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ルーブル美術館展 – 肖像としての絵画や彫刻で巡る芸術の変遷

大阪市立美術館で1月14日まで開催されている「ルーブル美術館展」。ルーブル美術館に所蔵されている作品の中から肖像としての絵画や彫刻にターゲットを絞って数多くの貴重な美術品が展示されている。古代から近代まで肖像画や彫刻が担わされた役割や性質を辿ることが出来る。

古代では王達の彫刻は神に捧げる目的の他に、民衆に王の権力を知らしめて権威を高めるための装置として利用された。これなどは貨幣に王や皇帝の肖像を刻ませて全領土に王の存在と権威を流布させたのと似ている。今でいう国家に統制されたメディアの役割を果たしていた。ナポレオンの時代までは古代と同じ理由で彫刻が作られ各地に設置されていたが、産業革命により王侯貴族に変わりブルジョワ層が台頭してくると、個人の記念や記録用に肖像画が描かれた。そこにはかつての権威を誇るための役割は消失し、今でいう家族写真のような意味合いを帯びてくるようにもなる。また顔相学に基づいた実験的な彫刻や一風変わった肖像画なども制作された。

このような変遷を美術館をぐるっと回ることで体感することが出来る。

女性の肖像。2世紀後半のエジプト、テーベ?から出土。1,800年前の物とは思えないくらい写実的な女性の顔が板に描かれている。肖像画や彫刻全般を見て言えることだが、人間の顔の美醜に対する感性は2,000〜3,000年前からそう変わっていないのではないかと思わせる。

奉納物を抱える王の祈祷像。イラン、スーサ、アクロポリス遺構のインシュシナク神殿で発見。ハンムラビ王辺りの時代の、よく見かける長い顎髭に帽子。世界史の漫画で代々の王が出てくるが、皆同じ顔と髭なので見分けが付かない奴。王の頭部、通称ハンムラビ王の頭部も同じ。

狩りの女神ディアナとして表された若い娘の肖像。イタリア、クマエで発見?150-170年。この時代の彫刻になると非常に写実的になってくる。着物の襞の表現などがとても細やか。

ブルボン公爵夫人、次いでブーローニュおよびオーヴェルニュ伯爵夫人 ジャンヌ・ド・ブルボン=ヴァンドーム(1465−1511)。ペストで死んだ女性の遺骸を彫刻で表現。乳房から腹にかけて虫に食われていたり、腸が出ていたりとグロテスクだが、似たようなものでは日本にも橘嘉智子の皇后九相観が有名。信心深い皇后は自身の遺骸を野に放置して鳥獣の飢えを救い、諸行無常の真理を示すために、肉が腐り骨になるその様子を描いて残すよう遺言したという伝説がある。

フランスのマルタ騎士団副総長アマドール・ド・ラ・ポルト。1647年。甲冑の上に僧衣をまとった恰幅の良い髭の男。これだけで格好いい。しかもマルタ騎士団という伝説的なタイトルが付いているだけで滾る。

マラーの死。1794年。フランス革命の英雄マラーが風呂で死んでいる肖像。思想的に対立する女に暗殺された。怖い絵展でも見た記憶がある。

アレクサンドロス大王の肖像、通称アザラのヘルメス柱。神話の神アキレウスに心酔していたアレクサンドロス三世の気性の激しさがうっすらと開いた唇からどことなく伝わってくる。集英社から出ていた世界の歴史人物事典の肖像画として採用されていた彫刻か。

ホメロスの架空の肖像。1世紀(前3世紀または前2世紀半ばにギリシアで制作された原作に基づく)。イリアスやオデュッセイアの作者とされるホメロスの像。文人らしい険しさ。これも前述した漫画事典に採用されていた彫像だろうか。

