十数年ぶりの東京旅行。元々10月中旬に東京でのコスプレ撮影予定が入っていたのだけれど、撮影に誘ってくれたレイヤーさんが仕事で行けなくなり一人抜けて、更にはメンバーのほとんどに仕事が入り合わせが出来なくなったので、お流れとなった。幸いにしてホテルの予約を取ろうとしていた直前に撮影がキャンセルとなり、旅費も三万円ほど浮くからそれはそれでいいかなと思っていた所へ、いつも撮影している仲の良いレイヤーさんとのLINEのやりとりの中で、週刊少年ジャンプに連載中の『呪術廻戦』というマンガのコスプレの併せを東京でやる予定なのだけれど、カメラマンが見つからないのでお願いできないかと言われ、2週間後の事だったがどのみち東京に行く予定だったのだからとホテルが空いていることを確認して二つ返事で引き受けた。
どうせ新幹線に乗って3万円かけて東京にコスプレ撮影に行くのなら、二泊三日して彼方此方を巡ってみたいという思いに駆られ、東京観光も兼ねることにした。ホテルはアイルートスタジオに比較的近い浅草に取ることにして、日程を組んだのだった。
東京の地理については全く知識が無く、浅草や銀座や新宿や渋谷が地図の上でどこに位置しているのか、ランドマークでもある東京タワーや東京スカイツリーがどこにあるのか位置関係がサッパリ分からない。まずは地図で調べることにして、名所旧跡などを巡りつつ、銅像なども撮りつつ、主要なスカイツリーや東京タワーなどを訪れてみるという予定を立てたのだった。
新大阪駅から早朝の新幹線に乗って4時間ほどで東京に到着。こだまだったかひびきだったか、新幹線の中で値段は最も安いが車内販売サービスもなく時間もかかる。以前に新幹線で凶器を使った傷害事件が起こったのをきっかけに、車掌だけでなく警備員が巡回するようになった。
富士山を車窓から撮ろうとしたが、内側の席だったので、富士山が通過する時間を見計らってデッキに移動してレンズを向けてみたが、曇ってて富士は見えなかった。同じ目的で後ろにいたおばさんに富士山見えましたか?と聞かれた。いや全くかすりもせず。
久しぶりの東京駅のホームに降り立つと、少し外国に来たような気分。明るい構内に真新しい洗練された土産物店が建ち並び人が大勢歩いている。JR東京駅からJR神田駅で降りて、別の路線に乗り換える際に、間違えて再び神田駅の改札を通ってしまった。JRの表示にすぐに気づき、眼鏡をかけた若い女性の係員にiPhoneのSuicaをキャンセルして貰った。
戦後の雰囲気を残した高架下脇の歩道を少し歩き、路線を乗り換え、無事浅草駅に着く。昭和30年代の頃のような雰囲気を残した古びた地下街があったが、目に止まった店主が気難しそうなのでそこはスルーしてホテルへと向かった。浅草駅から歩いて10分ほど。少し遠いように感じられた。チェックインはせずに先にライティング機材を詰めたショルダーバッグだけをフロントで預かって貰い、早速浅草寺へ。
ホテルの裏が浅草神社でそこから早速浅草寺の本堂である観音堂を拝むことになった。大きな赤い提灯が吊り下げられている。
そこから逆行するかのようにお線香が焚いてある常香炉の前に立ち、お香を手で招いて頭に漂わせた。
宝蔵門の裏だろうか、山形県から奉納された大きなわらじを拝みつつ、土産物屋が並ぶ仲見世を通っていく。よくテレビやTwitterで見る光景だ。そしてあの有名な雷門の前へ。しかしここに来るまでに雨足が強くなってきたので、交差点を挟んで斜向かいにある浅草文化観光センターで雨宿りすることにした。ここの屋上は浅草寺と五重塔、仲見世の通りを一望できる穴場スポットとしても知られており、早速エレベーターで展望台に向かったが、まぁ雨である。当然ながら曇っていた。
三井住友銀行の広告看板の主張が激しい。これもあと数十年したら誰かの貴重な資料になるかも知れないと思い、撮影していく。雨だったので階下へと向かう階段は立ち入り禁止になっていたが、どちらにしてもガラス塀が高く聳えているので、今いる位置の方が楽だろうと写真を撮っていった。
