氷菓 アニメ実写化に対するファンの期待と心情を忖度か、優等生的な映画に収まる

氷菓

京アニの氷菓の大ファンで、Blu-ray全巻とオリジナルアニメBlu-rayディスク付き限定版を揃えているので、実写版氷菓の予告編が流れたときは思わず席から飛び上がりそうなくらい嬉しかった。

さて前売りも買い、特典のクリアファイルも貰って、待ちに待った公開、喜び勇んで観に行ったわけだけれど、感想としては、良くもなく悪くもなく、普通の絵作りの、普通の青春映画だった。

例えばこれがフィルムではなく、テレビのクリアな画質だったら、まだ気安さと面白みがあったかもしれない。テレビドラマのあのクリアな画質は我々が生活している現実そのものの質感がある。むしろ現実を更に純粋化して清めたような綺麗な映像感が、青春の喜びを上手く運んでくれるのだ。

しかし映画のフィルムの質感だとどうだろう。そこにはフィルムのメリットを最大限に引き出すような映画独特の表現方法が必要なのではなかっただろうかと思う。

どうも本編が、京アニのアニメの絵作りを一生懸命に再現しようとしている努力の跡が垣間見えるのだが、そういった無駄な気遣いが逆に気分を萎えさせてしまう。

アニメの実写映画化といえば、ファンの間ではすこぶる評判が悪い。やれ原作を穢してるだの、全然話が違うだの、全くの別物だの。例えばドラゴンボールだとか進撃の巨人だとか、原作と全く違うということでファンからは酷評だった。一方で銀魂は原作の面白さを見事に実写の波に乗せていてファンも大絶賛、続編も決まった。

しかしどうもアニメの実写化に関しては、Twitterに代表されるネット上の酷評による見えない圧力が、作り手側の意欲を萎縮させてしまっているのではないか。そういったネガティブな側面が、氷菓の実写版映画には感じられた。

京アニ版の氷菓を忠実に再現しようという意気込みは随所に感じられた。冒頭の桜のシーン、聖地飛騨高山の喫茶店のシーン、折木奉太郎が謎に挑むコミカルなシーン。アニメと同じだ。けれどなんか違う。アニメ版の方はキラキラしていたが、実写版の方はキラキラしていない。キラキラさせるなら、背景を思いっきりぼかすとか窓から光を差し込ませるとか桜の花びらをもっと舞わせるとかもっと桜をダイナミックに撮るとか色々ありそうなものだが、技術的、空間的、あるいは予算的に無理だったのかもしれない。

結局優等生的な、面白みのない絵作りの普通の青春映画になっていた。そもそも氷菓のアニメの原作は小説だ。ならいっそのことアニメ版ではなく小説をベースに作り手側が自由に想像を膨らませて制作した方が良かったのではないかと思えるくらいに退屈な絵作りだった。心動かされるものがない。

配役はどうだろう。主役は確かにアニメ版と容貌は似ている。しかしいくら主人公の性格がやる気のなさげな省エネ人間だからといって、あまりにもやる気のなさ過ぎな演技は逆に演じるつもりがないんじゃないかと疑いを抱かせてしまう。もう一人の男の子はどうだろう。なんかイメージと違う。広瀬アリスは?こちらも純真な女子高生というには少し豊満というか艶があるというか。もう一人の女の子は、まぁなんとなく型にははまっていた気がするが、どうも配役が高校生には見えない。

高校生の年齢でなくても高校生に見える役者はいるような気はする。例えばあさひなぐのメンバーは全員高校生に見えた。西野七瀬は22歳だったか、十分16歳の女子高生に見えた。アイドルではあるが。

広瀬アリスに関しては、今現在NHKの朝ドラで放送されている吉本興業の創業者をベースにした「わろてんか」で女漫才師の役で出演していて、これが凄く型に填まっていた。ここまで上手い演技が出来る女優であったか。まぁ千反田えるの役柄もあれが現実離れした所謂汚れを知らない清純な女子高生とかでなかったなら、広瀬アリスの演技力もまた生きていたかもしれない。実際あんな女子高生はいないだろうし、似たような喋り方をする女の子をひとり知っているがカワイコぶっているというか・・・。そういう現実にいなさそうな難解な役柄に寄り添って演じるのは大変に違いない。

しかし突然本郷奏多が出てきたときにはビックリした。スクリーンで観るのはGOTH以来だ。あの映画では彼のためだけの特注の学ランに身を包んでいてスタイリッシュに見えスクリーンでも一際映えていたが、今回は学園紛争吹き荒れる60-70年代の学生の役。ややくたびれた感がないでもなかった。しかしこの人、年を取らない。