藤井隆の思い出 -真田丸第3回感想

真田丸 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)

今週も真田丸を観た。オープニングが終わって、砂で象られた六銭門を背景に、有働由美子アナウンサーが、朝の情報番組とはイメージの違う声で、これまでのあらすじを読み上げるシーンに毎回胸打たれる。信長の野望でシナリオを選んだ時に発生するシナリオ解説シーンと重なるからだ。

徳川家康と本多正信のコンビは、仁科信盛が自害して果てた高遠城跡を視察していた。そこへ藤岡弘、演じる本多忠勝が、あの有名な大きな数珠をたすき掛けした鎧姿で、武田方の戦死者に対して念仏を唱えている。

家康・正信と忠勝は対照的だ。最後まで死力を尽くして戦った敵方の武士を称えるために、仁科信盛が切腹して果てた血染めの跡まで見せようととする信心深い忠勝を家康は煙たがる。

晒されるであろう武田勝頼の首をその後家康が預かって手厚く葬る旨を告げるが、忠勝はただただ武士道精神から純粋に賛同し、家康と正信はその意図を武田の家臣や領民を手名付ける為のパフォーマンスである事を隠さない。非常に対照的で各キャラクターが鮮明に見え面白い。こういった分かりやすく対比させた脚色も演劇風だなと思う。
また家康の性格が細かい。信長様は綺麗好き故に刺さっている矢も抜いて血の跡も掃除しておけ、白い砂を撒いておけと家臣に指図する。後に天下人となる人なのに、ムチャクチャ気を遣っている姿が滑稽で面白い。

さて、肝心の主役の信繁は、長澤まさみ演じる娘に櫛をプレゼントするが、その櫛よりも華やかな柄の櫛を、別の垢抜けない娘にプレゼントする。二股か?それにもめげず長澤まさみ演じる娘は足を怪我した振りをして、信繁におぶって貰おうとする姿が、いじらしい。思い人の背中を感じたくて、今時こんな可愛らしい嘘をつく娘がいるだろうか。いたとしたらよっぽどイノセントなのだろう。大体大河ドラマのメインディッシュは、謀議や策略や戦争シーンなのでの、恋愛シーンは作り話臭くてつまらなくさっさと終わってくれないかなと思うものだが、珍しく飽きずに拝見出来た。

上杉景勝に文を届けようとした藤井隆演じる佐助が殺されたかと思ったら、これもまた昌幸の謀略で、この人凄いなと展開にビックリした。歴史好きなので、真田昌幸がどれだけの謀略家かはよく知っていたが、改めて徳川の大軍を二度も翻弄した謀略家の面を、一連の種明かしのシーンで実感することが出来た。

それにしても藤井隆は物凄い出世だ。昔毎日放送で放送され伝説となった深夜番組「テレビのツボ」で、チャンネル君の1人として、その日面白かった番組をクリップボードに描かれたイラスト付きで紹介していた。イラストは別のイラストレーターが描いた物だろう。

その番組は、同じ吉本芸人のぜんじろうと、大桃美代子、藤岡久美子の3人が司会を務めていた。3人はその後、同じ毎日放送の夕方の情報番組「屋台の目ぇ」の方でも共演したが、残念ながら深夜番組独特の魅力をお昼の番組で出すのは難しかったのか、直ぐに番組終了してしまった。ぜんじろうはその後はNHK朝の連続テレビドラマ小説に準レギュラーとして出演したりと、東京へも大々的に進出したが、東京の水が合わなかった様だ。その後アメリカにも行ったらしいが、いつの間にかテレビで名前も聞かなくなった。今現在は神奈川のラジオ番組をやっているようだ。

「テレビのつぼ」は業界人の間で有名だった様で、明石家さんまの後継者と目されていたらしい。ちなみにハンコ型の番組タイトルロゴは、その後フジテレビの朝の情報番組「めざましテレビ」にもソックリな物が使われた。

大桃美代子はその後NHKの夜8時のクイズ番組「日本人の質問」に博士として出演。藤岡久美子は朝5時ののニュース番組でニュースを読んでいた姿を見たことがあるが、その後は外国人と結婚して幸せな生活を送っていると聞く。

テレツボに出ていた頃の藤井隆が、NHKで放送された「シャーロック・ホームズの冒険」の「犯人は二人」の回で、「探偵なのにもう盗みに入るしかないとかナンデヤネン!」と突っ込んでいたのを今でも覚えている。とても大好きなドラマなので、そういう意見もあるのだなとそのときは思い、いやそこはそうじゃないんだよこうこうこういう所が魅力的なんだよと、反駁したい気持ちがわき起こった。

その後藤井隆は吉本新喜劇でオカマキャラを演じて頭角を現し、レギュラー番組も持ち、歌も出して一時飛ぶ鳥を落とす勢いとなった。意外なものである。その藤井隆を大河ドラマで毎回拝めるのだから、デビュー当初、まだ無名だった頃からテレビで彼を見ていた自分としては、感慨深い物がある。

さて、話が逸脱してしまったので「真田丸」に戻す。大泉洋演じる真田信之は、純粋真っ直ぐな性格のためか、父昌幸にすら騙されてしまう。敵を騙すにはまず味方から。伸之には謀略の仕事は似合わない。その真っ直ぐな性格故に、犬伏の別れでは、そのまま徳川軍を裏切らずに東軍につけたのだろうし、また彼の性格としてもそういった役柄が似合っている。結果として真田家はお家存続となった。そして信州上田藩の藩祖となった。

それにしても草刈正雄演じる真田昌幸は憎めない人柄だ。こんなにも人を騙して、あれこれと策謀を巡らせているのに。かつて陣内孝則が演じた稀代の謀略家である宇喜多直家や、今回内野聖陽が演じている狸親父の徳川家康は、どうも恐ろしかったり憎々しかったりするのに、昌幸はどこか愛くるしい。

そして今回も、草刈正雄演じる昌幸の掌には、硬い胡桃の実が2つ握られていた。このシーンを見るに付け、かつて草刈が「真田太平記」で幸村を演じていたのを思い起こさずにはいられない。こちらは憎らしい演出である。