今年の紅葉は例年よりも早いらしく、既に見頃を過ぎた場所もあり、いい古都チケットやその他の一日乗車券を前もって購入していた筆者としては、急いで京都に行かなければならなかった。京都国立博物館で開催されていた国宝展の前売りチケットも期限が迫っていたので、紅葉を観にいくついでに足を運んだ。
博物館の方は国宝だけあって激混みで、待ち時間は小一時間ほど。四時間近くも時間が過ぎてしまい、博物館を出た頃には昼の3時半を回っていた。
しかし紅葉ってそんなにいいものだろうか。桜に比べるとなんだか華やかさで見劣りするような感じもするのだが。そんな半信半疑な気持ちで京都を巡る。なんてことをぼやいておきながら、京都紅葉観光のために、旅のムックを二冊買って、京都紅葉旅という写真集まで買って予習しておいた。しかし今年は例年よりも早い紅葉の色づき具合ということで、予定が色々と狂ってしまったのだった。
博物館を出ると、青いブレザーの制服を着た女子高生と思しき一団と大勢すれ違う。近くに学校があるのだろう。来た道を辿ったが京都市バスの207番のバスが止まる停留所が見当たらない。206番しか止まらない。出口を間違えていたことに気づきグルっと回って、来た時に降りた停留所に着く。やってきたバスは202番だが、目的地には着く。ここから一番近い場所は東福寺。しかし最終拝観受付時間は午後4時とある。なんとも中途半端な時間に出て来てしまったものだ。仕方なく東福寺は諦め、そのままバスに搭乗して東寺に向かうことにした。
東寺の南西側にバスが止まる。東口の方が近いから便利なのだが東口には止まらない。そうだ乗っていたのは202番のバスだった。遠くに東寺の五重塔が見える。少し歩いて南門から敷地に入った。ぐるっと回って入り口に向かったが、外から眺めた限りではもう紅葉は散りかけているのではないかと思われる様だった。夜の特別拝観の料金は1000円。うーん、1000円払って紅葉があまり撮れなかったらどうしよう。桜の時期はすごく綺麗だったんだけど、やっぱり紅葉はあまり映えないかな・・・。
通りすがりの観光客のおばさんが「東福寺の紅葉を見たらこっちのはねえ・・・」なんて口にしていたのも聞こえて来て、すっかり気が滅入ってしまい、夜の特別拝観まで時間がかなり余っていた事もあり中に入るのを諦め東口から出ることにした。ここには来年の春に来ることにしよう。
バス停でバスを待つ。高台寺でも確か夜の特別拝観をやっていたはずだ。今年はプロジェクションマッピングもあるという。春に訪れた時も枯山水に壮大な枝垂れ桜で心打たれた高台寺に新たに目的地を定め、寒風の中やって来た207番のバスに乗り込む。
バスの中が暖房がよく効いて暖かかったので、ずっとこのままバスの中に座って何周も乗りつづけていたい気分だった。始点の四条河原町に近づくと、観光客がたくさん乗り込んで来た。隣に中国人のガタイのいいお父さんが乗り込む。バスは満員。「清水寺へお越しの方は後ろの方にご乗車ください」とバスの運転手が繰り返すので、皆清水寺目当てなのだろう。これ、絶対高台寺で降りれないな。
皆がぞろぞろと降りていくバス停で僕も降り、清水寺へ向かった。もう何度目だろうか。今回で5度目だった気がする。両側に軒を連ねる土産物店の灯りが眩しく灯る中、坂道をゆっくりと歩く。坂の上に着くとちょうどライトアップが始まり、朱門があかあかと照らし出された。歓声があがり皆スマホを頭上に掲げて写真を撮り始める。
400円のチケットを買って中に入る。修復中の清水寺は巨大な櫓が組まれて全体が覆われている。そんなところに行って楽しいだろうか、写真を撮って映えるだろうか、皆同じように思っているみたいだ。結論からいうと、清水寺を出る頃には「来て良かった」という声が方々から漏れ聞こえてくることになる。
ある意味今しか見れない貴重な姿でもある。葛飾北斎か歌川広重が生きていたら修復中の清水寺の姿を浮世絵に描いていたかもしれない。手前の紅葉があかあかと照らされまだら模様に色づいている。まるで燃えるような色づきだ。背後の山からは青い光が京都の街に向けて空に放物線を描いている。現代ならではの粋な演出だ。
本堂を出て坂を曲がりながら下ると、今度は本堂の下に出るのだが、ここから見える紅葉も圧巻だった。写真で撮るのと実際に目で見る違いはあるだろうが、まぁとにかく圧巻だった。
この先の道に池があるのだが、これがまた鏡面になっていて、紅葉や朱い塔が美しく反射している。皆ここで足を止めてスマホや一眼で写真を撮っている。風がそよがず水面が微動だにせず、池がまさに鏡そのものと化している。池に近づくとお香の香りがしたのだが気のせいだろうか。
闇夜の中の紅葉もまた映えて美しい。
しかしこの日は昼食と夕食を取る暇がなかった。朝から駆け足で博物館と清水寺をめぐり、写真を撮るのに夢中になって京都らしい食も堪能していない。せめて両親へのお土産にとすぐ側にあった店で八つ橋を二つ買った。
紅葉なんてそんなに感動するものだろうかと半信半疑だったが、こうして観にいくと気分が明るくなった。これもまた撮影旅行の効用だろう。