Canonのスピードライト(ストロボ)600EX II-RTが、PayPayモールの幾つかの老舗家電量販店で51,790円で販売されているのを偶然見つけた。普段は6万円台前後で推移しているので、滅多にない値下がり価格に物欲が刺激されて気がついたらPayPayに51,790円キッチリ入金してポチっていた。9,200ポイント付くので、実質42,000円で購入出来たことになる。
恐らく新製品が出るので値下がりしているのだろうと睨んでいたのだが、その予想は的中した。商品購入から数日後にフラッグシップ・スピードライトを新発売するというキヤノンからのダイレクトメールが届いた。
製品名はスピードライト EL-1。これまでの製品名で見るとEだけがかかっているが、そのシンプルで目新しい製品名からこれまでとは全く違う新しいストロボであることが窺える。
しかしながら次に赤字で表示されている値段の方を見てビックリした。税込みで140,800円(税抜き128,000円)。
600EX Ⅱ-RTが発売当初の希望小売価格が税込み77,760円 / 税抜き72,000円(※2020年10月16日現在は税込み60,500円・税抜き55,000円)なので、2倍の強気価格となる。
いったいなぜこれ程までに高額になったのか、その性能について600EXⅡ-RTとの違いを考察していきたい。
約0.9秒の高速チャージ & 約160回以上の連続発光
まずサイトのバナーに「約0.9秒の高速チャージと、約160回以上の連続発光を実現」とある。これがイチオシの性能なのだろう。
Canon スピードライト EL-1 (Canon公式ホームページ)
従来機のチャージ時間が3.5秒とあるから1/3以上の高速化を実現したという事になる。
連続発光回数も従来機の約60回から160回と2倍以上。
熱冷却システムと耐久性向上させた新キセノン管
それに付随した連続発光などの熱を冷却する新システムと耐久性を向上させるのと同時に微小発行も可能にした新キセノン管。
専用の充電式リチウムイオンバッテリーを採用
またバッテリーも従来の電池式から、専用バッテリー仕様となった。新開発の充電式リチウムイオン電池で形状は5D系のバッテリーと似ている。
バッテリー残量表示
また見やすくなった液晶画面には、バッテリーの残量が表示される。
微小発光
従来の1/1〜1/128から1/1〜1/8192の微小発光に対応。
後幕シンクロ
電波通信ワイヤレスで後幕シンクロに対応。
関連リンク
キヤノン、リチウムイオンバッテリー採用の最上位ストロボ「SPEEDLITE EL-1」 (デジカメWatch)
キヤノンが「スピードライトEL-1」を正式発表(デジカメinfo ユーザーの反応)
とりあえず目に付いたのはこれらの新機能。1つずつ検証していきたい。
ガイドナンバーは従来の600EX II-RTと同じGN60
まずガイドナンバーは従来の600EX II-RTと同じでGN60(照射角200mm・ISO100・m)。
この点だけで見ると、14万円も払って購入する価値があるだろうかとまず疑う。10万円台の価格を見てprofotoのフラッシュと比べてみたくなった。
話題を集めたプロフォトのprofoto A1が10万円。出力は600EX II-RTと比べるとやや小さい。A1は在庫限りとなっており、後続のA1Xが発売されていたが、また新たに新製品A10が今年9月にリリースされている。値段は131,780円なので、価格面はEL-1とそう大して変わらない。充電式リチウムイオンバッテリー採用なのも同じであることを考えると製品の特徴としては似通っている。
発光面の形状の違い
Profoto A1シリーズのどこと比べるとかというと発光面だ。丸い発光面が長方形の発光面よりも美しい光を紡ぎ出すことは過去にデジカメウォッチで比較検証されていた。
小型軽量「Profoto A1」を生かした“迅速・軽快”ポートレート撮影(デジカメWatch)
今回のキヤノンの新フラッグシップストロボの発光面は、従来機と比べると正方形に近づいた形にはなっているが丸形ではない。ソフトボックスやアンブレラを通すときは発光面の形状は気にする必要はないだろうが、直接ストロボ光を当てるシーンも想定されるので、丸形と正方形に近い発光面に光の美しさの違いはあるのか。そこに差額の1万円を払うだけの価値があるかという事になる。
高速チャージと連続発光を享受出来る撮影シーンがあるか否か
その価値については、大きく向上した高速チャージと連続発光の機能が、ユーザーの普段の使用において必要か否かで違いが出てくるだろう。結婚式の撮影を業としているカメラマンなら、連続して訪れたシャッターチャンスを逃したくないときには高速チャージや連続発光の性能向上は恩恵がありそうだ。
コスプレ撮影においては花びらが舞う写真を撮るときなど、従来機だと光量を大きめに設定して連続発光させるとせいぜい撮れて3枚まででその後はストロボが光らなくなるが、機能向上で何枚連続発光出来るのか気になるところだ。
微小発光は必要?
