本能寺の変があっという間に終了 – 真田丸第四回「策略」感想

真田丸 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)

今回は真田昌幸(草刈正雄)・信繁(堺雅人)親子が、生涯の敵徳川家康(内野聖陽)と運命の出会いをするシーン。傍らには本多忠勝がいる。

第2回で初登場の本多忠勝は、初代仮面ライダーでおなじみの藤岡弘、(読点までが芸名)が演じているが、ご本人も日本刀を嗜んでいるためか、武士の気概が伝わってくる演技力に目を見張らずにはいられない。

徳川家康-本多正信ラインがとても醒めた感じのする武将として演じられているので、その対局として戦国時代の生き残りのような無骨さを顕した本多忠勝は、ややもすればコメディに陥りがちな三谷幸喜脚本の当ドラマの中でも異彩を放っている。ドラマがあまりにも軟弱な武士だらけのイメージににならないようストッパーを果たしている。

自身の作「新撰組!」へのオマージュ?

舞台は諏訪の法華寺であろうか、それとも仁科盛信が自刃した高遠城であろうか。弓がズラッと並べられているところへ信繁が感心したように顔を出し、ここで家康・忠勝と対面。確かにいつでも戦構えができていて凄いが、当家では弓の先に車を着けて一気に運びやすいようにしていると自信満々に語った後に、「私が考えました!!」と弓の束の間から茶目っ気たっぷりに顔を出し、誇らしげに言う。

この台詞、同じ三谷幸喜が脚本の「新撰組!」をご覧になった方なら覚えているだろうが、八島智人演じる新撰組隊士の武田観柳斎が口にしたセリフとソックリである。史実によると甲州流軍学に秀でた武田観柳斎は何かと自分の手柄を誇張する癖があったらしく、果たしてドラマの中でこの性格をどのように演じられるのだろうと関心を寄せながら当時「新撰組!」を視聴していたら、手に入れた敵方の密書か何かを「私が見つけました」「これも私が見つけました」とやたら行為がデフォルメされて面白く演じられていたのを今でも覚えている。

「新撰組!」は堺雅人も山南敬助役で出演していたが、そのシーンを観て、なるほどこういう遊びもするのだなと、面白く思った。山南の潔癖で静謐なイメージとは違い、信繁は茶目っ気たっぷりで愛くるしくもある。

目の前の家康をてっきり家来だと勘違いしていたとジャブを繰り出す信繁だったが、後年家康に三度も自害を覚悟させたと言われる真田信繁と徳川家康との対面シーンは、なんとも穏やかに過ぎていった。

昌幸と家康、バトル開始

昌幸と家康の対面シーンでは、三方ヶ原の戦いの時に煮え湯を飲まされたと家康が苦々しく語るシーンがある。武藤喜兵衛という信玄子飼いの武将に。その武藤喜兵衛こそが真田昌幸なのだが、長男次男が長篠の戦いで戦死してしまったために家督を継ぐことになり、姓を真田に戻した経緯がある。

三方ヶ原の戦いと言えば、武田信玄の軍略に城から三方原へと誘い出された家康が大いに負けて、逃げる途中で糞を漏らした逸話の残る戦いでもある。家康があり得ないほど善人に描かれた大昔のNHK大河ドラマでは、滝田栄演じる家康に「馬鹿を言うな!腰味噌じゃ!」とフォローさせていたが、のちに東照大権現になる人も負け戦から逃げる怖さで糞を漏らしたのだと思えば、我々も心安くなるではないか。神様も糞を漏らしたのだから、我々だって恥じ入ることはない。

しかしこのシーンの時点ですでに、昌幸と家康の戦は始まっているようだ。冒頭控えていた昌幸の手のひらに、今回も胡桃が握られていた。このシーンを観ただけで、「真田太平記」をリアルタイムで楽しんだ世代は垂涎していることだろう。異なる作品でも時代を超え世代を超えて繋がっているのだ。

昌幸と家康の知恵比べのシーンが見物だった。上杉景勝に送った密書を織田信忠の前で問い糾され、我らのようなか弱い国は周りの大名たちのご機嫌を取らなければ生き残れないなどとのらりくらりとかわしていく昌幸だったが、「周囲の大名から高く買われているよう自らを見せるための策略であろう、奥に直江兼続がいるからそなたの弁明が真のものであるかどうか聞いてこようか」と揺さぶりをかける家康に対し、昌幸も一歩も引かない。家康のブラフであることが打ち明けられ、織田に臣従すること叶い、見事「戦(いくさ)」に勝ったのだった。

滝川一益を再び演じる段田安則

その喜びもつかの間、上野国の岩櫃城と沼田城を織田に差し出すよう織田家重臣の滝川一益に告げられる。上様のお下知であるから逆らえないと。滝川一益は武田攻めの恩賞として上野一国を与えられるが、本当は珠光小茄子という茶器を欲していて悔しがったと伝わる人物である。他にも庭にとまった雀をみて、あの雀のように命を狙われることもなく自由気ままに戯れることができたらなぁと大身となった己を儚む逸話が残っているなど、過酷な戦国時代を生き抜いてきた武将にしては、なかなか繊細な心の持ち主のようでもある。むしろ親族でさえ信用できない過酷な時代だからこそ仏の道にすがったり、心の平安を求めて侘び寂びの精神が生まれたりしたのかもしれない。

