コスプレ撮影のついでに鳥を撮ってきた。コスプレの聖地としても知られている鶴見緑地公園は、様々な種類の鳥が生息していることでも有名で、望遠レンズを構えた愛好家たちが毎日集っている。春になると梅の木の枝にメジロが泊まり、浮世絵のような写真が撮れる。
持参したカメラはCanon 1DX。レンズはCanon EF400mm F5.6L USM。今までに鈴鹿サーキットでレーシングカーやバイクを撮ったり、スーパームーンや皆既月食を撮ったり、動物園で虎やライオンを撮ってきたレンズだ。
F5.6と開放F値が大きめのレンズなので実売価格14〜15万円前後と、F値の小さい製品なら100万円以上はする超望遠レンズにしては安めで20年以上前、つまりデジタル一眼レフカメラが発売される以前の結構古めのレンズ。しかし単焦点レンズのためか、写りは非常に良い。
韓国の庭を模したスペースからトランペットの音色が聞こえる。誘われるように門をくぐると池の方に鴨が二羽佇んでいた。
決してそんなに大きな池ではない。しかし400mmの超望遠レンズであっても、場所によっては鳥という生き物は小さくしか写らない。これならAPS-C機の方が擬似望遠効果があって、大きく写せるからアドヴァンテージがあるなと、ふと思う。しかしノイズの面ではどうだろう。特に開放F値5.6という超望遠レンズを使う場合、ISO感度320〜500まで上げて撮影しないと適正露出が確保できなかった。鳥のような繊細な羽の色や模様を描写するには、やはりフルサイズの方が良いだろうか。結局何かを得るためには何かを捨てなければならない。コストパフォーマンス、擬似望遠効果、描写性能…。
そういう点ではCanon 7Dmark2というのは革新的なAPS-C機だった。1秒間に10コマと連写性能に優れているので、動き物の撮影に十二分に発揮するし、擬似望遠効果により遠くの物を大きく写せる。画素数も1DXよりも多い。測距点の数も1DX並。まさにスポーツや鳥、飛行機撮影に打ってつけのカメラだ。
しかし鳥撮影というのは面白い。ゆっくりと池を動く姿を捉えたり、羽ばたく瞬間を捉えようとレンズを通してじっと見守る。次にどんな動きをするのか予想するのが楽しい。鳥というのはこんなにも魅力的な生き物だったのかと、シャッターチャンスを狙って粘り強く観察していると思えてくる。
或いは平和な狩りのようだ。猟師ならライフルで鳥を狙うが、カメラマンはレンズで鳥を狙う。命を取るわけではないのに、狩りの楽しさというのを擬似的に体験できる。ふとファミコンのシューティングゲームのことを思い出す。テレビ画面に向けておもちゃのピストルの引き金を引くと、画面の中を舞う鳥が撃ち落とされる。あのファミコンゲームはどういう仕組みになっていたのだろう。
何のゲームだっただろうかと検索してみたら、ダックハントと出てきた。ダック、まさに鴨ではないか。デジタル化したこの世界は擬似的なことで溢れている。しかし狩りのように狙うというのは鴨に失礼な気もする。shootには写真を撮るという意味もあるが、birdを目的語にするときはphotographという言葉を使った方が無難だろうか。鳥を撃つという意味と混同してしまいそうだし。
今回の鳥撮影のカメラの設定
- ワンショットAF
- マニュアルモード
- F値:開放F値5.6
- シャッタースピード:1/640秒〜1/800秒
- ISO感度:ISO320〜500
AFモードに関してはもっと最適なモードもあったのではないだろうかとも思うのだが、鴨だしそんなに素早くあっちこっちへと動く物でもないし、空を飛びもしないからワンショットAFにした。
カメラのモードはマニュアル。絞り優先AE(Avモード)の方が天候がコロコロ変わる野外や、撮る角度によって明るさが変わる被写体なら楽かもしれないと思ったが、超望遠レンズでシャッタースピードが遅くなると手ぶれしてしまうし、最近マニュアルモードでばかり撮っていてAvモードにこなれていないので、明るさを変える多少の不便性には目を瞑ってマニュアルで撮った。といっても、それほど不便なわけでもない。マニュアルモードに慣れると一度撮って明るさを見て、暗かったり明るすぎたりしたらISO感度やシャッタースピードをダイヤルでカリカリ変えるだけなので楽。
AvモードでF値を固定した場合、適正露出を基準にした明るさが足りないと、シャッタースピードが遅くなる。となると手ぶれする危険性が出てくる。ISO感度を高めに設定しておけば防げるが、ノイズはなるべく避けたいもの。絞り優先AEは、手ぶれしやすい望遠レンズで撮影する場合は、自動的に算出されるシャッタースピードに常に気をかけて撮影しなければならないから何かと面倒なのだ。確か最新のカメラだとこのあたりの設定が細かく出来た記憶があるので、また説明書を読んで追って解説したい。
F値は開放F値5.6。超望遠レンズで手ぶれを防ぐために速いシャッタースピードを要するのでその分写真が暗くなるから、なるべく明るさを確保するために一番明るく撮れる開放F値で。開放F値と言っても5.6もあるから、ポートレートをF1.4の設定で撮るときのように、被写体の目以外がぼけてしまうという事はおそらくないだろう。
シャッタースピードは手ぶれしないセオリーに従い、1/640~1/800秒。1/800秒以上が理想だが、1/640秒でもしっかり構えれば手ぶれはしない。
ISO感度は以上の設定を踏まえ、写真の明るさに応じて最後に設定する。適切な明るさになるようISO感度を変えるとよい。
鴨を撮る!
