関ヶ原 寺院でのロケ撮影シーンがダイナミックに迫ってくる映画

関ヶ原

司馬遼太郎原作。ずいぶん前に読んだので、原作とどれほどかけ離れているのかわからないが、NHKの朝ドラで主役をしていた女優のホープがくノ一の役で出演している。この忍びは原作にも出てくるらしい。

関ヶ原といえば2000年ごろにNHKで放送されたジェームズ三木脚本、津川雅彦、江守徹、西田敏行出演の大河ドラマ『葵徳川三代』がファンの間では今でも語り草になっている。タレントで歴史好きの松村邦洋が徳川家康演じる津川雅彦のモノマネを持ちネタにしているくらいで、先日も関ヶ原に絡んだイベントでそのモノマネを披露していた。
始まってしばらくしてから早速くノ一が活躍する。豊臣秀次の側室と侍女たちの処刑シーンだ。原作にはこのシーンはなかったように記憶しているが、とにかくこの処刑を描いた絵をリアルに再現していたシーンに鳥肌がたった。

冒頭のシーンは、司馬遼太郎のあの独特の語りから始まる。NHKの坂の上の雲も似たような挿入部だったが、『関ヶ原』では仏像がたくさん置かれた寺で翁と会話する少年時代の司馬が少しだけ出てくる。この寺だけに限らず、この映画は様々なロケ地で撮影しているが絵がとても圧倒的で素晴らしい。映画の醍醐味だなと思う。テレビドラマではここまではできないだろう。安っぽいセットになってしまう。大河ドラマで気にくわないのは、野外のシーンですらスタジオのセットで済ませてしまう点だ。例えば前年の大河ドラマ『真田丸』など、どう見ても草木や太陽が偽物なので安っぽく見えて興を削いだ。

豊臣秀吉もきちんと出てくる。冒頭のシーンの佐吉との運命の出会い、あの有名な三杯の茶の逸話が子気味よく描かれている。まるでフルコースの前菜のような旨味のあるシーンだ。演じるのは遠藤憲一。劇場版踊る大捜査線で生真面目な中国人刑事を演じていたのをはじめ、映画『愛の渦』では一転していかにもその辺にいそうな典型的なサラリーマンで濡場を演じ、今回の豊臣秀吉。はまり役といっても良い。老けメイクも見事だった。CGかもしれない。というのも役所広司演じる徳川家康も風呂のシーンで肌着を脱いだ時にものすごい太鼓腹で、狸親父と揶揄される家康だけにタヌキの置物くらいある腹の出っ張り具合でまさか役作りのために大食いした??!と何かの病気なのではないかと気遣うほどだったが、パンフレットを見たらあの腹はCGと書いてあった。

本戦が始まるまでに戦国武将たちの駆け引きが描かれるが、これがとてものめり込んだ。戦国時代後期のスターたちが綺羅星のごとく勢揃いしているのだから。福島正則は見た目コーエーテクモのゲーム『戦国無双』シリーズのキャラと髷の具合まで瓜二つだった。安国寺恵瓊は狡猾で小心なイメージを持った。加藤清正の勇壮なこと。三成の盟友大谷吉継は妖気を孕んでいたし、スペシャルゲスト枠といってもいい松山ケンイチ演じる三成の友、直江兼続は溌剌としていた。島左近演じる平岳大は前年のNHK大河ドラマ『真田丸』では末期の武田勝頼を演じて好評を博したが、今回は智勇兼ね備えた勇猛果敢な武者を演じる。石田三成役で主演の岡田准一を始め、これらの魅力ある登場人物たちが入り乱れて政治劇を繰り広げるのだから面白くないわけがない。先年にNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』で黒田官兵衛を演じた岡田准一の武将ぶりも板についている。とてもアイドルグループの一員とは思えない役者っぷりだ。

しかし戦闘シーンとなると、これまでの長々とした駆け引きと比べて、どうも単調に感じた。『葵徳川三代』は整然と整列した槍隊が、「槍隊構え、前へ、進めえ!」と各持ち場の武将たちがなんども同じセリフを繰り返して同じように槍隊が突撃して槍をカチ合わせていく。それに対して『関ヶ原』では、まずいつ戦が始まったのかわからなかった。ぼーっと見ているうちに見過ごしてしまったのかもしれないが、いつの間にか戦闘が始まっていた。そして乱戦になっていた。史実では徳川一門の松平忠吉を連れた腹心井伊直政隊が宇喜多秀家隊に鉄砲を放って先陣を切り、戦いが始まるのだが、そのシーンがあったのかどうか、映画を観終わって1ヶ月近く経ってもよく思い出せないくらいに印象が薄い。福島正則、宇喜多秀家、細川忠興、小西行長、島左近、大谷吉継、黒田長政、それらの隊が出てくるのだが、どうもフォーカスが弱いように感じた。各武将たちの勇壮な指揮を見たかったのだが、あまり印象に残っていない。その代わり、徳川軍の白に黒抜きの葵の旗指物を指した隊が頻繁に見えた。家康軍とわかりやすいが実際にはどうだったのだろうか。戦闘中は徳川家康本体はまだ待機中だったような記憶がある。史実では家康隊は3万とも言われているが、どうもこの三万は荷駄隊で息子の秀忠本隊が徳川の本軍だったという説をどこかで聞いた覚えがある。三万もの部隊が有ればそのまま前進すれば簡単に戦局を変えられそうだが、笹尾山の小早川や背後の南宮山に控える毛利の大軍がどう動くかわからなかったから、じっと止まっていたのだろうか。その実質荷駄隊の徳川家康軍が果たして戦闘に積極的に参加したのかどうか。その辺りのことがあったので、葵の旗指物が乱戦シーンに出てきた時にリアリティを削がれたのだった。

島津惟新斎義弘を演じるのは『葵徳川三代』でも同役を演じていた麿赤兒。お付きに武蔵坊弁慶のようないでたちの武者が出ているが結構細かいところにも配役が行き届いている感がした。大河ドラマのファンにはたまらない配役だろう。最後に家康の陣への中央突破のシーンが見られるかと期待したがなかった。やはりこの映画は三成が主役であるし、その勇猛果敢なシーンをやってしまうと三成が陰ってしまう。

配色が濃くなった三成は医療班などに逃げよと促しながら自らも戦場離脱するが、大砲が左右に炸裂しながら日の丸構図で逃げていく三成の姿が、どうも演出過多のような感がしてリアリティが削がれた。パンフレットを見ると戦闘シーンは海外風を目指したとあるのでその影響なのだろうがどうも安っぽい。この手のスペクタクル映画は最後の最後まで派手にやらないと成り立たないのだろうか、仕方がないといえば仕方がないが。

映画というのは長時間同じ椅子に座り続けなければならず、映画の良し悪しによりこれが快楽にも苦痛にも変わるのだが、『関ヶ原』は2時間半とという長時間の大作なのに全く苦にならなかった。原作からやや逸脱してしまったシーンもなくはないが、それも映画の醍醐味だろう。