。ウエストアップくらいで撮れば床は写らなくて済む。暈かすと空気感が出る赤い壁。ここで以前カラーストロボの光を背景に飛ばしたりして撮影したことがあったが今回はいらないという事で使わなかった。

スペースが狭いので、なるべく広めに写しかつ背景を思い切り暈かして撮るとなると55mmの単焦点レンズが最適だった。F1.4で二人の目にピントを合わせるのは難しいので、二人にはなるべく平行に並んで貰うよう心がけて貰った。実際に片方にはピントが合っていない写真が散見された。使用レンズはOtus1.4/55。開放で撮っても収差が出ない。並のレンズなら、いや15万円のLレンズでも白い衣装に収差が出る恐れがある。そこでこれらのレンズを使う事を仮定して収差を解消するためには、少し絞ってやる。どこまで絞って撮るかは、背景の暈かし具合と相談と言ったところだろう。F1.4から一段絞ってF2くらいがベストなのではないだろうか。収差を気にしない、もしくはキヤノンのカメラやレンズを使用している場合は、RAW現像時にCanon DPPを使う。収差を緩和できるメニューがあるので、その機能をオンにする。

背景を暈かすと描写に空気感が出てくる。スタジオ内で背景を暈かすことの効用でもあるが、今回は背景が深紅の場所だったので暈かしても描写は美しい。これがパステルカラーや明るい背景の場所だと、背景を暈かすと決まらないことが多い点に留意しておきたい。