デジタル一眼カメラが消える日

iPhoneXS MAXで撮影。最新のスマホだとここまで綺麗に撮れる。

先日キヤノンの株価を確認してみたら、いつの間にか3,000円台を割れていた。ここ最近の米中貿易戦争による世界経済悪化への懸念と円高の進行から日経平均株価が大波に呑み込まれていて、その影響をモロに食らっている部分もあるだろうが、キヤノン自体の業績の方も芳しくない。イメージングシステム(カメラ)の営業利益が、前年同期比18.5%減となっていた。

元々キヤノンの株価が大きく上がったのが2004年前後で、この頃はコンパクトデジカメの売上げが絶好調だったように記憶している。株価も2007年に上場来高値の7,450円を着けた。その後2008年9月に発生したリーマンショックの大波にさらわれキヤノンの株価は大幅下落、年明けには2400円台まで下落したが、実はリーマンショック以前からキヤノンの株価は暴落していた。

2012年7月には一時2308円を着けた。2012年からのアベノミクス相場で持ち直すかに思われたが、2,900円と4000円の間を行ったり来たりのボックス相場で、他の大型銘柄と比べると値動きが鈍くイマイチぱっとしない。潤沢な利益余剰金があるためか、良いのは配当利回りだけだ。

キヤノンの2019年最新見通しと2018年実績

イメージングシステム(カメラ)の2Q実績の売上高18年が2,510億円に対して、19年は18.5%減の2,047億円。営業利益は18年352億円に対して、19年は64%減の127億円となっている。

2019年最新見通しでは、イメージングシステム18年売上高実績9,704億円に対して、19年度8,650億円(対前年16.4%減)、内カメラは18年実績売上高5,949億円に対して、19年度見通しは4,973億円。

イメージングシステム全体の営業利益は18年実績1,267億円に対して19年見通し630億円と、前年比50.3%減。ちなみに2019年の前回見通しでは、売上高8,890億円、営業利益940億円だった。

レンズの新製品投入で下支えを図るとある。新RFマウントのミラーレスによるテコ入れだが、どこまで効果があるか、決算書の文言(数値ではなく)には希望的観測が掲載されているが、どちらにしてもカメラ全体の出荷数が減少傾向にある中で、今年度の利益改善の見通しは暗い。元々過去数年間には想定為替レートの読みが甘くて、為替の影響で利益が随分揺さぶられていた記憶もある。

キヤノンの直近10年間の業績推移

キヤノンの営業利益は、リーマンショックの影響が色濃い2009年を除くと、2016年以外はほぼ横ばいに推移している。良くもなく悪くもない状況だ。イメージングシステム(カメラ)の売上高に絞ると、13年度を頂点に緩やかな下落傾向が続いている。

キヤノングループ最新の10年(キヤノン)

この13年という年を軸に考えると、その要因が見えてくる。2013年にスマートフォンの保有率が60%以上に達している。総務省の統計にスマートフォンが現れる10年度は保有率9.7%、11年度は29.3%、12年度は49.5%と推移しているので、やはりスマホの興隆がカメラの売上げに影響を与えたのではないかと推察できる。

スマートフォン社会の到来(総務省)

スマホの登場でコンデジが売れなくなったと言われて久しい。実際にはフィルムカメラ時代よりもカメラそのものは売れているみたいだが、1度栄華を極めた製品が没落するとそのように言われる宿命にあるのだろう。

カメラ業界全体の出荷数比較2017・2018・2019年

カメラ全体とレンズ交換式、レンズ一体型カメラの2017年および2018年との比較を見ると、こちらも随分減っているように見受けられる。

デジタルカメラ生産出荷統計2019年(CIPA・PDFファイル)

2017年・2018年と比べるとどのカメラも出荷数が大きく減っている。2019年の今年はどうも出荷台数の落ち込み具合が比較的大きい。

スマホは小さくて持ち運びに便利でインスタ映えする写真が簡単に撮れる事に気づく

iPhoneXS MAXで撮影。デジタル一眼カメラよりも撮りやすい。

先日Twitterで話題になっていた抹茶屋さんに赴いた。せっかくだからインスタ映えする写真を撮ろうということで、Instagramはやっていないのだけれど、一眼レフカメラとレンズを取り出して装着し撮ってみたのだが、距離が狭くて撮りづらい。試しにiPhoneXS MAXで撮ってみたら、撮りやすかったし、スマホのカメラで撮った写真の方がインスタ映えというイメージがある。果たして一眼カメラを持ってきた意味は、と少し考え込んでしまった。

一眼カメラと交換レンズを使えば、雑誌のスイーツ特集に載っているような写真は撮れるが、55mmだと距離が取りにくい場所では撮影しづらく、店の雰囲気を楽しむ余裕が削がれる。

Canon 5DsRとOtus1.4/55の組み合わせで撮影。
Canon 5DsR + Canon EF24-70mm F4L IS USM
Canon 5DsR + Canon EF24-70mm F4L IS USM

一眼カメラはレンズも持っていかなければならないから嵩張る。機種に寄るだろうがカバンから出すのもレンズを装着するのも一仕事だ。最近のミラーレス一眼は小さな製品もあるが、キヤノンの新しいミラーレスはエントリ機と見た目も大きさもそうたいして変わらない感じだった。インスタ映えな写真を撮るならスマホで事足りる。わざわざレンズ交換式の一眼カメラを取りだして撮る必要もないように感じられた。

