カメラ雑誌の特集やカメラの講習会などで、「写真は引き算」というフレーズをよく聴く。既にこの言葉を使い慣れている人からすれば、頭の中でイメージが浮かびやすいだろうが、初めて聞く人は「何じゃそれ」となりはしないだろうか。僕はなった。
写真は計算なのか?という印象から始まり、写真から何を引くのだろう、5から2を引いて3を導き出すことと写真に何の関係があるのだろうとか、カメラの露出補正の設定を-1にすることだろうかなど様々な憶測が頭の中を飛び交い、結局の所、理解するのが面倒となり僕の頭の中から忘れ去られていた。
そしてふとそのフレーズが撮影中に頭の中で甦る。ああこういうことだったのかと。そう気づく前に雑誌の特集をちゃんと読んでおけば良いじゃないかと思われるかもしれないが、イメージの湧きづらいフレーズは、キャッチコピーの力が弱いので、記事を読み進める気になれない。
ましてや掲示板などでポッと出た「写真は引き算だから」などという得意げなフレーズを見かけたところで、前後の文脈を追うのも面倒だし、本人も訳知り顔を決め込んでそれ以上は説明しないし、作例も出していないのだから、理解しようという気にすらなれない。
こないだスタジオにブラックジャックのコスプレを撮りに行った時に、たくさんの本を床にバラして3人和気藹々としているシーンを撮影した。どのレンズで撮ろうか迷ったが、まず着けていた超広角ズームで撮ったら、やたら広く写り、絨毯からはみ出した白い床まで写ってしまう。これはこれで悪くはないのだけれど、本棚横の白い壁まで映っていて何だか全体的に散漫としてしまったので、もう少し絵を引き締まらせたくなった。
そこで標準レンズに付け替えて、先ほどよりも画角を狭くして、白い床やら余計な物をできる限り切り取り、絨毯と本だけがフレーム内にぎゅうぎゅうに収まるように撮ってみた。すると本がさっきよりもたくさん積まれているようなイメージができあがった。そして例のフレーズが頭の中に降りてきた。ああなるほど、これが「写真は引き算」と言われるゆえんかと、妙に合点がいったのだ。
余計な物は切り取る、余計な背景は写真から引いてしまう。写真は引き算。これでようやく有名なフレーズを理解することが出来た。
一番最初の24mmの広角レンズでも、下から撮って白の床を切り取る。本が積み上がっているイメージが色濃くなった。
というか、それならこれまでも何度もそういうやり方で撮ってきたじゃないか。なぜ今になってこのフレーズを思い出したのだろう。おそらく今回の撮影の切り取り効果が一番効果的だったのだろう。たぶん他の意味でも「写真は引き算」のやり方があるから、カメラ雑誌を電子書籍リストから引っ張り出してきて復習しておこうと思う。