微小発光はどうだろうか。キヤノンのサイトに微小発光が役立つシーンとして、近接撮影と手持ちによる星空ポートレートの作例があるので、考察してみることにしよう。
被写体に近接してストロボを使って撮るときは当然ストロボ光を最弱にしなければならないが、1/128の設定でも明るくなりすぎる事が考えられる。そうなるとF値を大きくするか、シャッタースピードをストロボ同調速度よりも速くするなどしてストロボ光を弱める設定にすることになるが、F値の大小は背景の暈け具合や解像力といった絵作りに影響を与えるのであまり弄りたくはないところだ。となるとシャッタースピードを高速にして強制的にストロボ光を弱めて撮るしかない。当然ストロボが当たっていない背景の明るさが影響を受けることになる。
ストロボの光量を1/128寄りも小さく設定出来るという事は、そういった絵作りに影響を与えるややこしいカメラの設定部分をやらなくて済むという事になる。
手持ち星空ポートレートの想定
では手持ちの星空ポートレートではなぜ微小発光が必要になるのだろう。
手持ちで星空が映るほどに撮るとなると、低速シャッタースピードと、ISO感度を上げて撮る高感度撮影、開放F値の小さいレンズで最小のF値にして撮るなどの3つの兼用が考えられるが、キヤノンのフルサイズミラーレスEOS R5のカメラ内手ブレ補正と、レンズ側の手ブレ補正(イメージスタビライザー・IS)の合わせ技で、従来なら手ブレが確実だった低速シャッタースピードでも手ブレせずに撮れると話題になっていることからも、シャッタースピードはそこそこ低速に出来るものと考えられる。
そこにストロボ光を当てるわけだが、シャッタースピードに関しては被写体に当たるストロボ光の明るさとは無関係だから、他に定常光の明かりがないと仮定すれば、被写体の明るさに影響を与えるカメラの設定はF値とISO感度のみとなる。やはりカメラ内手ブレ補正の性能が格段に向上したとはいえ、シャッタースピードだけでは星空ポートレートを撮れるほどには明るく撮れないから、F値を小さく、ISO感度を大きくすることが考えられるが、そうなると従来機では1/128と最小の光量に設定しても、被写体に届くストロボ光が明るくなりすぎるから、微小発光がここで威力を発揮することになる。
コスプレ・ポートレート撮影に必要か
では実際に筆者の普段撮影しているコスプレやポートレートのシーンで、このストロボを必要かという観点から検証してみよう。
まず人物撮影であるが、基本的にストロボを使って人物を撮る時は、電波通信ワイヤレスモードで、カメラとストロボを離して、ソフトボックスやアンブレラを通して光らせている。
つまりストロボ光が明るすぎれば、ストロボと密着しているソフトボックスやアンブレラをモデルから離せば良い。この時点で微小発光はそれほど必要がないと言える。
地明かりを活かした撮影も可能とのことだが、これも人物撮影の時はソフトボックスやアンブレラを通しての電波通信ワイヤレスの撮影となるので、モデルからソフトボックスを離せば解決するものと思われる。
しかしながら一方で、ストロボ光と被写体の距離が大きいと、パリッとした質感で撮れなかったという経験が何度もある。
