F値(絞り値)を完全マスター! – 写真の絵作りに最も効果的で重要なカメラの設定

カメラの設定で絵作りを操作するF値。この写真内のカメラではF3.5がF値にあたる。

F値を制することで写真を制すると言っても過言ではないほど、F値は写真撮影において重要な値である。F値を自在に操ることが出来れば、写真は格段に上達するし、残したいと想う写真により一歩近づくことが出来る。今回は写真の明るさを決める三大要素の一つ、F値について、実践的な事柄を交えながら重点的に解説していきたい。

F値の語源

F値のFは英語のFocal(焦点の)の略である。ちなみに焦点距離は英語でFocal lengthと言う。レンズの焦点距離を有効口径で割ることで、F値が導き出される。

F値は英語でF NumberやF Stopという言い方をするが、海外の写真の撮り方関連の教本では、F numberという言い方は見かけず、F stopが多かったように思う。この当たりの難しいところは覚えなくても撮影に差し障りはない。

F値の効果と実用

写真撮影におけるF値の直接的な役割は以下の3つになる。

  • ピントが合っている部分以外の暈けの量を操る。
  • 明るさを操る。
  • 解像感を向上させる

F値を操ることによる実用的な効果は、だいたい以下の2つに絞られるだろう。

  • 暗い場所でも撮れる。
  • 背景をキラキラに暈かしてメインの被写体を際立たせることが出来る。

それぞれ追って解説していく。

F値の基本的な機能

F値を上げたり下げたりすることで、ピントが合っている被写体の前後を暈かすことが出来る。前後という言い方をしたが、通常の撮影で意識するのは被写体の背景をどれだけ暈かしたいかという点だろう。被写体の前の方の暈けはどういうわけか背景の暈けと比べると意識されることが少ない、というか忘れがちになる。

覚えておきたいのは、F値を小さくすると写真が明るくなり、背景が大きく暈ける。F値を大きくすると写真が暗くなり、背景が余り暈けなくなるという点だ。

  • F値が小さい・・・写真が明るくなり、背景が良く暈ける。
  • F値が大きい・・・写真が暗くなり、背景が余り暈けなくなる。

F値を小さくすると、レンズの絞り羽根が開き、レンズを通してカメラの撮像素子に向かう光が一度にたくさん注ぎ込む。マニュアルモードでの撮影でシャッタースピードやISO感度の設定を固定した場合、F値を小さくすれば同じ時間で光がたくさん取り込まれるので写真が明るくなる。

逆にF値を大きくすると、絞り羽根が窄まり、1度に光を取り込める量が減る。シャッタースピードやISO感度を変えなければ、一定時間に取り込む光の量が少なくなり、写真は暗くなる。

絞り優先モードの難点

これはあくまでシャッタースピード・ISO感度・F値を固定して撮る事が出来るマニュアルモードの場合である。絞り優先AE(Auto Exposure:自動露出・Canon)モードで撮る場合は、F値を決めると後は優秀なカメラが最適な写真の明るさになるよう判断してシャッタースピードを自動的に変えてくれるので、光源に変化がなく同じ被写体を撮る場合には、F値を変えても明るさは変わらない。ここに自動露出モードで撮る時の難点がある。絞り優先モードで撮ると、明るさを変えたい場合にシャッタースピードも変わるから、ISO感度で調整しなければならない。明るさを変えるために2つの項目を変更することになり、二度手間になるのだ。

もちろん明るさを変えたくない時は、絞り優先モードで撮れば、晴れたり雲が出たりした場合でも、何も設定し直さなくてもカメラが自動で明るさを同じにしてくれるから楽だ。しかしこれも難点がある。カメラに設定している側光モードによって、画面内に写り込んでいる被写体の配置が変わると明るさが変わる。例えば同じ被写体を縦構図と横構図で撮った場合、片方の写真の明るさが変わることがある。

側光モードのややこしさから解放されるマニュアルモード

例えばキヤノンの側光モードは「評価測光」「部分側光」「スポット測光」「中央部重点平均」の4つあるが、これらの特徴を一つ一つ覚えて、適正露出を得るために即座に対応させるのは、手数がかかり面倒だ。お散歩撮影やスナップショットなどはその都度被写体も構図も変わるのでそれに併せて、シャッターを押したら適正露出で撮れるために逐一設定している時間も余裕も無い。

