初めて一眼レフデジカメやミラーレスデジカメを購入して、野外に出て花や空など様々な風景を撮っている内は、ストロボは余り必要ないかも知れない。
しかし、デジタルカメラを購入する動機としておそらく最も多いであろう、子供の成長記録を残すのが目的で購入した場合などは、屋内での撮影はストロボが必須となる。
一昔前と比べると、写真撮影の敷居はぐんと下がった。フィルムカメラからデジタルカメラへ移行したことで、撮った写真をその場ですぐに確認できるようになったし、カメラ自体の性能も上がった。解像感が増し、より綺麗に写真が撮れるようになった。
一眼レフデジカメとスマホのカメラの違い
スマホのカメラでも良いじゃないかという意見もあるかも知れない。確かに最近のスマホは性能が良い。写りも綺麗だし、最近は広角モードで撮ったり、背景を暈かしたりすることも出来る。長辺800ピクセルくらいに縮小して趣味でやっているブログに上げるには充分の画質だろう。何より撮った写真をすぐさまSNSに上げられる手っ取り早さが魅力だ。
しかし一眼レフデジカメやミラーレスデジカメは、スマホには出来ない表現もある。背景を暈かしたり、レンズを替えて様々な広さで撮ったりと、スマホのカメラと比べて表現の奥行きが深い。
旅の思い出や友達とテーマパークに遊びに行った記念写真なら、スマホでも申し分ないが、子供の成長記録を残したいなら、やはり一眼レフデジカメやミラーレスデジカメを使うと、より綺麗に、作品として残せる。親の子供を見つめる視線に込められた想いを、世代を超えて伝えることが出来る。要はスマホと一眼レフデジカメをその場のシーンに応じて使い分ければ良い。
しかし今現在の技術では、スマホで撮影した写真はスマホの小さな画面で観る分には綺麗に見えるが、写真鑑賞に最適であろう大画面のパソコンで見たりプリントアウトしたりすると、粗が目立ってしまう。2,30年前の安価なカメラで撮ったような画質だ。
本格的なストロボ撮影はスマホでは出来ない
そしてスマホに出来ない撮影がもう一つある。ストロボ撮影だ。
スマホにもストロボはついている。しかしそれは飽くまで内蔵型ストロボだ。正面から光を当てる。如何にもストロボで撮った写真になってしまう。
一眼レフデジカメにも内蔵ストロボがついているタイプの製品がラインナップされている。キヤノンはエントリー機に、ニコンはフラッグシップ機以外の機種に内蔵ストロボがついている。しかしカメラの内蔵型ストロボは光量が弱く、キヤノン製一眼レフデジカメデのように正面からしか光を発することが出来ないタイプもあるので、ストロボを当てた感がしない自然な感じで撮るのが難しい。
もちろん内蔵型ストロボが役に立たないというわけではない。屋内での咄嗟の記念撮影には役に立つ。パーティ風に騒いでいる写真を撮るなら、むしろ真正面からストロボを当てた方が、ファッション広告の写真にもよく見られるような臨場豊かな写真が撮れる。
しかし全ての写真を真正面からストロボを当てて撮ると、それは如何にも知ろうとが撮った写真になってしまう。せっかく高いカメラを買ったのに、それでは勿体ない。
一眼レフデジカメやミラーレスデジカメがスマホと異なるのは、別途ストロボを取り付けて撮影できる点だ。
カメラ上部のホットシューに取り付けたストロボを白い天井や背後の壁に向けて、ストロボの光をバウンスさせることで、如何にも真正面からストロボ光を当てた感じではない、柔らかい質感の光を被写体に当てて撮影する事が出来る。これがスマホに内蔵されているカメラとの大きな違いのひとつだ。
さてここから下の幾つかの項目は専門的な話になるので、「ストロボが必要な撮影シーン」の項目まで飛ばして読んで貰っても良い。
簡単にまとめると、スタジオ内で蛍光灯を光源にして人物を撮る場合、蛍光灯は太陽光と比べて光の見え方のズレが大きいので肌が青緑に写る。太陽光で撮る人物写真は肌の色綺麗に見えて最高。蛍光灯しかない居間やスタジオ撮影での、こういった青緑がかった肌の色ズレの手っ取り早い解決策としてはストロボが最適!ストロボ光は光の性質が太陽光と近いよ!というお話だ。
蛍光灯を光源にすると、人間の肌の色が青緑っぽい色になってしまう原因
さて、ストロボ撮影。以前赤ん坊の写真をストロボで撮ったことがある。Canon 5DとCanon EF24-70mmF2.8L USMの組み合わせで、家の畳の部屋で、蛍光灯の明かりの下で撮影した。さすがフルサイズとLレンズ、綺麗に写っていた。しかし今から見ると、写真に写っている赤ん坊の肌の色がどこか不自然だ。夜に居間で撮ったせいかどこか青っぽいような緑がかっているような、青と緑の中間色が被っている色になってしまう。何だか凄く不健康に見える。
