密閉されたスタジオ空間で、女性の顔を綺麗に撮るのはなかなか手間がかかる。これが自然光なら、とりあえずモデルに逆光の位置に立って貰って、前からレフ板を当てれば、簡単に綺麗な写真を撮ることが出来るのだが、自然光のない、天井からの弱々しい蛍光灯の光だけを頼りに息苦しい密閉空間で人物を撮るのは、それなりの工夫が必要となってくる。
この日にモデルから出された要望は、朝日が窓から射し込んでいる様な感じで撮って欲しいというものだった。何でも同人誌即売会で出す写真集に収録する写真が必要になったとかで、期日も迫っているということで、急遽呼び出されたのだ。
さて、どう撮るか。スタジオには窓が1つもないので自然光は全く入らないし、光源は天井の蛍光灯のみだ。とりあえずライトスタンドを立てて、クリップオンストロボを取り付け、アンブレラで透過させて撮ってみた。被写体の後ろには、三脚に取り付けたクリップオンストロボを光らせて、朝日を演出。
どうも上手くいかない。自然な感じで撮れない。顔は申し分なく綺麗に撮れるのだが、自然光で撮った感じがしない。如何にもストロボを当てた感じのする、硬い質感が漂う。
そこで、モデルの顔に当てているストロボのスイッチを切って、代わりにレフ板を当ててみることにした。早朝のふんわり感を出したかったので、開放F1.4に設定。
するとモデルの顔が、先程よりも柔らかく表現出来た。欲しかったのはこの絵だ。モデルに見せたら、とても喜んでくれた。これで難問をクリア。この要領で撮っていくことにした。
スタジオ撮影と言っても、何でもかんでもストロボを当てれば良いというものではないということを、この日は学んだ。コスプレイヤーの要望に頭をひねらせて応えていくことで、色々と学べることが多い。
コスプレイヤーはいわばクライアントと同じだ。カメラマンはクライアントの要望に沿った写真を撮らなければならない。お互い趣味だしプロの現場でもないので、別に失敗しても良いのだけれど、それではアマチュアカメラマンとしての矜恃が許さない。
そのように四苦八苦することで、新しいスキルを今まで身につけてきた。モデルの要求が高ければ高いほど、こちらとしてもやり甲斐がある。写真に写っている彼女は、初めて太秦映画村で撮影した日から、イメージを細かく伝えてくるコスプレイヤーだった。その時は、彼女の思い描いていた通りの写真が撮れたらしく、その場でデータを見せたら、とても喜んで貰えたのを昨日のことの様に覚えている。人の入れ替わりが激しいコスプレ界隈で、もうすぐ3年になる長いつきあいだ。