『シティハンター』を観に行った時にパンフレットが売り切れていたので、代わりに『刀剣乱舞』のパンフレットを買った。買ったからには観に行かなければ損だなという事で、数日後に同じ劇場に観に行ってきた。
刀剣乱舞は随分前にゲームをプレイしていたがすっかりやらなくなってしまった。同じ会社から出ている艦これもプレイしなくなって久しい。今はスマホゲームのFGOに夢中だ。そんな中で刀剣乱舞を観に行った。ゲームはプレイしなくなったとは言え普段の趣味のコスプレ撮影で頻繁に撮っているキャラクターなので作品に対する親近感はある。そういえば自分もコスプレしていた。
時代は近未来。歴史修正主義者が過去に遡って歴史に介入し時間を狂わせようとしていた。それを阻止すべく刀剣達が時間遡行軍と対決し八面六臂に活躍するというストーリー。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の日本版のようでもあるし、昨今の右寄りの歴史修正主義的な傾向の要素をそれとなく批判的に取り入れているのかも知れないが、そこまで深い政治的な意図はなさそうなのでその点は置いておく。
刀剣達がいるのは現代ではなく近未来。しかし近未来的なビルが密集しているわけでもなくスクリーンに漂う世界観はやはり刀剣が実際に武器として使用されていた中世。集う場所は古い神社の社のように見える。そこから時間遡行軍の歴史介入を阻止すべく、戦国時代にタイムトリップする。似たようなタイムトリップ物の映画に千葉真一主演の『戦国自衛隊』が思い浮かぶ。15年ほど前にドラマにもなった人気作だが、半世紀以上戦争をしていない世界的に希有で平和ボケした日本人が戦国時代にタイムスリップして、人間が奥底に持つ剥き出しの欲望と残酷さというものをまざまざと体感できる刺激的なシーンが盛りだくさんだった。そして上杉謙信のような義のために戦をする善人のような人物さえ、戦国時代では権謀術策にまみれざるを得ず仲間になった現代人を誅殺するという、人権などという概念がなかった時代の厳しさをも体感できる。
今作では刀剣達が山本耕史演じる織田信長、八嶋智人演じる羽柴秀吉と相まみえることになるのだが、どちらも歴史上強烈な人物なので、これといってショッキングなどんでん返しは起こらない。イメージ通りの役どころ。八嶋智人といえばどちらかというと猿と言うよりもNHK大河ドラマ『新撰組!』で演じた武田観柳斎のような知的なイメージがある。普段眼鏡もかけていることもあるだろう。猿らしさと言えばやはりNHK大河ドラマ『功名が辻』で秀吉を演じた柄本明の方が似合っている。過去には武田鉄矢も秀吉を演じたが、アレは猿と言うよりも面倒見の良さやお人好しさがよく出ていた。30年以上前に歌舞伎の5代目中村勘九郎が『豊臣秀吉 天下を獲る!』というテレビ東京系の正月の12時間ドラマで秀吉を演じていたが、あれもまた猿とは少しイメージが異なるが人情味溢れていて面白かった。ただその頃中村勘九郎が不倫騒動に巻き込まれてしまい、秀吉の日輪を模した馬藺後立兜だったか烏帽子だったか、役の姿のまま芸能記者会見に臨んだ姿は未だに脳裏に焼き付いている。ひょっとしたら「どうせならドラマの宣伝もやったろ」という破れかぶれな気持ちだったのかもしれない。ちなみにその甲冑姿はドラマの章ごとにタイトルと共にキャッチライトとして放送されていた重要なものであった。猿の秀吉と言えば一番似合っていたのは先日亡くなった堺屋太一原作のNHK大河ドラマ『秀吉』で主演を演じた竹中直人だろうか。ふと様々な秀吉像が頭の中を走馬灯のように駆け巡ったが、八嶋智人の顔は全く猿ではない。しかしそこに今作のトリックのひとつが隠されている所などは、敢えて猿に見えない八嶋を秀吉として起用した感がある。八嶋智人のヌードが見れるのは刀剣乱舞だけ!しかし信長の訃報を聞いて仰向けに転がって太陽が見えた時、後になって「儂はあの時見てしまったんじゃ、天下を・・・」と言うセリフはなかなかにキザだ。そして笑いから一転して付き添っていた刀剣達にショッキングなセリフを突きつけるところなどは、今作の中で唯一時代の残酷さを感じさせるシーンでもあった。
信長役の山本耕史はフジテレビのドラマ「一つ屋根の下」で病気を患っている弱々しい青年を演じていた印象が強く、こういう筋骨逞しい役を演じるようになるまで大きな存在になったのかとしみじみとしてしまった。城の格子窓から射し込む光に宛がわれた信長の顔がただただ凜々しく美しかった。
刀剣達は色々出てきたが自分のことをじじいと呼ぶ三日月宗近はこのような喋り方をするのかと意外。唇からこぼれ落ちるセリフの上品且つ威厳に満ちた響きは、NHK大河ドラマ『風林火山』で上杉謙信を演じたGACKTと似た趣があった。
そういえばこのキャラ撮ったなとかこのキャラ凄く似合ってるコスプレイヤーさんいたなとかあれこれ思いを巡らせながらスクリーンに動く刀剣達を観ていた。骨喰藤四郎は記憶喪失のようなキャラクターで華奢で女性らしい顔立ちだったが、やはり人気みたいだ。スクリーンを出てから後ろを歩いていた二人組の女性が、定本楓馬演じる骨喰藤四郎の横顔を随分気に入ったような口ぶりで話しているのが聞こえてきた。
エンドロールではミュージカルの主題歌がかかるのかなと期待していたが違っていた。最後のシーンで本丸に他の刀剣達も一堂に会して新しい審神者(さにわ)を迎えるシーンはなかなかに壮観だった。