では近くに光源を置いてストロボ光が微小であれば、パリッとした肌の質感で撮れるだろうかという疑問も生じる。モデルに対するストロボ光の距離が光の質感に影響を与えているのか、それともストロボ光と定常光のミックス光が質感に軟調気味な変化を与えているのか。
また野外での撮影でも、モデルとソフトボックスの距離が取れない場合がある。とはいうものの、これはそうあることではないから、この微小発光のために14万円するストロボを買おうという気にはなれない。
地明かりを活かしたポートレートは好まれるか
ところで地明かりを活かしたポートレートは好まれるだろうか。キヤノンの作例を見ると3つのライティングによる違いがよく分かる。
一番右はストロボ撮影ではありがちな写真だ。光の当たり具合や質感を見ると、ソフトボックスは恐らく使っておらず、カメラのホットシューにスピードライトを取り付けて撮影したのではないかとも思われる。どちらにしても人物が背景から浮いた質感になり、場合によってはCGの合成みたいとも言われることがある。
一番左のストロボ無しの撮影はその場にある定常光を生かした撮影となるが、雰囲気は良いものの欠点としては人物がやや暗くなり背景と溶け込みすぎて強調されなくなる点。
この両端2つの2枚と比べると、中央の微小発光はモデルの明るさを程よい程度に上げつつ、CG合成のような不自然さもない、バランスの取れた質感に仕上がっている。まるで『ニコマコス倫理学』の一説を読んでいるかのような三者三様の写真だ。何事も中庸が良いという事か。
ただ右端の写真はF値の設定が他の二枚よりも大きく設定されているためか、背景が強くボケていないから、実際に背景を同じくらいボカした写真を見て、どのような印象の違いが生じるかを見る必要はある。
また夜景を背景にしたストロボ撮影は人物が浮きがちになるが、昼間に日中シンクロで撮影した写真は自然なイメージで撮れる。足りない光を補ったり顔の影を飛ばす感じで撮る。
最近のTwitterにおける夜景ポートレートだと、ソフトボックスなどでストロボ光を和らげた感じで撮るのが主流のイメージがあるので、地明かりも良いものだとこの作例を見て感じた。
現行のストロボでのチャージ時間に不足はないが、贅沢な気分は味わいたい
また普段のスタジオ撮影ではチャージの時間に不満を覚えたことはほとんど無い。だいたいスムーズに光らせることが出来るが、たまにストロボが光らずに写真が真っ暗になるのはバッテリー(この場合は単3のエネループ充電池4本)が消耗していたからに過ぎない。
しかしながら時々躓くこともあるので、チャージ時間は早いに越したことはない。その為に14万円のストロボを購入するのは贅沢のようにも思われる。
連続発光もあまり使う機会が無い。
キセノン管の耐久性が増して大光量発光でも壊れにくいのはメリットだが、今までそれでストロボが壊れた事があったかと問われると、1度だけシェアスタジオでの撮影で他のユーザーの中華製ストロボかスレーブの影響でフル発光が生じて壊れたことがあったが、そのフル発光が果たして中華製スレーブが原因なのか、経年劣化によりフル発光で壊れる運命にあったのかは判別が付かない。また別の1台は経年劣化で発光しなくなったこともあるが、数年間頻繁に使っての故障なので、耐久性に関してはそれほど不満はない。
バッテリー残量表示は素敵!