人はちらほら程度。混んではいない。外国人観光客の一家。階下に戻り雨が止むのを待ったが一向に止む気配はない。館内は観光案内のパンフレットや冊子などが置いてあり、浅草一帯の模型もあった。内装は伝統的な日本家屋のような出来たばかりの真新しい造りで、日本的なモノを求めてやって来た外国人観光客の受けも良さそうで粋である。
全く雨が止まないので諦めて浅草観光センターを出て、スカイツリー方面へと向かった。しかしスカイツリーが遠景にちらほらと見える度に胸の内が小躍りしてしまう。よくあんな高い塔を建てたものだ。
吾妻橋に辿り着き、例の有名なアサヒグループの本社ビルも見えた。
前回東京に来た際に車窓から眺めた覚えがあるが、ビルの屋上に据え置かれた泡とも草木ものとも似つかぬこの黄金色に輝く珍奇な展示物はその前衛的な見た目からてっきりお台場か新橋辺りのモノかと思い込んでいたが、庶民の町浅草にあったのだ。日常の中にある非日常、常識破りをすることで常識に囚われすぎてつまらぬ顔をして歩いている現代人達に笑いを催させて超高度情報化社会のストレスで生じた心の肝硬変に風穴を開ける役割を果たしているともいえる一個の芸術品、そのように小難しく考えなくとも、ビールでも飲めば酔いも回り旧い自分から新しい自分へと脱皮して気分も上々明るくなる。というようなことを思いながらこの巨大なビルの前を雨の中通り過ぎ、気がつくと墨田区役所の中を通っていた。
ほんの少しの雨宿りとなった墨田区役所を出て、ふと訪れる予定だった隅田公園の方に目を向けてみると、工事中の白い幕とオレンジ色の衝立が見えて興を削いだので、そこにある碑を訪れるのは次の機会に取っておいて、スカイツリーへと向かった。商業ビルなどを縫う道路の先に煙ったスカイツリーが聳えている。その突端は雨雲に覆い隠されていて見えない。
とうきょうスカイツリー駅に辿り着く。真新しい駅の名前。ここからどう行けば良いか迷ったが、「迷わず行けよ行けば分かるさ」のプロレスラーの名言を背に聞いて突き進んでいくと、スカイツリーの足下にある建物、チケット売り場に辿り着いた。しかしこれだけ曇っているとどうせ眺めもそれほど良くないだろうし、それほど良くない眺めに3,000円も払うのはいかがなモノかという思いも湧いてきた。それに今日一日で巡りたい所は色々ある先を急がなければならない。インターネットでスカイツリーから撮影した写真を見たが、大阪阿倍野のあべのハルカスから見た景色とそう大して変わらないような気がしてきたし、混んでいるので夜などは三脚を立てて撮影しづらいという恐れもあり、どうせなら向かいのスカイツリーイーストタワーの30F展望台からスカイツリーという建造物を撮ってみよう撮ってやろうという気になり行ってみた。
しかし初めての場所なので良く分からず、エレベーターを見つけたがベビーカー優先とある。エスカレーターまで6階あたりまで昇り、館内を少し歩いてから30Fのレストランフロアまで上るエレベーターに乗り換えようやく目的地に到着。早速展望室に向かったが、曇っている。
夜にまた来ようということで、電車で秋葉原へ向かった。十数年前にアキバのマクドナルドで昼食を取った際に、近くにいた同い年くらいの男性2人が、NHKスペシャル『映像の世紀』について熱く語っていたのを今でも覚えているが、そのマクドナルドは今もあるだろうか。一昔前に知り合いの地下アイドルが主宰するライブに足繁く通っていた頃に、難波の人通りの多い所にあったマクドナルドをよく利用していたが、先日前を通りかかったらなくなって別の店に変わっていた。
有名なラジオ会館の電飾を撮影していたら、少し離れた場所で西洋人の50代前後の男性も同じように撮っていて嬉しそうにしていた。きっと夢が叶ったのだろう。しかしそのラジオ会館が何を売っている店なのかはこのときはまだ分からなかったしこうして執筆している今も知らない。
通行人の顔が写りすぎていたので写真掲載は割愛。
雨の中で撮影していると角にメイドが2人ほど立っていてチラシを配っている。その先にあるのは電車の高架橋とセガのゲームビルと横断歩道を渡るアキハバラー達。