そんな風流人でもある滝川一益もまた、本能寺の変後には戦国武将としての運命に翻弄される。演じるのは個性派俳優、段田安則である。以前別の大河ドラマ「秀吉」でも、段田安則は滝川一益を演じていた。確かNHKの大ヒットした朝の連続テレビ小説「ふたりっこ」で大阪天王寺の豆腐屋の父親を演じていたときと同じ頃の大河ドラマだっただろうか。

芦屋の豪邸に住む高島忠夫演じる実業家夫婦の娘が、大阪天王寺の豆腐屋の男と結婚して(今で言う格差婚というやつだ)生まれた双子の女の子の物語で、一人は大阪新世界の将棋センターで将棋の腕を鍛え上げて棋士に、もう一人は化粧品の会社を立ち上げるが失敗してしまうという話で、当時このドラマは社会現象になるほど大人気となった。双子の女の子の少女時代を演じた二人も本物の双子で、今も芸能界で活躍している一方で、大人時代を演じた菊池麻衣子と岩崎ひろみは、最近あまり名前を聞かなくなってしまったのが残念だ。菊池麻衣子は震災前に制作された映画「シーズレイン」で主役を務めている。この映画は神戸や芦屋などでロケが行われ、震災前の阪神間の様子などが映像として残っている貴重な映画となっている。

話が逸れてしまったが、その時も滝川一益を演じていた段田安則が、今回どのような演技を演じるのかが今後見物だ。前回は北条との殿戦の気苦労で頭髪が真っ白になった段田安則演じる滝川一益がふらふらになって清洲会議に登場したので、今回も頭髪が真っ白になって現れるのだろうか。

光秀折檻シーンのセリフの補足

織田信長も登場した。演じるのは吉田鋼太郎。最近ではマーベラスがリリースしている「剣といにしえのログレス」のCMで「ログレスのように!!!」と声高に叫ぶいきなり何事?!?な上司の役ですっかりお馴染みとなった。信長はブーツを履き、南蛮風の首にヒラヒラのついたシャツを着ている。五〇前の人にしては少し老けすぎているような気もするが、ドラマなので気にしない。そして光秀も登場。誰だろうと疑問に思ったが、明石家さんまの知的情報バラエティ番組「ほんまでっか?」に出演している伝統文化評論家の方のようだ。

無事お家安泰も決まりホッと部屋で一息ついている信繁の元に、信長の怒鳴り声が聞こえてくる。「お主が何をしたというのじゃ!!お主が何をした!何をしたああああ!!!」と怒鳴りながら、光秀を折檻する信長。信繁と目が合った光秀は、不敵な笑みを浮かべる。お見苦しいところをお目にかけて申し訳ないという風でもあるように。インタビューによると、信長に心酔しているように演じたということだが、果たして。しかし人は突拍子もない恐怖感にさいなまれると、意味不明な笑みが漏れるものなのかもしれない。助けを求める救いようのない笑みなのか、それとも気が動転して漏れ出た笑みなのか。

このシーンの信長の「お主が何をした!」のセリフであるが、メインの箇所が省かれている。これには経緯があって、長年の宿敵武田家をようやく滅ぼした祝賀の席で、光秀が「我々も骨を折った甲斐がありましたな」と口にするのだが、それが信長の勘気に触れてしまい、ドラマのシーンのような折檻を加えられるのだ。骨を折ったと喜んで口にしたら、ガチで骨折させられそうな不条理な展開となったわけだ。どうもこのあたりの信長の心情が分かりづらい。そして史実によると本能寺の遠因とも目される折檻の舞台となったのが、冒頭で述べた諏訪の法華寺ということらしいが、ドラマの中では辻褄合わせの為か高遠城という設定になっている。

その約3ヶ月後、姉を信長の元に人質として差し出すために信繁一行は安土に訪れる。安土城下は南蛮人や黒人などが行き交う国際色豊かな城下町として描かれている。その夜、信繁は虫の知らせで不意に目が覚める。本能寺の変である。光秀が「敵は本能寺にあり!」と叫び、寺が燃えさかる。その間およそ15秒。吉田鋼太郎演じる信長は一切登場せずに、15秒のシーンで本能寺の変が起こったことを示唆して、第三回は終わる。

あっけなく終わった本能寺の変。1600年の天下分け目の戦い関ヶ原もあっという間に終わるのだろうか。真田昌幸・信繁親子は徳川秀忠率いる三万の精鋭を前に信州上田城に籠もって徳川軍を右往左往に翻弄するので、関ヶ原はメインシーンとはならない。おそらくまた「功名が辻」他の大河ドラマでもやったように、「葵徳川三代」の関ヶ原のシーンを使い回すのだろう。NHK歴史ドキュメンタリーでも頻繁に使い回されている件のシーンの数々は、関ヶ原を描いた映像としては最も秀逸で、何度見ても血湧き肉躍る。

さて次回は、様々な武将たちが変を機に翻弄される展開となるだろう。神君伊賀越えと後に称される堺から本拠地三河への逃避行を敢行する徳川家康一行と、痔の為に逃げ遅れる穴山梅雪の運命、襲いかかってくる北条の軍勢から逃れる滝川一益、真田家もまた新しい外交戦を仕掛けることとなるだろう。真田丸、次回も見逃せない。