シャッタースピード – 明るさ調整だけでなく写真に魔術的な効果を与えるカメラの設定

シャッタースピードを操れば、光跡を捉えることも出来る。

デジタルカメラにおけるシャッタースピードは、F値と同じように複数の役割を果たしている。査察英現場でシャッタースピードを調整する実践的な目的は、以下の3つに絞られる。

  • 明るさ調整
  • 手ブレ防止
  • 思い通りに描写する

シャッタースピードを遅くすると、それだけたくさんの光をカメラに取り込めるので、写真は明るくなる。

シャッタースピードを速くすると、カメラに取り込む光が減るので、写真は暗くなる。

イメージとしては、シャッターボタンを押してシャッター幕が長く開いていると光が溢れる。シャッター幕がすぐに閉じるような感じだと光が細る。

このイメージを思い浮かべれば、シャッタースピードの増減がデジタル写真の明るさに与える影響を実感でき、直感的に調整ダイヤルを回せるようになる。

良く晴れた日中での撮影時のシャッタースピード

日中の野外での撮影だと、シャッタースピードを限界まで速くする必要性に駆られるときがある。人物や花を主題に背景を暈かして撮るために、F値を小さくする。すると写真は明るくなるから、シャッタースピードを速くする必要がある。場合によっては、例えば快晴の日中にF1.4やF1.2等に設定した場合、1/4000秒や1/8000秒といった速さで撮る必要に迫られる。上述した様な状況下だと、1/250秒や、1/500秒といった設定では写真が白飛びしてしまうからだ。

付随的な話しになるが、シャッタースピードを1/8000秒のように超高速に設定すると、画面の端に薄い幕のような描写(ケラレ)が発生する恐れがある。筆者のカメラCanon 1DXでは1/8000秒で撮影した際に確認できた。ミラーが原因なのかシャッター幕が原因なのか不明だが、気になる場合はPhotoshopなどでレタッチする必要がある。

絞りを絞って撮った場合(F値を大きくした場合)には、良く晴れた日中でもシャッタースピードは超高速にする必要がなくなるから。上述したようなケラレが発生することはないから心配する必要はない。

シャッタースピードの設定では、手ぶれ防止を第一に優先させる

絞りを大きく絞ることによって、充分な明るさを確保するために日中でも手ブレしないシャッタースピードの設定よりも遅くする必要にせまれれる時がある。特に曇りの日や夕暮れ時はシャッタースピードを手ブレしない程度に遅くしても明るさが足りなくなるときがあるので、そういうときはISO感度をためらいなく上げると良い。手ブレとノイズ、即ちブレた写真とノイズで解像感が損なわれた写真、どちらがマシかと問われたら、ためらいなく後者を選ぶ。高感度撮影のノイズ処理で多少解像感・シャープネス・描写が損なわれても、パソコンの画面で縮小表示させたり、SNSなどでサイズを縮小させてアップロードしたりすればそんなに目立たない。また最近のデジタルカメラは一昔前と比べてノイズ耐性に優れているので、多少ISO感度を上げてもそこまで気にならない。

しかし手ブレは目立つ。縮小表示させても目立つ。原寸大表示させれば更に目立つし、描写が損なわれていることがハッキリと分かる。だから手ブレしないようなシャッタースピードを確保することはまず大事だ。

手ブレしないシャッタースピードを求めるための公式

暗い場所での撮影では、明るさ調整か手ぶれ防止か、この2つのどちらを優先するかのジレンマに悩まされることになる。

シャッタースピードを遅くすればするほど写真は明るくなるが、問題が生じる。シャッタースピードが遅すぎると、先にも述べたとおり手ブレした写真が撮れてしまう。

手ブレしていない写真を撮るためには、シャッタースピードを速める必要がある。しかし明るさも確保しなければならない。1/1000秒や1/4000秒などに設定してしまうと今度は明るさが足りなくなる。そこで手ブレしていない写真を撮るためのシャッタースピードの目安を基準に、シャッタースピードを設定する。

一般的にデジタルカメラでは、1/焦点距離×2(秒)のシャッタースピードに設定すると手ぶれ写真を防げると言われている。フィルムカメラの時代の基準は1/焦点距離だったそうだ。

デジタル画面はパソコンの大画面で写真を等倍表示させて鑑賞するから、ブレが判明しやすいのも原因の一端かも知れない。

50mmの焦点距離で撮る場合は、1/100秒が目安となる。85mmなら1/160秒、24mmなら1/50秒。200mmなら1/400秒。

筆者は50mmで撮るときは保険の意味も兼ねて1/125秒の設定で撮っている。このシャッタースピードに設定して自然光で撮っていても、油断したらブレるので、カメラをしっかりと構える必要がある。