アリストテレスの肖像。前2世紀。アレクサンドロス三世の家庭教師で、ソクラテスの弟子のプラトンの弟子だった古代ギリシアの大哲人アリストテレス。アカデメイアの自身の学園の教科書として使用されていたらしいプラトンの著作は読みやすくて頭の中にするする入ってくるけど、アリストテレスの『ニコマコス倫理学』は、法律試験の参考書みたいで論理的すぎてちょっと読む魅力に欠ける。全体的にツルッとした丸い感じの顔立ち。

神官としてのアウグストゥス帝の胸像。ローマ初代皇帝のアウグストゥス、穏やかな顔立ち。

トガをまとったティベリウス帝の彫像。長身の像だった。顔も良いがまとっているトガの襞がとても印象的。むしろ余り特徴のない顔よりもトガメイン。インド料理店の料理に喩えるなら、具材はサブで、ナンがメインみたいな。

胴鎧をまとったカラカラ帝の胸像。暴君として有名なカラカラ帝の像。今まで見てきたローマ皇帝像と違い、眉間に皺を寄せて何やら険しく野戦に長けた風の顔立ち。獅子のような顎髭がその威厳を高めている。

ハドリアヌス帝の理想的肖像。こちらも顎髭を蓄えていて男らしい。

一転して、レオナール・リモザンの国王アンリ二世の肖像の飾り板。ローマ皇帝と比べるとぬぼーっとした面長の横顔。顎髭が長いから顔がより長く見える。この時代になると生え抜きの皇帝というよりも世襲の王だなという印象。

聖別式の正装のルイ14世。世界史の教科書にもよく載っているルイ14世の肖像画。ユリの紋章の入った豪快なマントの色使いが素敵。肖像画は大抵美化されているそうだが(隣の主婦二人連れが毒づいてた)、そういえばルイ14世は医師の薦めに従って歯を全部抜いていたから、食事中も常に下痢状態で香水を振りまいていたとかウィキペディアに書いてあった。個人のページにもその辺りの逸話が紹介されている。

ヴェルサイユ宮殿とルイ14世、ルイ16世(古墳のある町並みから:外部サイト)

お隣はトマ・ゴベールのフランス式の衣服をまとったフランス国王ルイ14世。こちらの彫像も上品な顔立ちにして凜々しさを兼ね備えている。ピレネー山脈を越える美化されまくったナポレオンの肖像画にも似通っている胸躍る猛々しいポーズ。

フランチェスコ・マリア・スキアッフィーノのリシュリュー公爵ルイ・フランソワ・アルマン・デュ・プレシ。これは素晴らしい。素晴らしく可愛い。レースにあしらわれたジャボに、こちらもレース仕様のふくよかな裾、大きなリボンの付いた靴に、白のハイソックスとこれまたリボン。でもモデルはおじさん。しかし如何にもフランスの貴族といった呈で男性用の服装ながらも可憐で良い。

アントワーヌ=ジャン・グロのアルコレ橋のボナパルト。劣勢を立て直した際のボナパルト将軍の肖像。蒼白の顔面で旗を振っている。この頃は髪がフサフサだった。チケットにも印刷されており、今回の美術展の顔でもある。

アンヌ=ルイ・ジロデ・ド・ルシー=トリオゾンの戴冠式の正装のナポレオン1世の肖像。バストアップだけ。全身像は無し。この頃は髪を短くカットして、デコチンが広い。冠はローマ皇帝式、白い肩掛けはフランス王式と、和洋折衷みたいな出で立ちで権威を象徴する。

クロード・ラメの戴冠式の正装のナポレオン1世。今回の美術展の目玉の像の1つ。背が高い!権威の威圧感!後ろを見るとマントに「N」の紋章!このような像がフランス各地で造られて設置されたという。まさにフランス皇帝としての権力をフランス全土の臣民に誇示するための装置だが、後にレーニン像やスターリン像もソ連の各地に設置されていたのをふと思い出す。

フランチェスコ・アントンマルキのナポレオン1世のデスマスク。ナポレオンの嘘偽りない美化されていない顔。じっくりと眺めてみると偉人が目の前で寝息を立てているよう。うちの親父の寝顔みたい。