おそらく前回来たときはこの大通りを通ってそこのマクドナルドで昼食を取ったのだったか。どうもあちらの方には大通りでありながらめぼしい店が何もありそうにない予感がした。来るのは2度目というものの、前回来たときは本当に通り過ぎただけだったので、まだ秋葉原に歩行者天国があった頃だろうか。その歩行者天国がどこの通りだったのかも分からない。アキバも20年前と比べるとその町並みも随分と変わったそうで、先日Twitterでかつてあったアキバのビルが写っている写真が解説付きで回ってきた。その写真を見ると確かに秋葉原駅とその周辺は随分洒落た空間に様変わりしていたが、移ろいゆく街並み自体がオタクの精神性そのものの進化を具現化しているのではないだろうかと思われたくらいだが、通りを歩いている若い人達の顔つきは20年前と寸とも変わらない、やはり没交渉風で憂い顔のハバラーで少しは安心した。アキハバラー、アキハバラブ。
店には一切入らず、どこで何が売っているのかも良く分からないし、雨の降る中秋葉原を後にして東京駅に向かった。駅舎のリフレクション写真を撮りたかったからだ。恵みの雨。ということで案外早めに到着し暮れるのを待ってコンクリートの床にカメラを直置きして念願の東京駅のリフレクション写真を撮影。しかし東京に住んでいれば雨の降った日など気軽に来られるのだから羨ましい。それに東京はビルでもなんでも大きい。
時間が惜しかったし同じ写真ばかり撮っていてもしょうが無いので、切りの良い所で切り上げて東京タワーへ向かう。雨の中の東京タワー。ヱヴァンゲリヲン劇場版のポスターにも使われていた東京タワーの骨組み。前に東京に来たときは行き損ねたので、ワクワクしながら東京タワーに近づいた。
ビルの合間から見える空を激しく突くその勇姿がとても赤々として神々しい。蒸気をまとってボンヤリと神秘的な装いをしている。ドラマのロケにも使われている芝公園の方を攻めてみたら、これがとても絵になって良い。芝公園と言えばこの近くに政界を引退して貧しく隠遁していた自由民権運動の勇士・板垣退助の家があったそうだが、そのことを知るのは東京に帰って1ヶ月後に読んだ本の中でのことだった。
増上寺の方にも向かい、ここでも雨の恵みに扶けられてリフレクション写真を撮る。しかし東京はビルだらけ。大阪だって個性的なビルが建ち並んでいるが、東京のビルはそれよりも個性的で自由で大資本の腕力をまざまざと見せつけられているようで恐ろしくもある。富が怒濤の如く東京に一極集中して流れ込んでいるのが窺える。
そしていよいよ東京タワーへ。やはり外国人観光客がちらほらと多い。
ここで間近に東京タワーを撮影してから、赤羽の交差点へ向かい、雨の中三脚を立て長秒露光でタワーと光跡を撮影した。
ここにも中国人観光客の女性2人がいて、東京タワーを背景にスマホで何やら撮っている。随分長いこと居た。
さて、夜に再び訪れるといっていた東京スカイツリーへトンボ返り。ツリーその物ではなく、ツリーの向かいにあるビルにエレベーターで上り、閉店間際の飲食店で若い男女のカップルが今までのあまり明るくはない家庭遍歴について語っているのを聞き流しながら、雨粒がこびりついた窓ガラス越しに紫色に輝くスカイツリーを撮影した。
その後は野外で小雨の中しばし間近でスカイツリーを撮り、十間橋に向かった。川に映るスカイツリーのリフレクション写真が目当てだ。東京スカイツリーが下町のど真ん中にいきなりニョキニョキと伸びた未来的な世界樹のようでその周囲は、祖母が住んでいた甲子園のマンションから少し離れた市場の通りを思い出させるような古い商店街や家並みがひしめいていた。十間橋で撮っているとアラフォーの女性が近づいてきてスマホで同じように写真を撮ってどこかへ消えた。身なりからおそらく地元の人なのだろう。
ということで今日の撮影はおしまい。途中ドミノピザでLサイズのピザを注文し店内が暑かったので小雨の降る中、外で10分ほど待ってアツアツのピザを持ち帰った。浅草駅まで徒歩で向かい、近くのセブンイレブンでコーラの1.5Lを買った。
ようやくホテルに戻り、遅い夕食のピザを食べる。夜の12時を回っていた。残りは朝食にすることにして、風呂に入り、就寝。