現実的には、200mmの望遠レンズ使用時に1/400秒では明るさが足りないという事が度々生じるので、1/320秒で撮ることも多い。その場合は手ブレしないようにカメラをしっかりと構える。壁があれば肩に壁を凭せかけて撮るとか、しゃがんで撮るときは両肘を両膝の上に載せ、自分がが三脚になったかのような呈で撮るとか、現場で様々な手ブレ対策を講じる。

シャッタースピードを変えて最適な明るさ(適正露出)を求める

良く晴れた野外での撮影、それも単焦点レンズでF1.4などに設定していると、手ぶれしないシャッタースピードに設定していると、逆に真っ白な写真に仕上がってしまう。

そこでシャッタースピードを速くして、明るくなりすぎる問題に対処する。快晴の屋外では1/4000秒でも明るすぎる場合があるので、1/8000秒などに設定することもある。

逆に陽の当たらない場所や屋内での撮影、F値を大きく設定した撮影では明るさが足りなくなることが往々にしてあるので、シャッタースピードを遅くする。

このようにしてシャッタースピードで写真の明るさを調整できる。

シャッタースピードでストロボ光の明るさを変える事は出来ない

しかし例外もある。ストロボを使った撮影の場合だ。ストロボ光が当たっている部分はシャッタースピードを遅くしても明るくならない。ストロボが当たっていない箇所だけが明るくなる。この点に留意しておきたい。ストロボ撮影で明るさが足りなければ、ストロボの光量を上げるか、F値を小さくするか、ISO感度を上げて対処する。

これはストロボ光を使用する撮影の場合は、自然光のみで撮影した時に被写体が暗く写る環境で撮ることが多いからだ。ストロボの閃光とカメラのシャッタースピードがシンクロする設定、シャッタースピード1/200秒や1/250秒以内の設定で撮影した場合、1/60秒で撮っても1/250秒で撮っても被写体は暗いままで明るさは変わらないという時は、ストロボ光の明るさが足りないけどシャッタースピードを遅くしたら被写体が明るくなるから、という考えでシャッタースピードを遅くしても被写体は明るくならない。

その逆で、ハイスピードシンクロに設定して、1/200秒や1/250秒などシンクロ速度の上限を超えて高速なシャッタースピードで撮影する場合には、被写体に当たるストロボ光の明るさは極端に暗くなる。

シャッタースピードと明るさの関係

F値と同じでシャッタースピードも明るさ変化の基準がある。

シャッタースピードを2倍の速さにすれば、明るさは1/2になる。逆にシャッタースピードを1/100秒から1/50秒に遅くすると、2倍の明るさになる。

右に一コマ移動で明るさ半減
左に一コマ移動で明るさ2倍
タイトル 1/13秒 1/25秒 1/50秒 1/100秒 1/200秒 1/400秒 1/800秒 1/1600秒

       

カメラのダイヤルで直感的にシャッタースピードを設定する

現実問題としては、シャッタースピードを2倍にすれば明るさは半減し、遅くすれば明るさは2倍になると行っても、目視でその光量について正確に計るのは難しい。例えばF値やISO感度など写真の明るさを決定づける他の要素の設定を変えた場合、同じ明るさを保つために、1/3段ずつ変わるダイヤルのカチッカチッという感触の回収を、同じ回数だけ変えるという意識が働くときにこの単純な知識は役に立つ。

素早い撮影が必要なときは、明るさが何倍になる、半減するという正確な計算はあまり意識に上らない。やはりF値の1段、2段の計算の時と同じで、瞬発的な撮影時に数値を伴う余計な計算が頭を占めると構図など他の重要な要素に脳のリソースを割けなくなる。せっかくダイヤルが1/3段ずつ変わるように設定されているのだから、瞬発的にダイヤルを回して明るさを調整すれば良いだけの話だ。

結局のところ、撮影時はなるべく余計な算術を不要にして、構図や感性を引き出せるよう脳のスペースを出来うる限り空けておいた方が良い。

かといってオートモードで撮るのは、何も考えずに撮るのと同じで悪手であるし(構図や感性を最優先させる為、またスナップ写真の撮影には願ったり叶ったりの最高の設定なのかも知れないが)、自分自身が欲している絵作りで撮ろうとなったときに、かえって設定しなければならないカメラの設定が増えてややこしくもなるしピントも外したりもするので、マニュアルモードで撮るのが最もバランスが取れて良い。顔認識モードが優れていると言われているミラーレス一眼ですら、オートにしていたせいなのかピントが合っていなかったという事例なども聞く。

マニュアルモードでの撮影に慣れて来れば、出発点A→B→C→到達点Dという思考が、A→Dというように直感的にカメラを操作できるようになる。

シャッタースピードは魔術的な写真表現を可能にする

70mm | 5s | F11 | ISO:50 | M | landscape | NDfilter ND8
シャッタースピード5秒。明るさを抑えるためにNDfilter ND8使用。

