ポートレートを一番美しく撮れる時間帯は、夕陽の出ている時だろう。女性に内在する美しさを引き出すための光を余す所なく演出してくれる。夕陽をモデルの背後に逆光で撮るだけで、その日一日のクライマックスシーンが撮れる。
しかし夕陽が出ている時間は意外と短い。日中はあんなに頑強に頭上で輝いている太陽も、日が暮れ出すと早く沈んでしまうものだ。
木々の合間から夕日が射し込んでいるのを見つけて、逆光で撮影していた。レンズはOtus1.4/85。マニュアルフォーカスのみのレンズなので、ピント合わせに苦労するが、決まると開放にもかかわらずシャープな絵を紡いでくれる。いっそのことライブビューでピントを合わせようかとも思ったのだが、ファインダーを覗きながらトルクを回してピントを合わせる職人気質のこだわりも捨てがたい。
この写真はファインダーとライブビュー、どちらで撮影したのか忘れたが、夕陽を逆光で撮ると、本当に写真が美しくなる。F値も開放の1.4なので背景の緑がキラキラに暈けて更に美しさが増す。
実は幅の狭い小道で撮っていたので、85mmが若干窮屈だった。そこで55mmに変えようかと思ったのだが、レンズ交換している間に夕陽が森陰の向こうに沈んでしまった。こうしてシャッターチャンスを逃してしまったのだ。まるでミッドウェー海戦で敵空母を前にして、慌てて爆弾から魚雷に装填するという失策を講じた南雲機動部隊のようだ。
55mmに付け替えたところで、今度は先ほどよりも広く撮れてしまい、構図に締まりがなくなった。結局モデル二人に寄って撮ったのだが、これなら85mmを着けっぱなしにしたまま撮っていれば良かっただろう。惜しいことをした。
夕陽が出ている時間は意外と短いということを痛感した一日だった。