スタジオ撮影でも同じ体験をした。ゴシックロリィタの服を着た女の子を撮っている時のことだ。自然光の入らないスタジオで、光源は天井の蛍光灯のみ。データを確認したら、肌の色が緑っぽくて冷たい。
これらの現象は蛍光灯が放つ光とそれを反射する物体との関連性に原因がある。或る光源が放つ光が物体を照らした際、すなわち光が物質を反射した際に、物体の色の見え方に影響を与える光の性質のことを演色性という。蛍光灯の光で撮るとどうしても緑の色が被る原因が、この光源の演色性だ。
物体そのものは本質的な色を持っているが、反射する光源によって、色の見え方は異なってくる。つまりスタジオ内で人物撮影する際に、本質的な肌の色を持つ人物に対して、蛍光灯を光源とする場合と、ストロボ光を光源とする場合では、人物の肌の色の見え方が異なってくる。これが写真撮影における光の演色性の違いによって生じる問題だ。
色温度と演色性 光の性質を知るための2つの概念
光の性質を表そうとする場合、色温度と演色性のふたつの概念が存在する。色温度(相関色温度)とは光の色のこと。完全な黒い物体を燃やした場合に放射される光の色を対象として、その際の温度を数値(ケルビン)で表記する。蝋燭は1800K、白熱電球は2800K、日中の太陽光は5500K、日陰は7500K、晴天の青空は12000Kといったように、光の色を数値で表すことが出来る。
人間の目で見ると、数値が低いとオレンジ色っぽく、中間では白、数値が高いと青っぽく見える。温度という言葉を聞くと、我々の日常感覚からすると暖かく見える色の方が色温度が高く、冷たく見える色は低いと逆のように思えるし、カメラの設定をする時にも勘違いしがちだが、それは光の色に対する体感温度の概念であって、色温度とはまた別の話である。色温度が低いのがオレンジっぽく見え、色温度が高い方が青っぽく見える。
色温度については、カメラのホワイトバランスの設定で、色温度【K】を選べば、数値で色温度を変更できるので、馴染みのある方も多いかと思う。2800Kに合わせた場合、それは白熱電球の光源下で撮影した時に、その色温度に設定すると、オレンジっぽくない、白を優先した自然な色合いの写真で撮れる。写真の色を意図的に冷たい色にすることで、暖かい色を相殺して、自然な色合いに見せるという仕組みだ。ケルビンの数値と実際にカメラが演出する色とは関連性がないことになる。カメラのケルビンの数値を2800Kに合わせたからといって、2800Kのオレンジ色の写真の色がなるわけではなく、2800Kの色温度の光源下でオレンジの色が被っていない綺麗で最適な写真の色になるようにホワイトバランスを調整するという意味だ。カメラは人間の目と同じように白い物体を白と認識できないから、ホワイトバランスや色温度の設定が必要というわけだ。
演色性について
光の演色性、こちらは余り馴染みがないかも知れない。演色性とは、或る光が物体を照らした時に、その光を反射した物体の色の見え方に影響を及ぼす、光の性質のことをいう。
光源の性質にも色々あるし、光源を反射する物体にも様々な性質がある。AとBの光源をαの物質、βの物質に照射した場合、その反射した物質の色の見え方(色ズレ)は、光源Aと光源Bでは異なってくる。また同じ光源Aで物質αと物質βを照らした場合も、光源を反射したαとβで色の見え方が異なる。
そこでJIS(日本工業規格)の演色性平均評価方法を用いる事でその差を量ることが出来る。昼の太陽光(色温度6774K)、すなわち自然光を基準光源として数値100で規定し、ある光源が物体に当たって反射した際のその物体の色の見え方が、基準光源が当たっている時と比べてどの程度再現されるかを、100-色ズレ数値の公式を使って数値で表す。平均演色評価用8色の平均と、特殊演色評価用7色を用いたふたつの評価方法があり、前者から導き出された数値を平均演色評価数、後者から導き出された数値を特殊演色評価数と呼ぶ。これら数値が100に近ければ、その光源は、基準光源としている自然光が当たっている時と近い色の見え方を再現できる(色ズレが少ない)という事になる。
これらの評価方式を使って、或る物質に対して、どの光源なら自然光を反射した時と最も近い色の見え方を再現できるかを、確認することが出来る。たとえばαの物質が西洋人の肌、βの物質が日本人の肌と規定した場合、自然光を反射した物質の色の見え方の再現度を表す数値である特殊演色評価数は、同じ光源を照射しても、αとβでそれぞれ異なってくる。