写真を撮る前に複数の余計な設定を弄るくらいならば、初めからマニュアルモードにして撮った方が、脳のリソースを無駄な設定に振り分けなくて済み、その分構図などに意識を集中させることが出来る。

自分で明るさを決めたい場合は、絞り優先モードよりも、マニュアルモードで撮った方が簡単だ。フィルムカメラと違い、現在主流のデジタルカメラは液晶画面で撮った写真の明るさを即座に確認することが出来る。暗ければ明るくなるように、明るければ暗くなるようにF値を調整すれば良いだけだ。白飛びや黒潰れもヒストグラムを表示させれば確認できる。

写真の絵作りに最も重要なF値という存在

F値を小さくすることで背景がボケてモデルが際立つ。

カメラの設定の三大要素、より直裁的に言うと写真の明るさを決める三大要素は、F値・シャッタースピード・ISO感度の3つだが、その中でF値の主な役割は、自分がイメージしている写真を撮るための絵作りにある。その為の重要事としてまず出てくる課題は、背景を暈かすか、全体をシャープに撮るかという選択である。

女性のポートレートを撮る場合は、背景を思い切り暈かした方が、被写体であるモデルが浮かび上がり、鑑賞者の視線が集中するだけでなく、背景をキラキラと暈かすことで美しい写真に仕上げる事が出来る。背景をきらめかせたい、モデルを背景から浮かび上がらせたい、モデルの体の一部分を強調したいといった時には、F値を小さく設定して、ピントが合っている部分以外を思い切り暈かすと、求めていた写真が撮れるようになる。背景を思い切り暈かす場合はF1.4〜F2.8の設定にする事が多い。

F値を小さく設定して背景を暈かすことで、モデルが際立つ。

F値を大きく設定して撮るシーン

逆に風景写真などでは、絞って撮ることが多い。F11やF22などに設定する。全体をシャープにクッキリと写したいからだ。富士山や壮大な紅葉を思い浮かべてみるとシャープに写す理由がお分かり頂けるかと思う。小さいF値にして暈かしてしまうと、ボンヤリとした失敗写真になりかねない。もちろん意図的に暈かす風景写真もあるから一概には言えないが、基本壮大な景色の風景写真はF値を絞って撮ることで写真全体に豊かな解像感を得ることを主眼とする。

富士山は水平に撮らないと都合が悪いが、ポートレートやコスプレは斜め構図はむしろ必須。
風景写真はF11まで絞って撮ることが多い。
新倉山浅間公園から臨む富士山と忠霊塔。
F11まで絞ることで前景の忠霊塔と遠景の富士山の両方にピントが合っているようにシャープに写す。

F値が小さいレンズは暗い場所で撮りたいときに便利

また同時にF値は写真の明るさを操ることが出来る。F値を小さくすると写真が明るくなり、大きくすると写真が暗くなる。どのようなシーンで有効かというと、例えば薄暗い部屋の中で三脚を使わずに手持ちで明るい写真を撮りたい時などは、F値を小さく設定すると、明るさを確保できる。明るさが足りない場合は、シャッタースピードを遅くしたり、ISO感度を上げて明るくする事も出来る。

たとえば三脚の使えない場所でのイリュミネーション撮影や夜景撮影などでは、F値の小さいレンズ(明るく撮れるレンズ ≅ 明るいレンズ)を持っていけば明るく撮りやすくなるという利便性がある。ISO感度やシャッタースピードでも明るさは操れるが、ISO感度を上げるとノイズが発生しカメラ内やRAW現像でのノイズ処理により解像感が損なわれるし、手持ちで手ブレしないよう意識してシャッタースピードを緩めるには限界がある。そこで手持ちで夜景を撮る場合には、明るい単焦点レンズを持っていくのが最も効果的となる。

レンズにより設定できるF値が異なる(開放F値)

F値の小さいレンズは単焦点レンズだ。開放F値F1.2、F1.4、F1.8、F2、F2.8などのレンズが明るく撮れるレンズと言える。暗いシーンで単焦点レンズが役に立つのは、開放F値が小さいからだ。開放F値とは、絞り羽根を全開した時のF値のことで、開放F値が、最小に設定できるF値となり、その値はレンズにより異なる。

