偶然から生まれた写真 – ライブステージ風の光が溢れる写真に仕上げる方法

はからずもふんわりしたイメージになった写真。
はからずもふんわりしたイメージになった写真。

前回に引き続きコスベース3の撮影の想い出をつらつらと書き綴っていきたい。

2013年当時はCanon EF85mm F1.2L Ⅱ USMを好んで使っていたせいで、F1.2の開放F値で撮ることが多かった。冒頭に上げた写真のように背景は当然ボッケボケになる。しかしそれがコスベース3の銀色のスペースで撮影する際に功を奏したようだ。

今から振り返ってみるとむしろこのように撮っていた方が良かったのではないかと思えるほど。ちなみにストロボは使っておらず、スタジオに備え付けのライトを背後に2つ置いている。実際の写真は暗かったので、RAW現像で1段ほど明るさを上げている。

よくよく考えてみれば本物のステージライブではストロボは炊かない。だからライブ風の写真を撮るならストロボを光らせずに現場にある光源だけを使った方がそれっぽい写真が撮れるのではないだろうか。

ライトを明るくするためには、カメラの設定で調節する必要がある。F1.2・ISO感度250・シャッタースピード1/100秒。そして露出補正が−1/3。絞り優先AEモードで撮っていたので、露出補正を変えれば更に明るい設定になる。

ライトに明るさ調整のつまみが付いていればライト自体の光源も明るく出来るが、失念した。もう一つLEDライトを明るく写す方法として、レンズの面に対して平行にライトを向けるという方法もある。

ISO感度を上げてみた。F1.2・ISO感度400・シャッタースピード1/100秒。ピクチャースタイルはポートレートから風景に変えてみた。

85mm | F1.2 | 1/100s | ISO400 | Landscape:HL+2
85mm | F1.2 | 1/100s | ISO400 | Landscape:HL+2

明るさを1段半上げている。やや暗いと思った写真でも後から明るさを大胆に上げてやると、このようにふんわりとした写真に仕上がる。以下の写真は明るさ補正は無し。

85mm | F1.2 | 1/160s | ISO640 | Landscape
85mm | F1.2 | 1/160s | ISO640 | Landscape

このスタジオのシルバースペースで撮る最適解は、このような写真のように思われてきた。ソフトボックスを使って撮ると、顔は綺麗に写るのだが雰囲気が出せない。ならいっそストロボを顔には当てず、ストロボすら使わずに撮った方が良い雰囲気に仕上がる。ストロボとソフトボックスに頼り切ってしまうことで、別の表現方法が見えなくなることもある一例だろう。そしてやはり煮詰まった時に背景を思い切り暈かすのはスタジオにおいても正義であった。

85mm | F1.2 | 1/160s | ISO500 | Landscape S:+1
85mm | F1.2 | 1/160s | ISO500 | Landscape S:+1
85mm | F1.2 | 1/100s | ISO500 | Landscape
85mm | F1.2 | 1/100s | ISO500 | Landscape
85mm | F1.2 | 1/200s | ISO160 | Landscape
85mm | F1.2 | 1/200s | ISO160 | Landscape

暗めに撮った写真が出てきたので、更に暗めに撮った写真も解説しておこう。要はLEDライトをカメラマンの方に向ける、つまりはレンズの方に向けるとこのような表現が実現する。F1.2・シャッタースピード1/250秒・ISO感度125。

85mm | F1.2 | 1/250s | ISO125 | Landscape
85mm | F1.2 | 1/250s | ISO125 | Landscape

ISO感度を200に上げてほぼ同じ設定のままシャッタースピードだけ1/5000秒になると真っ暗になるが、かろうじてLEDライトの光が生きている。なると、と書いたのは絞り優先AEモードで撮っているから、測光が恐らくLEDライトの方に行ったためにシャッタースピードが自動で超高速になったものと思われる。つまりは偶然の賜物の写真というわけだ。

85mm | F1.2 | 1/5000s | ISO200 | Landscape
85mm | F1.2 | 1/5000s | ISO200 | Landscape

これがマニュアルモードで撮れば、自分でシャッタースピードを超高速にして、真っ暗に撮る事になるわけだが、まさかLEDライトの明るさがここまで保たれるとは思いも寄らないから、むしろこのようにして偶然に撮れた写真の方が、ニュートンがリンゴが木から落ちるのを見て万有引力の法則を思いついたように、鴻池山中屋の手代が叱られた腹いせに竈の灰を酒に入れて清酒が出来たように、アルフレッド・ノーベルがダイナマイトを発明した時のように、偶然の賜物(Serendipity)が、写真においてもまた新しい表現の発見に繫がっている様に思われる。冒頭に上げたLEDライトのフレアを効かせた写真にしても、はじめからそのような意図で撮ろうと思っていたわけではなく、絞り優先AEモードで、LEDライトを置いて、パシャッと撮ってみたら偶然そのような写真が撮れたという事だ。このような偶然の賜物を経験することにより、撮れる写真の幅が広がり、また応用が利くようになり、偶然から必然的な技術へと身についていくのではないだろうか。いつまでも偶然に頼っているわけにも行かないから人はそれを知識化する。撮影現場で経験を積み重ねることで100発中1発のマグレ弾が100発百中の命中率になるよう目指していきたいところだ。

実際にどういう絵が出てくるのか撮るまで分からないのがストロボ撮影の楽しさでもあるが、ストロボ無しの撮影でも撮るまでにどんな絵が出てくるのか分からないのが、様々なライティング機材が用意されているスタジオ撮影の楽しさでもある。特にこの当時はコスプレ撮影を始めてから9ヶ月程度だったので、まだ色々分かっていないことが多くてカメラやレンズなどの機材の性能面に単純に頼っている割合が大きかった。しかし逆にその愉しさからくる無邪気さが偶発性と化学反応を起こしてこのように意外で面白い絵作りの写真が撮れたのではないかとも自負している。そしてこちらの写真の方が、ライブ感が出せていて良かったのではないかと思えてくるのだ。まだ初心者だった頃の写真を振り返るのも偶然性に触れられて良い薬になる。