画面にバッテリーの残量が表示されるのは便利だ。3灯を使った電波通信ワイヤレス多灯ストロボで、シャッターを押してもストロボ光が光らなくなったという事はどれか1灯の電池が切れたという事だが、どのストロボの電池が切れたのか一つ一つ確認する手間が省ける。大したことのない手間だが、ちょっとした手間も忙しい撮影中ではストレスになるし、画面を見ただけで残量が分かるのは良い。
価格といい性能といい、プロユース向けの製品
高性能だが14万円と高価なので、結婚式の撮影などの写真撮影を業として稼いでいるプロカメラマン向けという事だろう。趣味のアマチュアが買うにはハードルが高すぎる。ガイドナンバーも従来品のフラッグシップと同じで、モノブロックストロボのように大光量というわけではない。
ニッシンやゴドックスなどサードパーティーの安価なストロボがあるので、このまま600EX II-RTが製造終了となると、趣味でストロボを使った撮影をしているユーザーは完全にそちらの方に流れていくのではないだろうか。6万円という価格はストロボの中では高価な方だが、純正品の信頼性を考慮に入れると決して高すぎるというわけでもない。
純正品のメリット
互換製品に対する純正品のメリットは、信頼性・堅牢性に尽きる。互換製品のストロボは安価だが壊れやすいと言われているし、電波通信ワイヤレスでも繋がりが悪くなるときがあるなどの話も聞く。フラッグシップストロボは落としても壊れにくいし、電波通信の状態が悪くなったという事は8年間通算400日以上のストロボ撮影の中で2,3回しかなく、そのうち電波通信ワイヤレスが全く機能せずに致命的だったのは1回だけだった。それもストロボが原因なのかトランスミッターが原因なのか判別が付かない不具合で、その後は修理に出さなくとも正常に戻った。雨撮影などで防滴防塵性能を信頼しきってこれまでに無茶な使い方をしてきたこともあり、そのことを考えるとやはり信頼性/堅牢性は純正品ならではだと実感する。
やはり14万円という価格がネックになる。これがモノブロックストロボ並みの光量であれば飛びついていたであろう。野外での人物撮影では日中シンクロという手法を使うことになるが、スピードライトの光量では足りずに1つのソフトボックスに2灯付ける必要があるし、スタジオでの撮影でも白ホリゾントで背景を灰色にして撮る時は、同じように1つのソフトボックスに2灯付けて撮影することが多々ある。
つまり欲しいストロボは600EX II-RTよりも大光量のストロボであったが、出てきたのは結婚式の撮影などのプロカメラマンの要望に応えたストロボで、しかも値段が予想以上に高価だったという事でガックリと肩を落としたのだった。
当面は従来品のフラッグシップストロボと併存して販売か
600EX II-RTは値段としてはアマチュアが納得出来る価格で、性能とも釣り合っているので、製造終了になれば、純正ストロボの選択肢は14万円のストロボか、1つ下のガイドナンバーのストロボとなるから痛い所だ。今のうちに予備として2個ほど追加で買っておくべきだろうかとも思った。修理対応は製造終了から7年までで、経年劣化で修理に出そうと思ったときに対応して貰えないと、ライティング機材に窮することになる。
ガイドナンバー47で電波通信ワイヤレスという2点で似通っているスピードライト470EX-AIと430EX III RTは併存して製造販売されているが、これは値段が旧型の方が若干高い。EL-1と600EX II-RTの併存製造販売はあり得るだろうか。どうもEL-1が発表されると、600EX II-RTの希望小売価格が17,000円ほど値下がりしたので、恐らく併存させるのではないかと思われる。値下がりに関しては恩恵を受けられるから良い動きであった。
それにしても最近キヤノンから発表される製品は価格が高くなっていっている印象が強い。一般消費者よりもプロユーザーに焦点を当てすぎているきらいがないでもない。キヤノンのお財布事情が苦しいのだろうか、カスタマーサービス関連も値上げ改悪が続いており、あらゆる面でSONYと比べるとコンシューマーの方を向いて商売しているのだろうかという疑念が湧く。3,000円台から1,600円台まで急落した株価にも、キヤノンの今の実情が象徴されているようでならない。