この年になるまで桜の品種に詳しくなかった。急に桜に対する知識欲が芽生えてきたのは、桜を、大きい枠組みで捉え直せば風景写真を積極的に撮り始めてからだ。
普段我々が目にする桜はソメイヨシノというのを知った。名前くらいは聞いたことがあるが、ソメイヨシノがどういう品種の桜なのかは分からない。とりあえず見た目が華やかで、ややピンクに色づき、お花見の際に皆がこぞって愛でる子供の頃から見慣れた桜だ。
去年吉野山に行ってからは、山桜という品種があることを知った。上の方は咲いているかと奥千本へと向かうバスの案内員に聞くと、今はそれほどという答えが返ってきた。上千本まで行ってみると、小粒の、ポップコーンに似た形の小さな桜が赤茶けた葉を伴い咲いていた。なるほどこれが山桜か。しかしこれはまだ五分咲きの状態だったのかもしれない。少しガッカリしたのだが、日本古来の品種で、古の和歌などで桜と出てくればソメイヨシノではなく山桜のことをイメージすると良いらしい。
今年は吉野に満開の時期に行った。下千本から上千本まで満開なのは100年に一度と誰かがツイッターで呟いていたが、なるほど山桜がこれ程までにいっせいに息吹いて吉野の山をまだら模様に染める姿は、期待を遙かに超えた壮絶な光景だった。
さて、桜の時期ももう終わりかなと思った頃に、コスプレ撮影の予定が入っていた。今年は例年より10日早い開花だったので、散るのも10日早いというわけだ。しかしどういうわけかピンク色でボリュームのあるふくよかな花が咲いている。何でも八重桜と言うらしい。
八重桜とは、幾重にも花弁が重なり合っている桜の総称のことを言い、細かく品種に分かれている。この公園には、普賢象や松月という品種の八重桜が植わっていた。こうして知識というのは実際にその場に訪れて、好奇心と実用と視覚が化学反応を起こして頭に効率よく蓄積されていく。家に籠もって本ばかり読んでいては駄目だ。本を読んで実際に訪れてみることで紙の上の文字も膨らむ。写真撮影の技術も同じ事が言えるだろう。
さて、八重桜をバックにどう撮るか。順光で撮ると顔に強い影が落ちてしまった。やはり基本逆光が良いだろうということで、太陽を背において貰って撮影していった。
ロールレフで斜め下から光を起こし、暗めの顔を明るく照らしながら撮影。しゃがんで撮れば太陽光が入ってくるのでフレアが綺麗に写真全体を暈かしてくれる。
そういえば以前、ミラーレスカメラで撮影していたら、イメージセンサーが焦げたという話がツイッターかどこかのブログで話題になった。ミラーがないからレンズを通してイメージセンサーに直接光が当たり、更に絞って長時間撮っていたので、小学校の頃に黒い紙に虫眼鏡で光を集めて焦がすという理科の実験でやったことと同じ現象が起こったそうで、それを聞いてゾッとした。
X-T2が焼ける その1(外部サイト:GANREF)
太陽にレンズを向けるべきではない目もやられるからという話は聞いていたが、逆光で撮っているとどうしても太陽を入れたくなることもある。また風景写真を撮るときなどは太陽も入れて絞って撮ることもある。
僕が使っているカメラはミラーレスではないが、一眼レフでもライブビューモードで撮るときはミラーが上がって撮像素子部分が丸出しの状態だろうから、ライブビューモードでの撮影や動画撮影などの時にも気をつけなければならない。
そのような記事があったので、太陽を入れて撮影するときはやや懸念を抱くが、人物撮影の場合はF値は開放付近で撮ることが多いので、取り越し苦労だろうか。
色々調べてみると、超望遠レンズや大口径レンズで太陽に向けて長時間撮影するとカメラが焦げる恐れがあるということだ。光が集まりやすいという。あとはカメラを使っていないときはレンズキャップをしっかりつけておくことも大事。油断大敵と言ったところだろう。
さて話を元に戻す。問題は公園なので人が結構映り込んでしまう点と、現代風の建築物もちらほらと見えるので、それらがフレームに入らないように注意する点。結局F1.4のような浅い被写界深度で背景を思いっきり暈かして撮るのが楽だ。ピント合わせはマニュアルフォーカスレンズだからしんどいけれど。
風なども心地よく吹き、衣装が風に舞う姿も撮れた。やはり人の手よりも風の手に任せた方が綺麗に靡く。
人物と八重桜、くっきりと写したい欲にも駆られたので、F値5.6にしてみたが、端の看板や後ろの建築物がやや気になった。
八重桜とコスプレを撮っている内にすっかりその花の魅力にとりつかれてしまい、着替えを待っている間に八重桜を写真に収めていった。