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マチルダ 禁断の恋 – 史実に基づいたロシア最後の皇帝とバレリーナとの恋愛模様

マチルダ 禁断の恋

『アンナ・カレーニナ』に続いてロシア映画を観に行ってきた。ロシアを題材にした映画だと、過去にも『アンナ・カレーニナ』や『戦争と平和』などは幾たびも映画化・テレビドラマ化されているが、ロシア語ではなく英語圏の制作で役者が英語を喋っていたりと、やや興ざめする事もあるのだが、今回は前回と引き続きロシア映画でロシア語が聴ける。しかし主演二人の役者はドイツ人やポーランド人の他、脇役にロシア人やリトアニア人なども配し、国際色豊かなキャスティングとなっている。

内容は波瀾万丈な人生を送ったマリインスキー・バレエ団のバレリーナ、マチルダ・クシェシンスカヤと、ロシア革命で処刑される悲運の皇帝ニコライ2世の史実を元にした19世紀末の恋愛劇。本国ロシアではそのセンセーショナルな題材から、ロシア正教の過激な信徒が抗議するなどして一時上映禁止に追い込まれたりもした話題作だ。監督はアレクセイ・ウチーチェリ。

予告編を見たときから、煌びやかな服を身にまとった大勢の貴人達が集う戴冠式のシーンが美しすぎて楽しみにしていた。エカテリーナ宮殿やマリインスキー劇場、ボリジョイ劇場などをロケ地とし、この映画のために制作された衣装は7,000点、エキストラの数は最大2,000人という豪華さ。これは観ないわけにはいかない。

あらすじ

ロシア皇帝一家を乗せたお召し列車が走行中に脱線事故を起こし、皇帝アレクサンドル3世は家族を逃すため身を挺して列車の下敷きになり重度の障害が残る。皇位継承者としての重責が皇太子ニコライ二世(ラース・アイディンガー)の双肩にのしかかる中、バレエ観劇中にマチルダ・クシェンシンスカヤ(ミハリナ・オルシャンスカ)がアクシデントから乳房をはだけさせるのを目撃する。帝国旅団の競技会で再び相まみえた二人は関係を持とうとするが、マチルダに思いを寄せていたヴォロンツォフ大佐(ダニーラ・ゴズロフスキー)に襲撃される。

皇太子の寵愛を受けたマチルダは、バレエ団の中でも嫉妬の対象となっていくが、マチルダは意に介さず自らの夢を実現させようと練習に励む。一方でニコライ二世の婚約者ヘッセン大公女アリックスはマチルダを目の敵にする。宮廷内からも歓迎されない色恋沙汰と見なされ肩身が狭いマチルダだったが皇太子のマチルダへの愛情は日に日に増していった。

神秘教に取り憑かれていたアリックスはフィッシャー博士に唆されて、マチルダと口論の後、猛練習の末に血が染みこんだマチルダのバレエシューズを手に入れる。秘密裏に処刑を免れてフィッシャー博士の実験体となっていたヴォロンツォフは、水槽内に博士を引きずり落として殺し、マチルダを追う。一度は帝位を諦めてマチルダと結婚することを決意するニコライ二世だったが、マチルダの乗ったボートが彼女との心中を願ったヴォロンゾフに放火され爆発、それを目の当たりにしてマチルダが死んでしまったと思い込んだニコライは帝位を継ぐ決意を固める。

戴冠式の日、ニコライ二世の元にマチルダが現れ、ニコライの渾名を叫ぶ。卒倒するニコライだったが気を取り直し、王位継承者の証である王冠をその頭に戴く。

戴冠式と共に開催された即位記念の祝賀会場で、記念品に群がってきた群衆が将棋倒しになり、千人以上が死傷するという大惨事が発生、ニコライ二世は陣頭指揮を執り、葬列を照らし慰霊するため、自身の皇帝即位を祝うはずだった花火を盛大に打ち上げるのだった。

ただただ豪華なシーン、近未来的なトリックも

冒頭、お召し列車の大事故のシーンがまず目を引いた。史実に基づいた事故らしく皇帝を守ろうとする兵士達なども迫真の演技、ああふと王様というのはこういうカリスマ性がありそれに呼応する忠誠心という美しい産物に憧れたりするからフランス革命以来いくつもの王室が打倒され民主主義が蔓延る世の中でも皇室というものは否定できないのだなと感じた。食堂で食事中の出来事であることも再現されている。傾く列車の残骸をアレクサンドル3世がそのガッシリとした体躯で支え家族を逃すシーンは、全くジャンルの異なる映画『グーニーズ』のラストでスロースが他のメンバーを逃すシーンと重なって一瞬懐かしくなった。

他にも史実に基づいたエピソードを交えつつストーリーが続く。マチルダに激しく片思いしたヴォロンツォフ大佐の婚約者は実際にセリフにある通り、これがきっかけで首つり自殺している。ニコライ二世の婚約者アリックスは劇中でも神秘教に取り憑かれていて、怪しい博士の言われるがままにニコライ2世とマチルダの仲を引き裂くため血の付いたバレエシューズを手に入れるが、後年アリックスの息子で皇太子のアレクセイの血友病を治癒した怪僧ラスプーチンに傾倒していく萌芽がこれらのシーンから汲み取ることも出来る。アリックスを演じるのはルイーゼ・ヴォルフラム。ドイツ人で、どことなく面影がケイト・ブランシェットに似ている。

戴冠式のシーンもさることながら、バレエのシーン、バレリーナ達の記念撮影のシーン、皇帝即位の祝賀会場のシーンと見所が多い。エカテリーナ宮殿などの豪華なロケ地や戴冠式のシーンのセット以外にも、やはりエキストラの多さが豪華に見せている一面もあるのだろう。

一見古風なシーンばかりかと思えば、ずいぶん近未来的でスチームパンク風オカルトチックな水槽による自白強要器具なども登場して目を見張る。どことなくフランケンシュタインの蘇生シーンを彷彿とさせた。

ラストの祝賀会場での事故シーン(ホディンカの惨事)、ちょうど近い時期に富山の駅前で大学生がチョコパイを配って大行列ができた小事件がニュースになり批判を浴びていたが、年末のバラエティ番組で檻に入れられた芸人のいる遊園地の無料開放を告知して視聴者が殺到した騒動といい、群衆による将棋倒しの危険性を全く考慮に入れておらず(過去に明石市花火大会では歩道橋の将棋倒しにより11人が死亡)、軽率だなぁという印象を抱いたと同時に歴史は大なり小なり繰り返されるのだなと、そこはかとない普遍性を感じずにはいられなかった。映画の中では警備担当者の責任を問うようニコライ二世が指示しているが、史実では大惨事にもかかわらずそのまま祝賀行事に出席したことが民衆、特に貧困層の反感を買ったそうだ。後のロシア革命による処刑を暗示させるかの様な幸先の悪い皇帝即位に絡む出来事でもある。

史実ではニコライ二世とその妻アリックス(結婚後はアレクサンドラ・ヒョードロヴナ)はロシア革命が吹き荒れる中で処刑される。一方マチルダは革命から逃れ、亡命先のパリでニコライ2世の従弟であるアンドレイ・ウラジーミロヴィチ大公と結婚、99歳という長寿を全うした。