人間の肌の色を基準に光の演色性を調べたい場合は、この特殊演色評価数を使って比較する。JIS(日本工業規格)で西洋人の肌の色として規定されているR13の色と、日本人の肌の色として規定されているR15の色の特殊演色評価数を見て、各光源における演色性の優劣を調べる。自然光により近い色の見え方、色ズレが小さい光源を選ぼうとすれば、特殊演色評価数が100に近い数値を表示している照明をそれぞれの見つけ出せば良いという理屈になる。
光の色と、色の見え方の違い
さて、裸電球、所謂タングステンライトを見てみると、平均演色評価数(Ra)が100と表記されている。特殊演色評価数を見ると、どの項目も100だ。
色温度は2750K、つまり人間の目で見るとオレンジっぽい色に見える。太陽光を100と基準としているのになぜオレンジっぽい色に見える光源の演色性が、あらゆる物体の項目で100なのか。つまり色温度と演色性は異なるということだ。色温度は光の色、演色性は基準光源に対する再現性を表している。すなわち平均演色評価数が100であるタングステンは、色温度が低いのでオレンジっぽく見えるが、演色性に大変優れた光源であるという事だ。
だから昔の写真には光源としてタングステンが使われていた。演色性が優れているので、RAW現像で色温度さえ調節すれば、例えばこの場合は、色温度の設定を2750Kにすれば、昼の自然光で撮影した時と同じ綺麗な色が出るという事だ。逆に演色性の優れない蛍光灯を光源として使えば、色温度こそ昼の自然光と似ているが、演色性が劣っているので、昼の自然光で撮った時のような色の見え方をしないという事になる。
演色性平均評価方法に関する補足
演色性平均評価方法については、飽くまで或る光源を基準としてどこまで忠実に再現できるかの数値なのであって、基準とした光源に対して忠実な色の見え方が再現できるからと言って、人間の目で見た際に心地よく感じる色とは限らない。例えばキヤノンとニコンのカメラが弾き出す写真の色に関して言えば、キヤノンは記憶色で、日本人が好むややピンクっぽい肌の色に撮れるのに対し、ニコンは記録色で、本来ある日本人の肌の色、この場合は黄土色の肌で忠実に撮れるといったように、心地よく見える記憶色と、忠実に撮れる記録色のどちらが良いかといわれれば、風景写真家や研究者、警察関係者でも無い限り、ポートレート撮影を趣味とするカメラマンやモデルは、キヤノンの記憶色を選ぶだろう。
また夜の街灯を光源にしてストロボなしでポートレートを撮るという方法もある。このような撮影シーンでは、野外の臨場感を寄りリアルに出すためには、演色性に優れていない光源で顔が青白く写っていても、雰囲気が出ているので良い写真だと感じる人だっていることだろう。
この辺りの人間の主観的・アナログ的な好みは、演色評価数では推し量れない。だから必ずしも太陽光を光源として比較した場合の忠実な色の見え方の再現を選べば良いと言うことでもない。写真撮影の分野においては、その辺りの誤差は余り難しいことを考えなくても、ストロボを使えば全て払拭できる。
カメラマンが良く口にする「このスタジオの照明は撮りにくい」という理由は演色性の問題
良く自然光の入らないスタジオで光源が蛍光灯しかない場合、カメラマンがここの照明は撮りにくいということを口にすることがあるかと思うが、これは自然光を基準にした場合の蛍光灯の演色性が余り優れていないからだ。故に蛍光灯だけの光源しかないスタジオで撮ると、人の肌が青緑の色に写ってしまう。現場や家に帰ってからのRAW現像で、ホワイトバランスやホワイトバランス微調整である程度肌の色を調整できないことはないが、色温度は調整できても、光の演色性が肌に与える影響は、ホワイトバランスでは調整できない。
蛍光灯の光源で撮影した人物の肌をRAW現像で調整しても、なかなか理想的な肌の色にならない経験がおありの方もいるかと思うが、原因は色温度では調整できない光の演色性の悪さが影響している。だから蛍光灯しか光源のないスタジオで人物の肌を理想的な色で写そうと思えば、演色性の悪い蛍光灯の光を払拭するためにも、ストロボでの撮影が必要となる。
自然光を基準にした場合のストロボ光の演色性はとても優れているので、蛍光灯を光源にした時と比べて、綺麗な肌の色に撮れるし、あとからRAW現像のホワイトバランスやホワイトバランス微調整で理想的な肌の色に調整しやすいというわけだ。光の質が良い、悪いと言うのは、こういうカラクリがあったのだ。蛍光灯は「どこかから変な光が入ってきている」原因なのである。
光源の演色性の問題はストロボが全て解決してくれる!