開放F値がF1.4のレンズもあれば、F5.6のレンズもある。開放F値がF5.6のレンズは、一番小さく設定できるF値がF5.6なので、開放F1.4のレンズと比較すると背景が余り暈けないし、暗く写るレンズという事になる。余り暈けないし余り明るく撮れないレンズではあるが、暈けに関しては被写体との距離を縮める、もしくは焦点距離が長い超望遠レンズの場合にはよく暈けたりもするから一概には言えない。状況によって暈けの量は異なるし明るさもISO感度やシャッタースピードなど他の要素を変更すれば確保できるが、開放F値が小さいレンズと比べるとそれだけカメラの設定の自由度が狭まり、写真を撮る際の扱いが不便になる。特に超望遠レンズで開放F値が大きいと、手ブレしないシャッタースピードを高速に設定しなければならず、明るさを確保するという点で扱いづらく、暗いシーンでは使いづらいレンズとなるし、F値を大きくして撮ろうと思うとやはり暗くなるから高ISO感度頼みの撮影になってしまう。

開放F値の小さいレンズは高価で、開放F値の大きいレンズは安価な傾向にある。これも広角・標準・望遠レンズもしくはレンズに備わっている性能や使用されている素材によって値段は変わってくるが、基本的に、似たような描写性能や素材で開放F値の小さいレンズは高価で、開放F値の大きいレンズは安いと覚えておいて差し支えない。つまり開放F値の小さい高価なレンズは、背景が良く暈け、暗所のイメージにも対応できるので、自分のイメージしている写真が撮りやすくなるということでもある。撮れる絵の幅が広がる。

開放F値だけでなく最大に設定できるF値もレンズによって異なる

開放F値により一番小さく出来るF値の値は異なるが、F値を最も大きい値に出来る最大F値もまたレンズによって異なる。筆者が所有しているレンズではF16だったりF22だったり、F32だったりとF64だったりと異なる。最大F値に関しては風景写真をパンフォーカス(写真の手前から後ろまで総てにピントが合っているように見える)で撮りたいときに重要となってくる。

57mm | F22 | Ⅰ/2s | ISO100
57mm | F22 | 1/2s | ISO100

最大に設定できるF値がF16ではレンズの焦点距離に寄っては、例えば標準から望遠寄りのレンズで撮影する場合には、風景の手前からと奥まで(前景から遠景まで)ピントが合っているように見えない写真が撮れてしまう場合もある。

レンズの解像力を引き出して写真の画質を向上させる効果

開放F値2.8から一段絞ったF4の写真。

F値は写真の画質、解像感を決定づける要因でもある。開放F値で撮ると明るく撮れるし背景も良く暈けるが、レンズの描写力の欠点(収差)が様々な形で写真に出てくる。周辺の光量が暗く落ちたり、高輝度と低輝度の境に色収差・偽色・パープルフリンジが出たりする事などがそれに当たる。また解像力も弱く、画質が若干悪い。特に周辺部に行くほど画質が悪くなる。

これらの問題はF値を上げることで解消される。一般的には開放F値から2段上げることで、そのレンズの持つ解像力のピークを引き出せると言われているが、レンズによって解像力のピークは異なるようだ。キヤノンのレンズの場合はこの冊子を参考にするといいだろう。中央と周辺画質の違いまで解説してくれている。

F値を変えるときの1段、2段という言い方と明るさの関係

2段という言い方をしたが、明るさを今の状態から1/2もしくは2倍にすることを「1段下げる」「1段上げる」という言い方をする。今現在設定しているF値に√2を掛け算すると、「1段下がる」すなわち明るさが半減することになる。

とりあえず基準となるF値で暗記してしまった方が手っ取り早い。F値F1を基準に計算すると覚えやすい。F1に√2、すなわち1.41421356(ひとよひよとに ひとみごろ)をかけると、約1.4になる。F1からF1.4に設定を変えると、明るさが半減する。

(ちなみにF1.0のレンズはかつて50mmの単焦点レンズでキヤノンから発売されており、中古市場で一時期100万円をつけたことがあった伝説のレンズだ。どのような描写になるのか試してみたいものだ。)

