カールツァイスのレンズOtus1.4/55について初めて耳にしたのは、コスプレ撮影後のアフターの席でのこと。何でも40万円以上もする標準レンズを或るアマチュアカメラマンさんが購入したとかで、焦点距離55mmの標準レンズに40万円もつぎ込むなんて、というのが最初に抱いた感想だった。
カールツァイスという銘については、何度か耳にしたことがあった。同じく趣味でコスプレ撮影をしているアマチュアカメラマンさんが、ツァイスの銘の入ったストラップをつけていたのを思い出し、すべてのレンズがマニュアルフォーカスしかないという話もされていた記憶もあったので、さぞかし扱いにくいレンズなのだろうな、とその場では軽く受け流していた。
しばらくその高価なレンズについては忘れかけていたのだが、話に出たアマチュアカメラマンさんの写真をwebで見る機会があり、知り合いの女性が被写体になっている写真を見て、像が凄く鮮明でリアルに迫ってくる様だったので、使用機材を見たら、カールツァイスの別のレンズということで、これを機にツァイスという銘柄にグッと興味を引かれることになった。
それまではCanonの純正レンズ以外は選択肢がないという考え方だったのだが、気がつけばネットでOtusの作例を我武者羅に検索している有様。
数ヶ月迷ったあげく、遂には、ヨドバシカメラでポイント還元キャンペーンをやっていた機会に、分割払いで購入してしまった。
既に1D-Xをカバンに忍ばせていたので、購入後化粧箱を空けてカメラに装着し、梅田の地下街の行き先案内掲示板を撮影。開放F1.4に設定して、数枚撮って、液晶でデータを確認してみた。小さな液晶画面から、今まで使っていたレンズとの描写の違いがありありと伝わって来るのに驚いた。開放なのにシャープ。像が立ち上がってくるよう。その場に流れる空気まで写し取っているかのようだったのだ。
ちょうど阪急百貨店で、エヴァ展をやっていたので、大きなカメラとこれまた大きなレンズをカバンに忍ばせたまま、デパートに直行。エヴァンゲリオン初号機の大きなフィギュアが飾ってあったのでさっそく撮影した。こちらも液晶で確認して、今までのレンズでは味わえなかった素晴らしい描写性能だと、ただただ嘆息が漏れるばかり。他にもミニチュアフィギュアが展示されていたので、慣れないマニュアルフォーカスで撮影していく。
初めのうちは、開放F値1.4で撮っていった。結構ジャストピントで合っていたが、どうやってここまで合わせることが出来たのだろうか、自分でもよく覚えていない。exif情報を見たが、ライブビューもオフにしているので、ファインダー越しにAFフォーカスも活用しながら合わせていたのだろう。
開放ばかりだとピントが不安なので、一段絞ってF2.8で撮影。
小さなフィギュア撮影も、セットがしっかりとしていると撮り甲斐がある。撮影者が位置を変えるだけで様々な写真が撮れた。まるで童心に返ったかのようにカメラを構えて撮りまくる。
家に帰ってから、データを見るのがただただ楽しみでソワソワした。さっそくPCに取り込んでパソコンで見たら、その写真の綺麗さに圧巻。すっかりOtusの虜になってしまった。
今まで50mmや85mmのF1.2で撮った写真というのは、どうしてもパープルフリンジや軸上色収差が出てしまう欠点があった。特に輝度差が激しいと、かなり太いパープルフリンジが出てしまい、RAW現像ソフトで強く修正すると、他の色が狂ってしまうので、開放での撮影は、なかなかやっかいな代物だった。
撮影の定石としては、レンズ開放から2段絞ると、様々な収差が収束して解像感が得られるというのがある。それでも開放で撮りたい時は撮りたい。その代償として発生してしまう太いパープルフリンジや軸上色収差。Otusは開放撮影時に表れるレンズの収差を徹底的に排除するよう設計されたレンズだ。欲しかったのはこういうレンズなのだと気づかされた。