一方でインスタ映えなスポットで一眼レフデジカメで写真を撮っていると、「私も一眼持ってきたら良かった」とか「一眼で撮ったら綺麗に写るだろうなぁ」とかいう声も聞かれる。花火の撮影現場などでも、「一眼なら綺麗に撮れるだろうなぁ」という声を耳にしたことがある。果たしてそのように口にする人達の何割が実際に一眼カメラを手にして写真を撮ることになるかは、電子商取引の世界でのインプレッションに対する成約率のことを考えると悲観的な数値しか出てこない。

iPhone7 PlusからiPhoneXS MAXに変えて一番驚いたのは、写真が前機種よりも格段に綺麗に写っているということだった。iPhone7 Plusでも充分綺麗だったが、iPhoneXS MAXに変えると格段にクリアな写真が撮れるようになった。

iPhone7Plusで撮影した写真は、iPhoneで閲覧すると綺麗だが、iMac5kRetinaディスプレイで見ると粗が目立った。しかしiPhoneXSMAXで撮影した写真は、iMacで見ても一眼カメラと遜色ないほどに綺麗に写っている。等倍表示では細かな描写などがまだ塗り絵っぽく潰れていて多少見劣りはするものの、スマホで見るなら十分な画質だ。

花火写真にしても、ウサギやハートマークなどの絵柄の花火なら一眼カメラのバルブ撮影では形に収めることが出来ないが、シャッタースピードの速いスマホカメラならこちらの方が綺麗に形で撮れる。

一眼カメラで撮るような花火にしても、原理的には三脚と長秒露光が出来るアプリをインストールすれば、一眼カメラで撮るのと同じような花火が撮れるのではないか。要は一眼カメラと同じマニュアルモードでF値とシャッタースピードとISO感度を設定して撮れる機能かアプリさえあれば、理論的には撮ることは可能だ。

スマホのカメラがデジタル一眼カメラを凌駕する日は来るのか

インスタ映えな写真はスマホの方が親和性が高いなと感じたときに、ふと今のスマホが更に進化して、スマホ一つで広々と撮ったりアップで撮れるようになったり、F値、シャッタースピード、ISO感度をマニュアルで設定できるようになれば、今の一眼カメラの市場を凌駕するのでは無いかと思われた。既にスマホの登場でコンパクトデジタルカメラ市場は凌駕されてしまったわけだが、それが今度は更なる技術革新によってスマホのカメラが一眼カメラの市場を凌駕するようになるのではないか。

20年ほど前にデジタル一眼レフカメラが出たときは、画素数もそんなに多くはなく画質ももう一つだったが、それから5年ほどしてフルサイズ機Canon 5Dが登場し、その画質も高感度撮影を除けば現在のフルサイズ機とほぼ変わらない綺麗な写真を撮る事が出来るようになった。EOS 5Dの登場から14年ほど経つが、ライブビューや動画機能など撮影補助的な性能は多く備わったものの、画質が飛躍的に高くなったかというと、5Dで撮影した写真を振り返ってみると、それほど遜色はないし、高感度撮影以外では違いが分かりづらい。

筆者が普段撮影しているコスプレ写真は、ソフトボックスやストロボなど様々な機材を使ってカメラの設定を煮詰めて撮っている尖った趣味だ。しかし一般ユーザーはコスプレ写真を本格的には撮りはしないし、簡単に撮れればそれに越したことはない。たくさん売れたコンパクトデジタルカメラがそうであったし、かつて市場を席巻した写ルンですもそうだった。シャッターを押しただけで綺麗に撮れる、一般ユーザーにあまねく受け入れられるには利便性が第一だ。今のスマホのカメラもボタンを押しただけで綺麗に撮れる上にインスタ映えな写真が撮れる。時代の流行に乗っている。

となると、技術革新が進むにつれて、現行の一眼カメラは更に売れなくなるのではないか。もしスマホ1台で今の一眼カメラが出来ることをやれるなら、その方が良いに決まっている。すでに4K動画も撮れるようになっている。一眼カメラで動画を撮るのはこれもまたレンズやカメラの設定が面倒だが、iPhoneならボタン一つで簡単に撮れてしまう。三脚や動画撮影用のスタビライザーなどの周辺機器が必要だとしても、小さくて軽いから一眼カメラ用の機器よりは安く済む。何もかもがコンパクトに収まる。遠征撮影の時も身軽になるのは撮影者として有り難い。それに4K動画なら最近よく観光地で見かけるのはスタビラーザート一帯になった小型の製品だ。簡単に絶景の動画を撮っているあの姿を見ていると、大きなカメラで三脚に固定させて動画を撮っているのが馬鹿馬鹿しくなってくる。

克服すべき点はやはり画質だろう。フルサイズ一眼カメラと同等の画質で撮れる日は来るのだろうか。あと10年は来そうにはないが、技術革新によりデジタル一眼カメラがなくなる日のことを想像すると、これ以上デジタル一眼カメラや高価なレンズにお金を注ぎ込むことを躊躇われてしまう。EFマウントからRFマウントに変わったばかりでただでさえサンニッパなどのEFレンズの追加購入を躊躇しているところなのに。

デジタルカメラの登場でフィルムカメラが廃れていったように、またスマホの登場でコンパクトデジタルカメラがかつての勢いをなくしたように、更なる技術革新がデジタル一眼カメラを没落させる日は来るのだろうか。