2015年、何気に映像の世紀でグーグル検索を掛けると、NHKの国内放送編成計画書なるものがヒットして、新・映像の世紀が放送されると明記されているのを見つけ、はじめ目を疑った。あの伝説的歴史ドキュメンタリー番組が、新しい構成で放送されるというのだから。伝説がさらなる伝説を生み出すのだと、1人パソコンの画面の前で躍起になっていた。
本当に信じられなかった。あの映像の世紀が20年ぶりに、装いも新たに復活するなんて。インターネット上でも驚きの声が上がった。やはり伝説的番組だっただけに、反響も大きかった。
そしてふとひとつの疑問が湧いた。あの名曲「パリは燃えているか」は再び流されるのだろうか。メインテーマとして復活するのだろうか。映像の世紀のOPからED、番組中に様々なアレンジバージョンで流されたあの名曲は、新・映像の世紀ではいったいどのような扱いを受けるのだろう。
様々な妄想が浮かんでは消えていった。加古隆の作曲で全く新しいテーマ曲が作られる、いや旧・映像の世紀の「パリは燃えているか」にアレンジを利かせて、全く違った音楽に仕上がる・・・。
しばらくしてからNHKのサイトに、新・映像の世紀の公式ホームページがアップされた。音楽は加古隆とある。予告編の動画も再生してみると、「パリは燃えているか」が流れてきた!
久しぶりに旧・映像の世紀をyoutubeで探して、見返してみた。昔VHSテープで全編録画していたのだけれど、長年放置状態で、画質も悪くなってるだろうし、まともに動くビデオデッキ自体がもう家になかったので、とうの昔にテープを捨ててしまった。久しぶりに見返してみて、やはり様々な「パリは燃えているか」が流れてきて、感動したのだった。
放送当時、パリは燃えているかを何度も繰り返し聴きたくて、さっそくサウンドトラックを購入した。でもそこに入っている曲のリストの中で、「パリは燃えているか」は3ヴァージョンしかなかったと思う。もちろん他の曲も良かったのだけれど、早足でかき鳴らされる急かす様な曲調のものは入っていなかった。物足りなく思ったものだった。
それから5年後のミレニアムの年、ファンの期待に応えるかの様に、完全版と銘打った待望のサウンドトラックが発売された。しかしこちらの方も、完全ではなかった。7つのバージョンの「パリは燃えているか」が収録されていたものの、放送では流れていたけれど聴きたかった曲が収録されていなかった。
そしてそれから10年後の今年2015年である。新・映像の世紀が放送されるに辺り、新たなCDが発売された。その名も「パリは燃えているか =集成=」。もうダイレクトである。タイトルから見ても分かるとおり、「パリは燃えているか」しか収録されていない。
曲目リストを見てみよう。
- パリは燃えているか 新・映像の世紀 テーマ[2015年放送]
- パリは燃えているか ピアノ・ソロ Slow
- パリは燃えているか JAZZ クインテット
- パリは燃えているか 加古 隆クァルテット
- パリは燃えているか 追憶篇
- パリは燃えているか オルガン
- パリは燃えているか マーチ
- パリは燃えているか ピアノ・トリオ
- パリは燃えているか ブラス・アンサンブル
- パリは燃えているか ピアノ・ソロ
- パリは燃えているか コンテンポラリー
- パリは燃えているか 宇宙篇
- パリは燃えているか 木管アンサンブル
- パリは燃えているか JAZZ クァルテット
- パリは燃えているか 室内楽
- パリは燃えているか 映像の世紀 テーマ [1995年放送]
何と豪華な構成!映像の世紀ファン、あのOPとEDが大好きなファン、番組の中で様々なシーンで印象的に流された「パリは燃えているか」に熱い想いを滾らせたファンの為のCDといっても過言ではないだろう。ちなみに僕が聴きたかったのは、15番目の「室内楽」ヴァージョンである。
amazonで全曲試聴出来るので、ファンの方は是非聴いてみて欲しい。ジャズエイジに湧くアメリカだったり、威風堂々としたヨーロッパの皇帝だったり、月に到達するアポロ11号とそれを固唾を呑んで見守る世界中の人々、そしてベトナム戦争に従軍している米軍兵士だったり、映像の世紀を彩った様々な歴史的シーンが思い起こされる事と思う。
ちなみに「パリは燃えているか」は、第二次大戦のヨーロッパ戦線で、ノルマンディ作戦以降劣勢に立たされたナチス・ドイツが、連合軍がパリ解放に向けて迫る中、占領中だったパリを破壊しようとした際の作戦名で、実際に映画にもなった。実は新・映像の世紀のサウンドトラックが新たにリリースされるだけでなく、1995年と2000年にリリースされた旧版2枚も、2016年1月に再リリースされるそう。他にも新・映像の世紀の完全版サウンドトラックも発売予定で、旧映像の世紀の待望のデジタルリマスター版blu-rayボックスの発売も決まっている。放送が新たに始まり、映像の世紀周辺がにわかに活気づいている。
それにしても、新・映像の世紀は第6集で、スマホやビデオカメラで動く映像を記録して、ツイッターやYouTubeなどに即座に上げるのが当たり前となった我々がテーマとして取り上げられる予定なので、「パリが燃えているか」がどの様なシーンでどの様なアレンジを利かせて流されるのかが、今から気になって仕方がない。旧映像の世紀で19世紀末のパリから1990年代のユーゴ内戦まで様々な歴史的シーンで流れてきたあの名曲が、21世紀の現代に生きる我々そのものの活動シーンに宛てられるとしたら、歴史の奔流の中に我々はいて、その流れの中で我々は確かに過去に人類が紡ぎだした果実と罪の遺産を脈々と受け継いで生きているのだということを再認識させられるのかも知れない。