明るさ調整、手ぶれ防止と、クロスさせて解説してきたが、最後に表現を操るシャッタースピードの役割について見ていきたい。シャッタースピードは写真に魔術的な効用をもたらす。

一番わかりやすい事例が、花火撮影だ。カメラをバルブモードにしてリモートスイッチを押し続けてシャッター幕を開いている間、カメラは花火の光跡を記録して、芸術的な写真を撮る事が出来る。

カメラをバルブモードにして長秒露光で撮影すると、時間差で打ち上がる複数の花火を1枚に収めることが出来る。
11mm | 13.2s | F14 | ISO100

これが普通の高速シャッタースピードだと、花火が花開いている一瞬を捉えるだけで、一般的なスマホのカメラで撮った花火の写真のように、ごくごく普通の味気ないものとなる。

同じようにして、光で文字やマークを描いたり、人の姿を半透明に撮影することも出来る。1点だけ異なるのは、バルブモードではなくマニュアルモードで、シャッタースピードを設定して撮影したことだ。文字書き終了のタイミングを合わせるのが難しくて撮りづらかった。

花火で文字を描いた。シャッター速度は10秒。
クルクル回転して貰った。人はボンヤリと写っている。シャッタースピード2.5秒。

バルブモードにすると、シャッターボタンを押している間シャッター幕が開いたままの状態になるので、自分の好きなタイミングでシャッター幕を閉じることが出来る。いつ打ち終わるか分かりづらい複数の花火を1枚の写真に収めたいときに、シャッタースピードを設定して撮るのは極めて現実的ではない。自分の良いと思ったタイミングでシャッター幕を閉じることが出来るバルブ撮影は、花火大会や光の文字書きに最適と言える。バルブモードで撮るときは、スイッチを押す指の振動によるブレを防ぐためにリモートスイッチを用いて撮影する。

スローシャッターで流し撮り

シャッタースピードを低速にして、被写体の動きに合わせてカメラを振って撮影する流し撮りという技法がある。流し撮りをすることで、メインの被写体は停まっていながら、背景が流れているように撮れるので、マンガの表現技法にあるような躍動感のある写真となる。

1/30秒の流し撮りで奇跡的にブレずに撮れた一枚。
1/30秒の流し撮りで奇跡的にブレずに撮れた一枚。

速いシャッタースピードで動きを止めて撮る

競馬の写真
シャッタースピード1/1250秒で撮影。

高速シャッタースピードで撮れば、人間の目では捉えられない一瞬を写し取ることも可能だ。上掲の写真のように馬が疾駆する迫力ある瞬間を、止めて撮る事が出来る。

シャッタースピードとストロボの関係

シャッタースピード1/200秒+ストロボ光。

ミルククラウンの作例が手元にないので、ストロボを閃光させて水撮影をしたときのコスプレ写真で代用した。シャッタースピードは1/200秒とそれほど速いシャッタースピードでもないが、ストロボの効用だろうか水の動きを綺麗に止めている。

シャッター幕全開の状態でストロボが閃光するX同調速度、カメラとストロボが同調(シンクロ)するシャッタースピードの上限設定が、フラッグシップ機のCanon 1DXが1/250秒、その他の機種は概ね1/200秒となっている。他のメーカーの一眼カメラでも大体同じだろう。つまりストロボを使った撮影では1/200秒もしくは1/250秒よりも速いシャッタースピードに設定すると、ハイスピードシンクロに変えて撮る事になり、シャッター幕が開いているあいだストロボが光を照射し続けるフラット発光(間欠発光・ストロボを高速で連続して光らせる)を行うが、ストロボ光が極端に暗くなる。

ハイスピードシンクロの解説(Canon公式サイト)

シャッタースピードでストロボ光を明るくすることは出来ないが、逆にシャッタースピードを、ストロボ光とカメラのシャッターがシンクロするスピードより速く設定すると光量を極端に暗くすることが出来る。ストロボ光が極端に弱くなるというデメリットをメリットとして有効活用できるシーンがあるのか、そこに利便性があるかどうかは撮影者の撮りたい絵によるだろう。

シャッタースピードのまとめ

  • シャッタースピードで写真の明るさを調整することが出来る。
  • ストロボ光の明るさをシャッタースピードで変える事は出来ない。
  • 手ブレしないシャッタースピードの目安を求める公式は、1/焦点距離x2(秒)
  • モータースポーツや競馬などの写真で動きを止めたい場合は高速シャッタースピードで撮る。
  • 自動車の光跡、滑らかな滝、流し撮りはスローシャッターで撮る。
  • 花火撮影や光で文字を書く写真を撮りたい場合はバルブ撮影。
  • 1/8000秒など超高速シャッタースピードにすると写真がケラレる場合がある