演色性が写真に及ぼす悪影響の解決策として、ストロボが登場する。筋肉が人間の健康問題の数々を解決してくれるのと同じように、ストロボは人物撮影の諸問題を解決してくれる。ではどのような撮影シーンでストロボが必要だろうか。
ストロボが必要な撮影シーン
- 部屋の中での子供の成長記録の撮影。
- 自然光の入らないスタジオでの人物撮影。
- 通販やネットオークションの商品撮影。
- コミケやこみトレなど、屋内でのコスプレ撮影。
これらの用途でカメラを購入した場合は、すぐにストロボも購入することをお勧めする。何故なら、ストロボを使わないと綺麗に撮れないからだ。顔に影は出まくるし、環境光が被写体に及ぼす演色性も調整できない。昔撮った写真を見返してみて思ったが、ストロボを使わずにこれらの目的で撮影した写真はどれも影が出ていたり、色が青緑がかって不自然だったりして、綺麗に撮れていなかった。当初からストロボを使っていれば、もう少しマシな写真が撮れていたことだろう。僕と同じ後悔をしたくないなら、ストロボを購入することをお勧めする。
LEDライトではダメなのか
最近では撮影用のLEDライトも販売されている。LEDライトの利点は、数万秒の1で発光するストロボと異なり、常に光を放ち続けている定常光なので、明るさの調整をイメージしやすく、扱いが簡単な点だ。やる事といったら、スイッチを押して、被写体の前に置き、光量の調整ボリュームダイアルを回すだけ。
ただし、ストロボに比べて光が弱い。光の入らない暗い場所、例えば黒ホリゾントなどで被写体のみ明るく照らしたり、F値を絞ってシャープなポートレートやコスプレ写真を撮りたい場合には、LEDライトの光量では話にならない。光量が足りない分はISO感度を上げるという方法もあるが、ISO感度を上げると写真全体が明るくなるので、当然背景の黒も明るくなって中途半端な写真になり、黒のしまりが無くなる。黒ホリゾントで撮るなら、背景は漆黒でありたい。
またLEDライトの光の調整も幅が狭いから融通が利かない。それに被写体に対して真っ直ぐにしか光を当てることが出来ないから、光を操って遊べない。被写体の後から光の玉をパーンと光らせたり、フレアを作ったり。特にスモーク撮影、水撮影ではLEDライトは使えたものではない。ライティングで最も使える機材と言えば、やはりストロボ一択となるだろう。結局の所、LEDライトは写真表現における汎用性が低いのだ。単に被写体を明るく照らしたいだけなら良いかも知れないが、何かと不便であることだけは書き添えておく。
初心者が後悔しないためのストロボ選び
もしお金に余裕があるなら、純正メーカーの最上級クラスのストロボをお薦めする。キヤノンなら600EX II-RT、ニコンならSB-5000、ソニーならHVL-F45RMだ。市場価格は6万円前後だ。
何故最上位クラスのストロボをお薦めするかというと、やはり性能が優れているから。まずクリップオンストロボの中では、もっとも光量が大きい。光量が大きいという事は、様々な撮影のシチュエーションに対応できる。ストロボの光量が小さいと、表現できることが少なくなる。出来ないことはないが、色々煩わしい撮影になる。
つまり光量の大きいストロボは、ストロボが必要な表現の撮影において、汎用性を高めることが出来る。簡単に言うと、光量の大きいストロボを使えば、クライアントのどんな要望にだって応えられるし、どんな絵だって自由自在に撮れるという事だ。雨を光らせることが出来る、白い斧の色を変えることが出来る、テニスボールだって再現できる。
ワイヤレスで使うなら電波通信方式のストロボがベスト!
