PER 株価収益率 – 株式投資における代表的指標のカラクリを読み解く

株価収益率、いわゆるPERと呼ばれている指標は、株式投資で最も頻繁に参照される数値です。これなくしては株式投資は成り立たないと言っても過言ではありませんが、少し分かりづらい指標でもあります。今回はなぜ分かりづらい指標なのかを、様々な決算のケースから読み解いていきたいと思います。

株価収益率・PER(Price Eeaning Ratio)は、現在の株価を1株利益で割って求めることが出来ます。現在の株価は分かるけど、1株利益って何?となりますよね。

1株利益は、その企業の1年の純利益を発行済み株式数で割って求めることが出来ます。その年、1株で会社がどれだけの利益を上げたかを知ることが出来ます。1株=投資したお金とも捉えることが出来ますので、投資した1株がどれだけの利益を生み出したかと確認することも出来ます。

1株利益 = 純利益 ÷ 発行済み株式数

現在の株価を、先ほど求めた1株利益で割ると、株価収益率(PER)が導き出されます。

株価 ÷ 1株利益 = 株価収益率(PER)

仮に現在の株価が1,000円として、1株利益が100円だったとします。株価収益率(PER)は10倍と導き出されます。

今度は逆算してみましょう。株価収益率に1株利益をかけた数値が、現在の株価です。株価収益率(PER)が10倍、1株利益が100円ですから、10 × 100 = 1,000円の数字が出てきました。適正なPERの数値を知ることで、適正株価が導き出されます。

投資家から適正と目されている株価収益率の目安は、銘柄によって異なります。10倍が相当の銘柄もあれば、40倍が相当の銘柄もあります。また業種別のセクターによっても適正と目されている株価収益率の目安は異なってきます。

なぜ投資家から適正と目されるという言い方をしたかというと、株価は投資家の需給関係で決まるからです。株価収益率はその銘柄の人気のバロメータの一面もあります。人気の銘柄はPERが100倍を超えることもあります。

一方で相場の過熱感を示す目安とも言えます。日本経済新聞によって採用された225銘柄の平均指数である日経平均株価のPERの目安は大体12倍から15倍です。この数値を超えると割高感が出たといい、下回ると割安感が出たという言い方をします。

その銘柄の普段のPERがどの程度かを知ることによって、自ずと適正株価が導き出されることになります。平均より低ければ値上がりが見込まれ、高ければ値下がりするリスクがあります。

ただしこれはPERという数値だけを見た場合に限られます。PERは他の様々な要因で上下します。一例を挙げますと、本業の営業とは関係の無い、不動産売買や株式売却による損益が業績に影響を与えた場合、PERは極端に低くなったり高くなったりします。本業とは関係の無い取引なので、その影響は一時的です。しかし数値上に現れるので、惑わされることになります。PERが低いから割安かな、決算発表後にPERが高くなったけど、業績が悪くなってきてるのかな、と。実際には株や自社ビル売却で利益が水増しされていたり、店舗改装などの一時的な経費で利益が目減りしていたりといった理由である場合があります。

そこで決算書をしっかりと読む必要に迫られますが、決算書を読まなくても、Yahoo!ファイナンスのニュースに決算内容の概要が記されていますので、それを確認すれば、おおよその見当が付きます。

これらの外的要因を踏まえながら着飾られたPERの内幕を読み解けば、本来あるべきPERの姿が導きだれます。そこに一株利益を掛け算すれば、適正な株価も導き出されるというわけです。

しかしこれもあくまで一例に過ぎません。株価を決める要因は他にも様々なものがありますから、必ずしも株価が適正株価に治まるとは限りません。人の欲望で動く一面のある株価は、人と同じく気まぐれでもあります。

そもそも株価収益率・PERが示す倍率とは何なのでしょうか。

1株利益が100円の銘柄の現在の株価は1000円だとします。この株を1000株買うことにしました。価格は100万円ですが、1000株買ったので1株利益も1000倍して、株価収益率の数値は同じ10倍になります。

1株利益は、その年に1株が生み出した企業の純利益と見ることが出来ますから、同じく1000株で10万円の利益を生み出した株と見ることが出来ます。もし毎年同じ利益が上がるなら、10年で100万円の利益を生み出します。1株が(言い換えるなら企業が)生み出した利益が、投資家が購入した金額と同じになります。