F1.4に1.41をかけるとF1.974で、約F2になる。同じ要領でF2に1.41をかけるとF2.8。F2.8に1.41をかけると、F4に1.41をかけるとF5.6。同じように計算していくと、F8、F11、F16、F22となる。

現実的な撮影ではF22が上限かと思われる。先にも述べたように、レンズによって最大で設定できるF値(最大F値)がF16だったりF22だったりする。更に大きく設定できるレンズもあるが、フルサイズ機でF11以上(APS-C機ではF9以上)に上げると、回折現象による小絞り暈けが発生して、逆に描写が悪くなっていく。画質の善し悪しを山に喩えるなら、山の頂上に登ったその先を行くと下り坂になるようなものだ。ちなみにF64で満月を撮ってみたことがあるが、予想以上にぼやけた描写になっていた。

F64で撮影した満月。

逆に今現在設定しているF値を1.41で割れば、明るさが倍になるF値が導き出されるが、そんなことを撮影中に計算している時間も余裕もないから現実的ではないから数列を暗記した方が早いが、暗記するのも面倒なので、カメラのダイヤル操作に委ねれば良い。キヤノンのカメラの場合は、ダイヤルを三段階分動かせば一段明るく、もしくは暗くなる様にデフォルトで設定されている。つまりキヤノンのカメラでは、ダイヤルを一回カチッと回すと、1/3段明るさが変わることになる。この設定はカメラ側で変えることも可能だ。

F値の数列を暗記する意味

暗記のためにF値の数列を記してみよう。下の表からどれか適当なF値をひとつ選んでみよう。右のコマに行けば1段暗くなり(明るさが半分になり)、左のコマに行けば1段明るくなる(明るさが2倍になる)。

左に1コマ移動すると明るさ2倍
右に1コマ移動すると明るさ1/2
F1 F1.4 F2 F2.8 F4 F5.6 F8 F11 F16 F22

レンズの開放F値もだいたい上記の数値である事が多いので、暗記しておけば良いだろう。

実際に撮影していく内に覚えていくし、覚えられなくてもさして撮影に支障は来さない。写真の明るさの調整などは、先ほど述べたように液晶画面で確認すれば事足りるし、ヒストグラムも表示させれば白飛び・黒潰れを確認できるから、知らなくても何ら困らない。そもそも1段で倍、2段で4倍(もしくはその半減、半々減)と正確に覚えたところで、実際に撮る時にどれだけ役に立つか、写真の明るさ比較を記事にしたりする時くらいしか実際の撮影の場での効用はないようにも思われる。ただ絞りを2段絞れば解像感がピークになるといった教科書的な知識を理解するためには覚えておいた方が良いといった程度だ。覚えておいても損はない。

またイリュミネーションなどの夜景撮影に持っていくレンズを選ぶときに、ズームレンズCanon EF24-70mm F2.8L Ⅱ USMは開放F値2.8で、Canon EF24-70mm F4L IS USMのズームレンズ開放F値4よりも1段分開放F値が小さいから、2倍明るく撮れる、でも一方でF4通しのズームレンズの方は4段分の手ぶれ防止機能が付いているからシャッタースピードを4段分緩めることが出来る。でも手ブレ補正も絶対ではない、どちらを持っていった方が夜のイリュミネーション撮影のシーンで楽にかつ明るく撮れるだろう、Otus1.4/55は開放F値1.4だから、開放で撮れば通し2.8の大三元ズームレンズの4倍、通しF4の小三元ズームレンズより三段分の明るさで撮れるな、というように持っていくレンズを決めるときのおおよその基準にはなる。

開放F2.8のズームレンズでイリュミネーショを撮影。ボケと明るさを期待して開放F4ではなくこちらのズームレンズを選んだ。

超広角で広々と撮りたいという意図があれば、開放F値4で若干暗めでも、超広角11-24mmのズームレンズを選ぶ。明るさは他の設定、ISO感度やシャッタースピードで補う。

11mm | F5 | 1/30s | ISO1600

F値を操ることが出来れば、背景を暈かしたり、その逆に全体をシャープに写したりすることも出来る。明るさの調整も出来るし、F値を上げれば画質を向上させることも出来る。どのような撮影シーンでどう操るかは、個別の記事を参考にして頂きたい。