もしストロボを買うお金の余裕がない、そんな本格的な撮影は行わない、子供の成長記録などの家族の記念撮影程度という方は、フラッグシップストロボのワンランク下のストロボを選ぶと良い。市場価格は25,000円前後となる。
最近のこのタイプのストロボは、電波式に対応している。これまではストロボとカメラを離す撮影、オフカメラで使うワイヤレスタイプのストロボは、電波通信方式と赤外線通信方式の2つのタイプがあった。赤外線通信方式のデメリットは、カメラとストロボの間に障害物があると、通信が途切れてシャッターを押しても上手く光ってくれない点だ。例えば被写体の後ろにストロボを置いた場合、被写体が通信の邪魔をしてストロボが上手く光らないことが多い。
対して電波通信方式のストロボは、カメラのストロボの間に障害物があっても、難なく光らせることが出来る。
だからこれからストロボを買おうとしている方は、電波通信方式のストロボを選べば良い。キヤノンの新しいストロボは電波通信に対応しているので問題ない。ニコン、ソニーのストロボを購入予定の人は、ストロボが電波通信に対応しているか、カタログやスペック表を良く確認すると良いだろう。
居間やスタジオで壁バウンスしか使わないなら安いストロボでも充分
どうしても純正ストロボに電波通信方式に対応した製品がなかったり、もう少し安いストロボで良いという方、家の部屋の中で子供の成長記録の写真を撮るのがメインの場合は、赤外線通信方式でも良い。その場合、ストロボをカメラから離して使うオフカメラでの撮影ではなく、ストロボをカメラ上部のホットシューに取り付けて、ストロボの首を左右後ろに回して、ストロボ光を白い壁にバウンスさせて被写体を柔らかい光で撮る方法を頭の中に入れておきたい。
ストロボ光を白壁にバウンスさせるだけで、ストロボを正面から当てた感じのする如何にもストロボ光らせました的な写真から脱却できる。ストロボ光バウンス撮影では、ストロボはカメラ上部に取り付けるので、電波通信も赤外線通信も関係ない。通信を制御するためのトランスミッターや、ソフトボックスやアンブレラなどの機材を購入しなくても良いので、安上がりで済む。
バウンス撮影の問題は、撮影場所が白壁でない場合だ。白壁はストロボ光をバウンスさせるが、黒壁はストロボ光をバウンスさせないから効果が無い。和室に良くある茶色の天井の場合は、バウンスした光の色が天井の色の影響を受けて変わってしまうので、写真が変な色になってしまう。
また天井が高すぎる場所では、バウンス効果が無い。ストロボを1灯購入するだけで出来て安上がりだが、撮影場所を選ぶのがバウンス撮影のデメリットだ。
各社フラッグシップストロボ性能比較
では各社ストロボを見ていこう。表にまとめてみた。
Canon 600EX II-RT | Nikon SB-5000 | Sony HVL-F45RM | Nissin Di866 MARK II | |
---|---|---|---|---|
外観 | ||||
価格(税別) | 72,000円 aAmazonの最安値 |
72,500円 aAmazonの最安値 |
43,000円 aAmazonの最安値 |
47,380円 aAmazonの最安値 |
ガイドナンバー | 60 (照射角200mm設定時、 ISO100・m) |
34.5 (ISO 100・m) (照射角35mm) |
45 (照射角105mm設定時、 ISO100・m) |
60/105mm 54/85mm 52/70mm 46/50mm 40/35mm 36/28mm 31/24mm 25/18mm(ワイドパネル) ※ISO100相当 |
調光範囲 | 通常発光: 約0.5~30m クイック発光: ハイスピードシンクロ: |
0.6m~20m | – | – |
電波通信対応 | ○ | ○ | ○ | × |
照射角 | 20~200mm (ワイドパネル使用時14mm) |
– | 24mm-105mm ワイドパネル装着時 15mmレンズの画角をカバー |
24~105mm以上 (内蔵ワイドパネル:18mm) |
自動調光 | E-TTL II/E-TTL/TTL | i-TTL | TTL | E-TTL/E-TTL II (キヤノン用) i-TTL/i-TTL-BL(ニコン用) |
重量 | 約435g | 約420g | 317g | 380g |
ストロボスペック表のガイドナンバーの見方