PER10倍という言い方は、その企業の10年先まで買われているという表現に置き換えられます。PER15倍なら15年分、100倍なら100年先ということになります。

数値上ではPER10倍の株が同じ利益を10年間上げ続けていれば、株価と1株利益×10年は同じ数値となりますが、企業が上げた利益をまるごと還元されない投資家のメリットは何でしょう。

純利益に対する配当金の額の割合を配当性向と言います。配当性向が50%なら、純利益の半分が配当金に回されます。1株利益が100円で、配当性向が50%なら、配当金は1株あたり50円です。1,000株持っているので、配当金は5万円になります。10年間配当額が変わらなければ、50万円の配当金が入ってくることになります。20年間持ち続けていれば、投資家は元が取れる計算になります。その後会社が不幸にして潰れて株券が紙くずになっても、元は取れているので、トントンですが、配当金を配当性向50%で10年間額を変えず出し続けている会社が潰れるはずもありません。配当額と配当性向が10年間同じという事は、恐らく株価もそう変化していないかも知れません。様々な要因で株価は上下しますが、購入時と同じ額だと仮定すれば、市場で売れば、今までの配当金と併せて、2倍のお金が入ってくることになります。20年で100万円が200万円になりました。

一方で、1年間の利益が年々右肩上がりに上がれば、50%の配当性向が変わらなかったと仮定すると、配当金が増額されます。営業利益の増加や配当金の増額は株価を押し上げるニュースになります。証券会社のレーティングもバイやストロング・バイに格上げされ、目標株価も上がれば、そのニュースをきっかけに更に株価が上がります。1,000円の株価が1,500円になり、2,000円になりました。市場で売れば2倍のお金が手に入るだけで無く、配当金の分も加算されますので、2倍以上儲けたことになります。

ところで、会社の利益が上がると、株価収益率の数値も変化します。1年間の利益が倍になったと仮定した場合、1株利益が200円になりますので、株価収益率を導き出す計算式に当てはめると、PERは5倍と算出できます。

5年持ち続けていれば購入額と同じ額の利益を生み出してくれます。配当性向が同じ50%なら、そしてその2倍になった利益が今後10年間落ちることがなく利益を上げ続けられたならば、投資家は配当金だけで10年で元が取れます。先ほどの20年から一気に縮まりましたね。

直感的にPERを見るなら、PERが10倍から5倍になれば、誰の目から見ても割安と映るわけです。配当金も上がることが予想できます。

PERという指標は天秤のような役割を果たします。PER10倍の状態がその銘柄の適正な株価だとします。いつ確認しても大体PER10倍前後だから、この銘柄はPER10倍にある状態が、適正であり、そこから株価が導き出されていると言えます。株価は買いたい投資家と売りたい投資家の需給関係で動きますが、PERが動かなければ釣り合いが取れた状態の株価が続きます。

ところがPERが10倍から5倍になりました。これを割安感が出たという言い方をします。株価に割安感が出る要因は、決算発表で企業が利益を上方修正したときの他に、株価が何らかのニュースで下がったときなどが上げられます。株価が下がれば、PERの数値も下がります。仮に極端な例を挙げますが、外国で株価が大暴落したというニュースを受けて、1,000円の株価が500円に下がったとしましょう。1株利益は変わらず100円です。

株価 ÷ 1株利益 = 株価収益率

株価収益率(PER)は5倍に下がりました。

現時点では外国の株価大暴落のニュースは、業績に影響は与えませんが、今後は業績にマイナス要因になる可能性はあります。リーマンショックのことを思い出してみてください。アメリカのサブプライムローンの破綻がリーマンショックを招き、アメリカがくしゃみをすると日本が風邪を引くという箴言通りに、サブプライムローンの商品が余り組み込まれていなかった日本の証券市場にも悪影響を与え、更にはリーマンショックの影響で日本経済全体が冷え込みました。ニュースが起こった時点では、会社の利益は変わりませんが、不景気になることで会社の利益が半分に減り、結局はPER5倍だった銘柄は、株価500円のまま、1年後の決算でPER10倍になっていました。しかしPER10倍が需給関係のバランスから導き出された数値なので、500円は適正株価ということになります。皆PERを指標にしているのか、なかなか上がりませんし、下がりもしません。

仮に外国の株価大暴落のニュースが、実体経済に何の影響も与えなかったと仮定しましょう。会社の1年間の利益も減らず増えず。PER5倍に下がったのもそうですが、業績の数値が同じ場合に株価が下がると1株当たりの配当金を株価で割った配当利回りも上がりますので、投資妙味が出てきます。

