先日大型併せを撮影した際に、データをRAWで渡して欲しいという要望があった。写真にこだわりのあるレイヤーはRAWでのデータを希望する。僕自身被写体の側に回れば、カメラマンからRAWデータの提供を希望するだろう。
しかしRAWデータで欲しいと言ってきたレイヤーは久しぶりだ。過去に一人いたが、RAWデータは渡すのが大変なのだ。なんせJPEGの2倍以上の容量がある。ギガファイルに上げるにしても、いつも10フォルダに別けてデータをアップロードしていたとしたら、20フォルダ以上をアップロードしなければならない計算になる。RAW現像が出来ないカメラマンからしたら撮影後の作業が減るからその方が楽で良いのだろうが、僕自身は1000枚近く撮っても、だいたい30分から1時間ほどでRAW現像を終わらせることが出来るので、RAWデータでのお渡しは、撮影枚数が多いこともあり、アップロードに時間がかかって、むしろ煩わしい。
それに基本、RAW形式でのお渡しはやらないと決めていた。何故なら巷でよく見かける有償の写真撮影サービスでは、顧客にRAWでデータを渡すことはしないという話を耳に挟んだからだ。
何故なのかはよく分からないが、原盤を渡すことは要するに、ラーメン屋や鰻屋が秘伝のスープやタレのレシピを客にせがまれても教えなかったり、コカコーラ社がコーラのレシピを金庫に保管してごく一部の社員しか知らないのと同じで、生活の糧や会社の利益を得る根幹に関わることなのだろう。
写真撮影サービスというのは、飽くまで写真を撮影してアルバムにしてお渡しするサービスに対して報酬を受け取っているのであって、プロがRAW現像して綺麗に完成された写真をJPEGやアルバムとしてお渡しするまでがサービスなのだから、何の調整も施されていないRAWデータまで渡してしまうと、サービスのイメージが崩れてしまうのだろう。RAWで渡したところで、顧客がうまくRAW現像できるとは限らない。だからこそ報酬を受け取ったプロが最高級の商品に仕上げて提供するわけだ。
RAWデータは渡さないという写真撮影サービスの姿勢は、外食産業が店で食事する雰囲気を提供する所までがサービスなので、残り物の持ち帰りは禁止しているのと似ている。だがそれは建前で本音はというと、持ち帰った残り物で食中毒でも起こされたら店が責任を負わされるというものらしい。要は事なかれ主義だ。他にも何か理由があったような記憶があるが忘れた。
写真撮影サービスのRAWデータに関しても、暗めに撮った写真やホワイトバランスの調整がシッカリできていない写真、試し撮り、ストロボが光らなくて失敗した写真、構図がひどい写真等を、他の写真と一緒に持ち帰られたら、この店は腕の悪いカメラマンしかいないという風評被害でも立てられかねない、店のイメージが悪くなるので、お断りしている面があるのかも知れない。
またその手のサービスで撮影している従業員が腕の良いカメラマンとは限らない。撮影サービスでは重要となるコミュニケーション能力を買われているアルバイトという場合だってある。つまりファインダーを覗いてカメラのシャッターは押せるけれど、ライティングやカメラの設定についてはそんなに詳しくないというタイプのアルバイトがカメラを担当している場合、後からパソコンでの調整が必要となるので、RAWデータは渡さない事も考えられる。やはり提供するサービスのイメージの問題なのだろう。
それにRAWデータまで渡すとなると、冒頭でも述べたがかなり大変だ。DVD-ROMに焼き付けるにしても膨大な枚数になりかねない。Blu-rayにすれば良いじゃないかと思われるかも知れないが、全家庭がBlu-rayを再生できる機器を持っているとは限らない。選択肢が増えれば増えるほど仕事の量も増える。かかる手間に対して受け取る報酬が見合わないと言ったところだろうか(渡すとしたら何十万円という高額になる可能性がある)。
RAWで渡すと顧客に現像前の生のデータを見せてしまい、サービスのイメージが悪くなる。それに仕事の量が増える、この2点が写真撮影サービスがRAWデータを渡さない理由のような気がする。
この点に関してはコスプレカメラマンも似たようなところがある。暗めに撮ったりホワイトバランスを調整していない写真をRAW現像で調整するわけだが、RAWのままお渡ししてしまえば、下手くそなカメラマンと誤解される恐れがある。また明らかにピントが合っていない写真は除いておかないと、ピントも合わせられないヘタクソカメコと罵りを受けることになるだろう。まぁ僕は試し撮りやピントの合ってない写真も全部お渡ししてるけど(失敗写真やピントの合ってない写真の割合が全体の2~3%と低いこともある)。
写真撮影というのは現場で最適にカメラやライティングを設定するのが最善ではあるが、撮影時間が限られる時がほとんどだし、更にクオリティの高い理想的な写真に仕上げようと思えば、RAW現像は必須だ。時々JPEG撮って出しを誇る人もいるが、あれは現場でのカメラやライティングの設定が上手くいった、もしくは上手くやれるという自慢話なだけで、他の不特定多数には余り意味が無い話だ。報道写真のような速報性はコスプレ写真とは無縁なのだから、お渡しするならRAW現像で最上の写真に仕上げる方がよっぽど良いに決まっている。
とここまでダラダラとRAWデータの取り扱いについて述べてきたが、さて実際にRAW現像のスキルに長けたコスプレイヤーからRAWデータを渡して欲しいと言われた場合、どのように対処すべきか。次の3つの選択肢が考えられる。
- こちらで最高の写真に仕上げることが出来ますよ。
- こちらが選択したデータだけRAWでお渡しします。
- 分かりました、全部RAWでお渡しします。
1番目は、まぁ揉める。こだわりの強いレイヤーとは結局折り合いがつかない。僕もコスプレをするからその気持ちはようっく分かる。
2番目は、何とか折り合いがつきそうだ。今回の依頼者には、集合写真だけRAWデータで渡すと折り合いを付けた。
3番目は大変。僕みたいに1日600枚から1000枚以上撮るコスプレカメラマンには大変な作業となる。
対応策としては、あらかじめレイヤーにデータ受け渡しの要望を聞いておき、RAWデータので受け渡しを臨むなら、レイヤーにノートパソコンとカードリーダーを持ってきて貰う。その際カードリーダーはbuffaloの高速転送タイプの製品iBUFFALO UHS-II対応 高速カードリーダー/ライター USB3.0 TurboPC EXモデルにすると良い。3,000円前後で売っている。500枚から1000枚程度なら、5分か10分で転送が終わるだろう。
しかしRAW現像に慣れていないレイヤーは、JPEGで受け取った方が何かと都合が良い。RAWはデータが大きいし、生半可なパソコンのスペックではRAW現像にするにしても処理がもたつきストレスになる。またRAWデータ自体容量が大きいので、パソコンのハードディスクの容量を圧迫しかねない点に注意しておこう。