ジャン=アントワーヌ・ウードンのアビ・アラ・フランセーズ(フランス式の宮廷紳士服)をまとったヴォルテール(本名フランソワ=マリー・アルエ)。啓蒙思想家ヴォルテールの彫像。経路を辿るとちょうど横顔から見えることになり、ずいぶんと面白い顔立ちの彫像だなぁ誰だろうと正面に回って見てみると、ガラリと印象が変わり好好爺が出迎えてくれる。解説にはヴォルテールの名が。各国の啓蒙君主に請われて交流も広かった思想家ヴォルテール。コーヒーとチョコレートの混ぜ物が好物だったとか。

ジャン=アントワーヌ・ウードンの古代風の衣服をまとったジャン=ジャック・ルソー。こちらもフランスを代表する哲学者。フランス革命に影響を与えた『人間不平等起源論』や『社会契約論』、現代の教育に恵まれた時代から見るとちょっと子供の自尊心を傷つけすぎとチャウ?的な部分も垣間見えるが当時としては革命的な教育書『エミール』など。見ると晩年の彫刻っぽいので『孤独な散歩者の夢想』を執筆していた頃を彷彿とさせる顔立ちだろうか。危険人物として官憲から監視され後をつけられ、頭も禿げていたから鬘をつけていたとか。しかしこの彫像では髪はフサフサに見える。

ピエール=ジャン・ダヴィッド・ダンジェのオノレ・ド・バルザック。フランスの文豪バルザックの横顔のレリーフ。肖像写真で見るとブルドックみたいな顔立ちだったから、やや美化されすぎか。

国王の嗅ぎタバコ入れの小箱「国王の嗅ぎタバコ入れ」のためのミニアチュール48点。マリー・アントワネット、ルイ14世、ルイ16世、アンリ4世などのフランスの貴人の他、マリア・テレジア、ピョートル大帝、フリードリヒ2世、ナポレオン1世などの肖像48点を集めた豪華なミニアチュール。現代のカードゲーム、スマホゲームのFGOみたいで蒐集癖がある人は喉から手が出るほど欲しくなるような豪奢な一品。

ルイ=シモン・ボワゾのフランス王妃マリー=アントワネットの胸像。最初に制作したのが高慢ちきに見えると不評だったので、鼻を低くしたか細くしたりで少し造形を変えて製作された一品。どちらにしても高慢ちきに見えるが、加齢によるふくよかさが加わっているせいかもしれない。37歳で断頭台の露と消えたので、それほど年というわけではないが、当時は気苦労も多いから老けやすかったのだろうか。髪は高々と結い上げられており、舞踏会などではこの頭髪にガレオン船をあしらった模型を乗せて浮かれ騒いでいたのだろうなと連想。

視線を反転させると、マリー・アントワネットの忘れ形見でフランス革命の荒れ狂う大波を辛くも生き抜いたマリー=テレーズ=シャルロット・ド・フランスの巨大な肖像画が展示されている。アントワーヌ=ジャン・グロのアングレーム公妃マリー=テレーズ=シャルロット・ド・フランス。こちらは母のマリーアントワネット像と異なり、優しげな気品が漂っている。若い頃の美輪明宏にも似ている。

更に右に視線を向けると、ディエゴ・ベラスケスの工房のスペイン王妃マリアナ・デ・アウストリアの肖像。日本の櫛のような凄い髪型とボンヤリとした絵の具のタッチにふと麗子像を彷彿とさせる。

エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブランのエカチェリーナ・ヴァシリエヴナ・スカヴロンスキー伯爵夫人の肖像。大きなクッションに腕を乗せてややリラックスした表情の美しい女性の肖像。描いたのはなんと当時としては珍しい女性画家。

隣にあるオーギュスタン・パジューのエリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブランの胸像を見ると、とても美しい顔立ちの画家だったようだ。