( 1株当たりの配当金 ÷ 株価 ) × 100 = 配当利回り

株価1,000円の時の配当利回り

50 ÷ 1,000 = 0.05 × 100 = 5%

株価500円の時の配当利回り

50 ÷ 500 = 0.1 × 100 = 10%

配当利回りが5%から10%に上がることで、投資妙味が出てきます。この先実体経済には影響を与えず、株価は元に戻ると読んで購入してみることにします。その後、500円まで下がっていた株価はリバウンドで1,000円に戻りました。見事に2倍の儲けです。

投資家の一部に大暴落を待つ人がいるのは、こういった理由があります。実体経済に影響を与えないような大暴落は買いですが、読むのが難しいところです。英国のEU離脱により世界経済が再び悪化するのでは無いかという投資家心理の冷え込みから生じたブレグジット騒動がらみの大暴落は、結局は実体経済に影響を与えるかどうか分からないということで冷静さを取り戻し、株価はすぐにリバウンドしました。

先ほどPER10倍は10年先まで買われている、PER100倍は100年先まで買われているという表現をしましたが、果たして投資家が或る企業について100年先まで見据えているものなのでしょうか。自分の寿命よりも長い先までその銘柄を見込んで買うことがあるでしょうか。

ここにも数値上のからくりがあります。PER100倍を着けている高PER銘柄は、次のような要因が挙げられます。

  • 業績が頗る悪化した。
  • 店舗の改装など、営業に関わる一時的な費用が大きく計上された。
  • 本業以外の要因(不動産売買・株式売買)で損をした。
  • 投資家がその企業の将来を見越して青田買いしている。
  • 業績の先高を期待させるニュースが報道された。
  • 仕手株化した。

上の三つは先ほど解説しましたからここでは省きます。

PER100倍を着けている銘柄は、新興企業・ベンチャー企業が多いです。上場したばかりの会社で、利益も2倍・4倍・10倍と業績もうなぎ登りで将来性があるというわけです。今は100倍でも来年また利益が2倍になれば、PERは50倍に下がります。更に再来年業績が2倍に伸びれば、25倍。10倍なら一気に1/10のPERになります。つまりその企業の業務内容などから、先々の利益の伸びを見越して買われているというわけです。

もしその企業の事業内容が時代の波に乗って、今後数年先まで利益が急上昇する見込みがあるとすれば、PER100倍も実質的には適正内に収まっていると言う事が出来ます。

株価はニュースの影響を強く受けます。新薬が開発された、アプリが開発された、スマホゲームがリリース予定などの新規のニュースに触れると、その銘柄は反応して一時的に上がります。実際にそれらのニュースは事実を伝えているだけで、実際にそれらの事業から計上される業績の数値は伝えていません。業績そのものが確定したわけでも、実際に利益を上げているわけでもないので、憶測の域を出ません。ですからこれらのニュースに触れた銘柄は一時的に上がります。勢いが良ければ買いが買いを呼ぶ展開になり、投資家達の欲望が集まって急上昇のチャートを描きます。PERも100倍以上になることもあります。

しかし先ほども述べたように、大きな利益が出るという憶測でしかありません。ところが既にその銘柄を所有している投資家がポジショントークで、この新薬が実用化されれば莫大な利益を生み出すとか、このアプリは凄く役立つからあらゆる企業に導入されて業績が10倍になりそうとか言って積極的に煽り立てます。実際にはそれらの銘柄の株価は一時的な熱が過ぎると、元の株価に収まってしまう場合が多いです。

PERのからくりについては、こんなところです。高PERでも業績の先行きが期待されている企業は実質的には高PERとはいえなくなります。一方で低PERでも本業以外の利益の嵩増しで一時的に割安感に見えるモノもあります。また業種によっても人気度の違いから、必ずしも平均的なPER12〜15倍の基準値から見て、割安だとか割高だとかは言えません。投資家は、表の数値だけで無く、数値を動かしている裏のからくりを知ることで実質的なPERを読み解くだけでなく、各セクターの平均的なPERを知る必要もあります。

その数値のカラクリを知る上で、PER(株価収益率)は、実績PERと予想PERと呼ばれる二つの指標に分かれます。次回の記事では、この二つの違いについて考察していきたいと思います。