レンズで鳥を狙うというのは狩りのようでもある。ふとそんな感覚が頭をよぎる。鴨もこちらの気持ちを察したのか防衛本能からか大きく撮ろうと近づくと、すいすいと逃げていく。ピタリと止まった鴨が羽を勇壮に広げて羽ばたこうとする。
飛ぶのか? 飛ばないのか………?、飛ばない……。
羽ばたく羽をそれこそピッタリ動いていないように撮るにはどれくらいのシャッタースピードが必要だろうか。そもそも鳥を撮るときに、羽ばたく羽をピッタリと撮るのは鳥撮影の王道なのだろうか、それともブラして面白く撮った方がよいのだろうか。或る著名な写真家が述べるところによると、大きい鳥で1/1000秒、小さい鳥で1/8000秒のシャッタースピード。1/8000秒といったら、一眼レフデジカメで設定できるシャッタースピードの限界ではないか。F5.6の超望遠レンズでISO感度いくら上げたらいいんだって話になる。やはり幅広い絵作りの写真を撮ろうと思ったらワンクラス上のレンズが必要なのだろうか。しかし確かワンクラス上の超望遠レンズは110万円はしたはずだ。
またしても羽を広げて立ち上がる鴨。飛ぶのか?飛ばないのか………? 飛ばない。。。。。。
上の写真、なぜかシャッタースピード1/200秒で撮っていた。ちょっと手ぶれ防止に厳しいシャッタースピードだが等倍で見ると顔やくちばしはシャープでブレていないし、羽の描写が面白い。舞踏家を捉えた前衛写真のようだ。
背景が近いせいか、F5.6なせいか、超望遠でも背景があまりボケない。しかし池の波紋は綺麗に描写している。
ピント合わせが難しい。こちらに顔を向けると、ピントがくちばしに合いがちだ。奥行きが長くなる。
F5.6という開放F値。これ以上上げると昼間とはいえ、ISO感度を更に上げなくてはならなくなるのが痛いところだ。しかし開放からの描写も抜群である。やはりF値が大きいから開放でも収差は生じないのだろうか。
RAW現像でシャープネスを強める
開放からでもシャープに写るので、鳥の羽の細やかな描写も優れている。RAW現像のデジタルレンズオプティマイザをオンにすれば更に若干シャープな描写に。シャープネスも上げてみるか。しきい値2に下げて、細かさは7に上げる。強さは6に。この数値には特に明確な根拠はないが、よりシャープになった。
シャープを強めると何が良いかというと、ブログやツイッターで縮小表示されたときに、鴨の描写が驚くほど鮮明に表示される。密度が高くなるのであたかも目の前に実物があるかのような描写をする。このあたりピクセルを従来よりたくさんギュッと詰め込むRetinaディスプレイと似たような理屈だろうか。本当に凄い高価なカメラとレンズで撮ったような写真になる。まぁカメラの方は1DXで実際に高価ではあるし、レンズの方も100万円の超望遠レンズと比べるとグンと安いが、15万円はするから他の消費財と比べると高級品の類いに入るかもしれないが。しかしシャープネスを強めると間違いなくよい。鳥なら女性と違ってガリガリな描写になっても文句言わないだろうし。
余談になるが、Retinaディスプレイと言えば、デジタル写真に求められる画像サイズが2倍に跳ね上がった。画素数に直すと4倍。ややこしいので詳しくは省くが、画像サイズを二倍にしないと、Retinaディスプレイではボンヤリとした表示になってしまう。例えば従来のパソコンで長辺1000ピクセルで表示させている画像は、2000ピクセルにしないとボンヤリとした描写になる。Retinaディスプレイが出る前はそんなことを気にする必要はなかった。まさか1ドットに4ピクセルも詰め込むような仕様のディスプレイが出るとは予想していなかった。デジカメの画素数が1000万画素を超えたあたりから、高画素不要論も出ていた。しかし実際はディスプレイ側の技術革新で高画素を要求されるようになった。例えば27inchのiMac Retinaディスプレイで鮮明に壁紙を表示させるためには5120 x 2880ピクセルの画像サイズが必要だ。Canon 1DXの画像サイズが5184 x 3456なので、1810万画素でちょうど良い計算になる。ただこれから8Kや11Kなんてテレビも出るそうなので、果たしてどうなることか。今後はテレビで写真を見るというスタイルも主流になるかもしれないだろうし。なにせ4Kテレビで見た写真や4K動画が素晴らしく綺麗だったので、パソコンで見るよりも4Kテレビで見ないともったいない。買おうかな4Kテレビ。最近安くなってきてるし。テレビ1日に1時間も見ないけど買おうかな。
古いレンズで描写性能が気になるならデジタルレンズオプティマイザをオンにする
Canon EF400mm F5.6L USMは20年以上前に出たレンズ。その頃はデジタルカメラはまだなくフィルムカメラの時代だったはずだ。だから描写力はどうなのだろう。レンズというのは新しければ新しいほどよい。デジタルに対応した最新の技術が製品に投影されているからだ。
しかしキヤノンのRAW現像ソフトDPPには、デジタルレンズオプティマイザという機能がある。最新のカメラなら、カメラ側にもこの機能は備わっている。この機能をオンにすると、収差や周辺光量落ちなど、レンズの描写の欠点を補正してくれる。今回もオンにしてみたら、ちょっぴりシャープな描写になった。
ピクチャースタイルは無難なスタンダード。彩度はどうしよう。2くらいに上げてみた。カラフルで美しい鴨がよりビビッドになった。しかしこうして見ると鴨の体って、凄い色だ。黄色に緑に青に白。カラフル。生命の神秘。今まで気づかなかったし気にも止めなかった。写真を撮っているといろんなことに気づく。