ガイドナンバーはストロボが放つ光の明るさの数値となっている。ただしストロボ光はISO感度や照射角を変えることによって、ストロボ自体の出力は変わらないが、見かけ上明るさを増幅できることを念頭に入れて置かなければならない。ISO感度を上げたり、照射角を狭くしたりする(例:広角24mm→望遠200mm)と、ストロボの光を明るく増幅できる。
照射角とはストロボ光が広がる範囲だ。24mmだとストロボ光の幅が広がり、200mmだとストロボ光の幅が狭くなる。照射角の設定数値は、装着しているレンズの焦点距離に合わせて自動的に変わるが、マニュアルでも変えることが出来る。
各メーカーのストロボのスペック表を見て、気をつけなければならないのはガイドナンバーの表記方法だ。上述したように、ISO感度や照射角によってストロボの光の明るさは変わるので、同じISO感度、同じ照射角という条件で、ガイドナンバーの数値がいくつになるのかを自分で比較検討しなければならない。
スペックの数値から見ると、サードパーティ製のニッシンのストロボが照射角105mmでガイドナンバー60と最も光量が大きい(ただし電波式ワイヤレスには対応しておらず、光学式ワイヤレスのみ)。キヤノンはスペックの詳細を見ると、照射角105mm通常(フル)発光でガイドナンバー54とある。ソニーは照射角105mmでガイドナンバー45。4社の中では最も小さい。
ニコンは照射角毎のガイドナンバーの表が見当たらないので、スペック表を元にすると、照射角35mmでガイドナンバー34.5なので、同条件のキヤノンのガイドナンバー34と比べると少し大きい。同条件のニッシンのガイドナンバーは40となる。
ガイドナンバーから見ると、ストロボの発光量の大きさは・・・、
ニッシン > ニコン > キヤノン > ソニー
の順になる。
Canon 600EX II-RT | Nikon SB-5000 | Sony HVL-F45RM | Nissin Di866 MARK II | |
---|---|---|---|---|
ガイドナンバー(GN) ISO:100 |
54 | – | 45 | 60 |
Canon 600EX II-RT | Nikon SB-5000 | Sony HVL-F45RM | Nissin Di866 MARK II | |
---|---|---|---|---|
ガイドナンバー(GN) ISO:100 |
34 | 34.5 | – | 40 |
キヤノン・ニコン・ソニーのフラッグシップストロボは電波通信方式に対応!
キヤノン・ニコン・ソニーのフラッグシップ機はいずれも電波通信方式に対応しているので、障害物を気にすることなくワイヤレスストロボ撮影が可能だ。電波通信方式でワイヤレスストロボ撮影を行う場合には、マスターとスレーブ(キヤノンの場合の名称)のストロボが必要になるので、最低でも2台ストロボが必要になるが、カメラとストロボを連携させるトランスミッターを使えば、1台でもワイヤレス撮影が可能となる。電波式ワイヤレス通信に対応したトランスミッターはキヤノンからのみ発売されている。
キヤノンのトランスミッターの価格は27,000円前後する。ワイヤレスストロボ撮影を実現するには何かとお金がかかる。カメラオンでのストロボ撮影ならトランスミッターは必要ないので、ワイヤレス撮影をする予定がない場合は購入する必要は無い。
トランスミッターにも種類がある。電波通信方式用と赤外線通信(光通信)用のふたつだ。電波通信方式用のトランスミッターは、光通信方式のストロボを制御できない。同じく赤外線通信用のトランスミッターは、電波通信方式用のストロボを制御できない(※光通信方式に対応しているストロボなら使用できる)。間違えて購入しないよう注意が必要だ。必ずストロボの通信方式に対応したトランスミッターを購入するようにしよう。
ミドルクラスのストロボ比較
次にミドルクラスのストロボを見ていこう。価格帯としては25,000円前後と手の出しやすい価格設定となっている。
Canon 430EX III-RT | Nikon SB-700 | Sony HVL-F32M | Nissin Di700A | |
---|---|---|---|---|
外観 | ||||
価格(税別) | 36,000円 aAmazonの最安値 |
45,000円 aAmazonの最安値 |
