芦屋サマーカーニバルの花火大会を撮影してきた。会場となっている南芦屋浜の総合公園ではなく、神戸の渦森台から撮影してきた。JR住吉駅前の市バスで約15分。終点に辿り着くまでに、神戸や芦屋の風光明媚な景色を見渡すことが出来る。
早めの夕方五時過ぎに終点の渦森台に着いてしまった。辺りはごく普通の住宅街だ。お店も自動販売機もない。夏の夕方なのでまだ空は明るく爽やかだった。夏らしい蒸し暑さが空気から伝わって来て肌にべっとりとはりつく。
道路沿いには既に何台かカップルの乗ったバンが路駐していた。花火目当てだろう。アイドリングの低い音がうなりを上げている。道路沿いの金網には、タバコや空き缶のポイ捨て禁止を呼びかける町内会の看板が何枚も掲げられている。おそらく夜景目当てで車で乗り付けてくる連中のマナーが悪いのだろうと推察できる。
とりあえず5DsRにOtus1.4/85を装着してロケハンなるものをやってみた。バス停から降りたすぐ側は見晴らしは良いが、送電線が景色を横切っているので、候補から除外。
坂道を下っていき、絶好のポイントを見つけたので、ここを第一候補とした。バスの中で見た時にもいいと感じた場所だ。公園を見つけたので休憩。蝉の死骸に群がるアリの大群を見つける。レンズを200mmに付け替えて、元来た道を上っていく。
元いた渦森台の終着点に着くまでに汗を大量に掻いた。のぼりはやはりキツい。バス停のベンチに座って、データを確認し、どの地点で撮った写真が、風景と花火のバランスが一番良くなるかを選ぶ。
結局渦森台のてっぺんではなく、第一候補とした坂の途中にした。他の場所は見渡しは良いが送電線が邪魔だったり、松の木や建物が邪魔をしていたりといった理由で除外した。
夜が更ける頃に三脚を立てる。通行の邪魔にならないように、歩道の段の部分に三脚の内の2本を立ててスペースを空ける。しばらく試し撮りをしていると、散歩中の地元の年配の男性に話しかけられた。
「今日何があるの?」
「芦屋サマーカーニバルです」
「ああそうなんだ。PLの花火はあるのかな」
「去年は確か同じ日だったような」
「でもPLはここからはチョット遠いよね。小さいかな。それに今日は曇りやな」
さて、同好の士はいるだろうかと三脚を担いでいる人を探してみたが、夕方頃に年配の男性が一人、日が暮れる頃に頂上に向けて足を急ぐ男性が一人、夜が更けた頃に若い男性が一人、花火が始まった頃に中年カップルが車から、といった具合で、確認した限りでは4組しかいなかった。後からその理由はなんとなく分かった。
19時50分、花火が始まる。相変わらず花火撮影は難しい。始めはF11で撮っていた。アクシデントでF9になっていた。スターマインが続いて白飛びがしたので、F22に絞って撮ってみた。F22でも長い間、長時間露光をしていると、花火は真っ白になる。コレはなかなか難しい。経験を積み重ねるしかないし、花火のプログラムが手元に欲しいくらいだ。もう1台カメラを置いて動画で撮って研究した方が良いんじゃないだろうかと思えてきた。
花火が始まってからしばらくして、中年の夫婦が車から降りて花火を見始めた。後ろを振り返ると、路上駐車の列。道路には駐車禁止の標識がある。皆車から降りて、歩道に寄り添い花火を見ている。
見た感じでは、花火は小さい。これなら花火会場か、近い場所で見た方が良いと思った。200mmの望遠で撮っていたが、夜景は綺麗だが、花火は小さくしか写らない。布引ハーブ園の丘からみなと神戸花火大会を見た時よりも小さい花火に感じた。
「ポリスや!」と怯えた叫び声が若く厳つい顔の男から発せられ車に乗り込んだのも束の間、カップルの乗ったバンが急発進してピューッと逃げていった。くだりの道を見ると、パトカーが赤色灯を派手派手しく回しながら坂を登っていた。他の車は逃げようともしない。皆そのまま遠くの夜景に上がる花火を見ている。
地元の住民が通報したのだろう。おそらくパトカーは渦森台の天辺まで登り、カップル達のバンを排除していくに違いない。ここは駐車禁止区域であることと、バスの通行の邪魔になるので車をどかすよう丁寧に諭している。
一台の車がすぐ後ろで止まり、夫婦が花火を見始めた。スマホで動画撮ろ、と女の方が言ったが「スマホで撮る花火程汚いものはない」と男は笑いながら答えた。しばらくして「お父さん花火見えるか?」と男が問いかけ、嗄れた声が次いで聞こえてきた。後ろを振り返ると、助手席におじいさんが乗っていた。車で花火を見せにやってきたのだろう。
おばあさんが隣にやってきて、「ここ大丈夫ですか?見えますか?」とおじいさんを車で連れてきた夫婦に尋ねる。「ええ全然大丈夫ですよ」と返事されると、同じように花火を見始めた。特段言葉は交わさない。僕は無言でリモートスイッチをカチカチ押したり話したり。おばあさんも無言で花火を見ている。
しばらくしてパトカーは頂上から戻ってきて、坂道の車をどかすように一台一台ゆっくりと懇切丁寧に指導していった。若い体育会系っぽい顔立ちの三人組の男たちが渋々車に乗り込む。罰金を取られる様子はなさそうなので、皆のんびりとしている。しばらくしてあれだけたくさんあった車がすべて消えた。花火はまだ続いている。
ようやくすべてのプログラムが終わった。隣のおばあさんが「車が全部いなくなると、花火の音もここまで聞こえますねえ」と話しかけてきた。
「ええ、車たくさん停まってて音うるさかったですし」
「私、ここの下の○○棟○○号におりますのよ」
「あぁ!ここの住人の方なんですね?」
「あなたがずっと隣にいてくれたお陰で、安心して観ることができました。ありがとう」
機材を片付けて、すぐ側のバス停でバスを待った。しばらく夜景を撮ろうと思ったが、飲食物を一切持参してこなかったので、お腹が空いて仕方がない。それに明日あさってと撮影が控えている。バスが来る10分間の間、今日インストールしたばかりのポケモンGOの画面を見つめる。
花火は小さかった。もし見物で来るのなら、始めにも言ったように会場か会場付近で見た方がマシだ。花火撮影もおそらく同じ理由で、会場近くから撮った方が良い。小さいのと、夜景が広すぎて、花火の横の広がりが全くなく、絵になりづらい。
あと周辺一帯は普通の住宅街で、道路もすべて駐車禁止区域なので、パトカーが来て最後まで花火を楽しめない。夜景を見ながら花火を観たいというのならバスで来るのが最適だろうが、皆口を揃えて小さいと言っていたので、余り期待しない方が良い。しかし、ここで撮るならサンニッパが欲しいなと改めて思ったのと、会場で撮った方が大きく綺麗に撮れるという事が分かっただけでも来た甲斐があった。
それに地元のおばあさんに感謝されたのだから、これもまた良い思い出だ。