疲労と傷心のなか、ふと飛行機が撮りたくなって、大阪国際空港(伊丹空港)の離発着を見ることが出来る千里川土手に行ってきた。阪急梅田駅から宝塚線普通電車に乗って6駅目の曽根駅で下車。そこから徒歩で20分の所に、千里川土手はある。
殺風景な千里川が流れており、時代劇に出てきそうな背の高いススキが生い茂っていた。川はフェンスで遮られ、両側の土手から飛行機の迫力ある着陸を間近に見て楽しむことが出来る。
大阪国際空港を地図で見たら、芦屋市の住宅街の南北と同じくらいの長さがある広大な空港だと知った。肉眼で見たが、向こうの山の麓まで続いているかのように錯覚するほど奥行きが深い。
少し道に迷い、着いたのは昼の2時過ぎ。早速飛行機が頭上を通り過ぎたが、予想以上の爆音で度肝を抜かれた。二度三度と体験していく内に慣れてきたが、あれほど間近に飛行機が迫ってくると、ぶつかって巻き込まれるんじゃないだろうかと恐怖心を抱くほどだった。
胸のざわつきを押さえ、カメラとレンズを用意する。どうやら飛行機が着陸する時間帯には波があるらしく、そんなに間を置かずに何度も着陸する時間帯と、なかなかやってこない時間帯があるらしい。
空港と反対側の空を見ると何もないように見えるのだが、油断していると、急に遠くの方に飛行機と思われる小さな機体が白く燦めきながら徐々に大きくなっていく。16-35mmの超広角ズームレンズを、ゆっくりとやってくる飛行機に向ける。
その巨体をちょうどフレームの1/3位の大きさに捉えたと思ったら、フレームの中で巨大化するのはあっという間である。もの凄い爆音とスピードでフレームからはみ出して、反対側にある空港の滑走路の方へ着陸していく。息つく暇もない程だ。
これは連写モードで撮らなくてはいけないなと痛感した。この日持ってきたのは5DsRだったので、連写は1秒間に5コマ。1DXを持ってきていたら、1秒間に12コマの連写性能を発揮できていただろう。
なかなか飛行機がやってこない。キャップを被った年配のおじいさんに話しかけられる。東京から来たと言っていたが、ひょっとしたら聞き間違いかも知れない。航空写真を収めた分厚いアルバムを見せてくれた。「これはお腹の部分にくまモンが描かれていて、でもこないだの地震で故障したみたいで」「この飛行機何か分かる?そう、パンダが描かれてるの。ホラここにも小さいパンダが見えるでしょ」「これはスターウォーズが公開された時の飛行機で・・・」
話を聞いているだけで飛行機好きなのが分かる。現地で撮影した飛行機の写真だけでなく、話題の飛行機の映ったテレビのニュース画面を写した写真も持っていたから、相当の飛行機好きに違いない。娘さん二人もキャビンアテンダントとして働いていると言っていた。人生の素晴らしさを感じたひとときだった。
もう一人のおじいさんにも話しかけられる。こちらの方も飛行機の写真がたくさんつまっている分厚いアルバムを見せて貰ったが、話の途中で飛行機がやってきたので、中断してしまった。
日が暮れかけた頃に、飛行機が頻繁にやってくるようになった。空が薄暗くなり、飛行機のランプが目立つからそう見えるのだろうか。次から次へとやってくる。遠くの空に3機は見える。2本の航路があるらしく、大きな機体は南側に着陸する。その機体を狙って、土手にしゃがみ込み、広角レンズや魚眼レンズで狙っていった。
辺りを見回すと、原初の自然を残した一帯である。千里川は堤防で両側を固められているが、その周りはススキや雑草が生え放題だ。菜の花も自生している。飛行機がなければ、おそらく不気味なほど、一人で歩くには恐ろしいほどに静かだろう。直線に設置されている誘導ランプの鉄骨が、あまりにも人工的に褪せて見える。
日が暮れると滑走路にカラフルな誘導ランプが灯る。それ目当てだろうか、夕方5時を過ぎると、カメラを担いだ人たちが目につくようになった。三脚を立て、白い望遠レンズを構えて、着陸寸前の飛行機の後ろ姿を撮る。連写特有のこぎみ良い機関銃のような音が響いた。
この日は望遠レンズを持ってきていなかったことが悔やまれた。少しでも荷物を減らそうと、超広角ズームと魚眼、55mmの標準単焦点の3本しか持ってきていなかった。そもそもこの日は下調べ的、試し撮り的な意味合いでふらりと訪れたから、望遠レンズを増やしたり、三脚を持ってきたりするほどの心構えではなかった。
今度来る時は、望遠レンズと三脚を持って行くことにしよう。少年のように目を輝かせながら飛行機について話してくれるおじいさんに再会する事になるかもしれない。その時はこっちももっと色々と喋ることにしよう。