29,800円 aAmazonの最安値 |
23,000円 aAmazonの最安値 |
ガイドナンバー | 43 (照射角105mm、ISO100・m) |
28(ISO 100・m) 39(ISO 200・m) (照射角35mm) |
32 (105mm、ISO100・m) |
54/200mm 49/135mm 48/105mm 47/85mm 41/70mm 32/50mm 28/35mm 25/28mm 22/24mm 17/16mm(ワイドパネル) ※ISO100相当 |
調光範囲 | 通常発光: 約0.7~23.6m クイック発光: ハイスピードシンクロ: (EF50mm F1.4レンズ |
0.6m~20m | – | – |
電波通信対応 | ○ | × | × | ○ |
照射角 | 24~105mm (ワイドパネル使用時14mm) |
– | 24mm-105mm ワイドパネル装着時 15mmレンズの画角をカバー |
24~200mm以上 (内蔵ワイドパネル:16mm) |
自動調光 | E-TTL II/E-TTL | i-TTL | P-TTL | E-TTL/E-TTL II (キヤノン用) i-TTL/i-TTL-BL(ニコン用) |
重量 | 295g | 360g | 約235g | 380g |
2万円台のストロボで電波通信方式に対応しているのはキヤノンとニッシンのみ
ミドルクラスのストロボは、キヤノンとニッシンのみ電波通信方式に対応している。他社のストロボは光通信方式のワイヤレスストロボとして使えるのか、サイトのカタログを見ても今ひとつ不明瞭だった。
こうして比較してみると、ストロボに関してはキヤノンが最も力を注いでいて、次いでサードパーティ製のニッシンが追いつけ追い越せで頑張っている感じだ。ニコンとソニーは、キヤノンやニッシンと比較するとストロボには余り本腰を入れていないように思われる。
ニッシンのストロボは、レシーバーを各ストロボに取り付ければ電波通信も可能
ニッシンからは電波式ワイヤレスTTLレシーバーAir Rも発売されている。ニッシンの各ストロボにこのレシーバーを取り付ければ、電話通信ワイヤレスでの撮影が可能だ。Air Rを取り付けたストロボは、コマンダーのAir 1で制御できる。
YongnuoやNEEWER等の格安ストロボも検討してみよう
最近スタジオでよく見かけるのが、Yongnuoのストロボだ。中華製のストロボに関しては数千円という破格の安さが最大のメリットだが、壊れやすかったり初期不良品に当たる確率が多かったりと、当たり外れが大きい。
マニュアル調光のみだが、自動調光を使わない場合は充分用が足りる。結婚式の撮影のように重要なシーンでなければ問題ないだろう。
製品の品質が不安定であることは否めないが、始めからその点を納得しているなら、スレーブも合わせて購入することで多灯ストロボが安くで実現できる。製品についての詳細は、Amazonのレビューが最も詳しいだろう。
NEEWERのストロボも人気だ。やはり3000円台という破格の安さが魅力。オンカメラでストロボを使うなら、これでも充分だ。
まとめ
各メーカーを一覧してみると、キヤノンのストロボシステムが一番充実している。2万円台の電波式ワイヤレス通信に対応した430EX III-RTが一際輝いている。ニコンは電波式ワイヤレス通信に対応したトランスミッターが販売されていない点を見ると、キヤノンの後塵を拝している感がある。以前一緒になったカメラマンも、ニコンは電波通信に対応したストロボが高い製品しかないと嘆いていた。ソニーはトランスミッターが発売されていないので、多灯ストロボを実現しようと思えばお金がかかりそうだ。
ニッシンストロボは、サードパーティ製の意地を見せつけてくれた格好だ。電波式ワイヤレス通信に対応したストロボも出しているだけでなく、レシーバーAir Rを光通信ワイヤレス方式のストロボに取り付ければ、電波式ワイヤレス通信が可能になるシステムを構築している点から見ても、機能性と価格面の双方でユーザーのニーズに寄り添っていると言える。
というわけでストロボ比較をしてみた。どのストロボが自分の撮影スタイルに合うのか見極めて、お財布と相談しながら選ぶと良いだろう。キヤノンユーザーである僕のお薦めはやはり純正のキヤノンのストロボだ。使用時の安定性と拡張性を考慮に入れれば、使いやすさと純正という信頼性の高さからもお薦めしておきたい。