圧縮効果とは、被写体に背景を引き寄せる効果のことだ。被写体から大きく距離をとって撮影することでパース(遠近感)が弱くなり、あたかもモデルのすぐ後ろに遠くの背景があるかのように見える。
効果的に圧縮効果を得るには、中望遠レンズか望遠レンズが必要となる。被写体と大きく距離を取れば、同じ位置からどの焦点距離のレンズで撮っても圧縮効果の度合いは変わらないが、焦点距離の短いレンズで撮ると写さなくてもいい余分な箇所が生じ、トリミングすることが必要になるし、トリミングすれば画質や解像感に問題が生じる。描写の歪みといった細かい点や、背景のボケの問題も生じるだろう。圧縮効果を期待した写真を撮る為には、望遠レンズが最も適しているというわけだ。
筆者はこの日、85mmと200mmのレンズを持ってきていた。はじめはCanon EF200mm F2.8L II USMで撮って貰っていたが、開放F値が2.8で、解像感を得るためにF3.5まで少し絞って撮っていた。
二本持ってきていた85mmの内の一つは開放F値が1.2だったので、もっと背景を暈かすためにCanon EF85mmF1.2LⅡUSMを使って同じ構図でF1.8くらいで撮って貰おうと思い、レンズを変えた。
200mmと同じフレームの広さで撮ろうとすると、被写体に近づくので背景も同じように近くなり、更には被写体に近づくことと、開放付近のF1.8の被写界深度の設定で、大きな暈けが得られるかも知れないと期待したのだ。
実際に撮って貰ってデータを確認したが、暈けは強いのだが、何となく後ろの背景の引き寄せ方が弱いなぁと感じた。どうも被写体が際立たない。カメラと被写体との距離が縮まったことで、圧縮効果が弱まってしまった。
というわけで再び200mmの望遠レンズに変えて撮って貰ったら、シックリときた。開放気味に撮ることで、被写界が木々に埋もれずに際立つだけでなく、背景も綺麗な丸ボケでメルヘンチックな写真となった。
距離が若干異なるというのもあるだろうが、被写体と背景の双方を引き寄せるという効果を撮影者が実感しやすいのは望遠レンズの方だろう。実際に体感して貰うことでイメージしやすくなるのもまた事実だ。
人物を野外で撮影するなら、200mmという焦点距離は決して長すぎるということはない。一本持っていると、いつもとは違った表現を得られるレンズだ。F2.8の明るいLレンズにしては実売価格を10万円切っているので、手が届きやすいだろう。