池田山から二度大阪の夜景を撮ったことがある。二度とも花火撮影のついでだったので8月の暑い時期だったのだが、池田山から大阪市街を見渡すと、遠くに高層ビルの連なりが見え、その中でポツンと頭ひとつぶん出ているビルがあることに気づく。
これが300mの高さを誇る日本一高いビル、あべのハルカスだ。
阿倍野という地は関西人にとってどのような位置づけなのだろうか。神戸市民の立場から見ると、かつての阿倍野は未知の領域だった。なぜなら神戸から大阪に出ようとすると、まず梅田に行き当たる。梅田ンジョンでも全国的に有名で、大阪の中心地でもあるビジネスと娯楽の1大都市梅田だ。
グリコのネオンで有名な道頓堀や通天閣、更には西の秋葉原と呼ばれる日本橋オタロードに行くには、ここから更に南へ電車で10分ほど下って難波に出なければならない。10年ほど前に阪神なんば線が開通してからは、神戸から難波まで、更には奈良へと直通で行けるようになったので、難波がより近くなった。
梅田か難波に行けば大抵のことは揃う。買い物も映画も遊びもグルメも、梅田か難波で間に合うので、わざわざその先にある阿倍野に行く必要がない。阿倍野は難波から更に御堂筋線で3駅先の南東に位置している。そこまで出かける必要がないので、未知の領域だったというわけだ。
ところが数年前にあべのハルカスがランドマークとして登場した。300mというきりの良い高さで日本一高いビルとなった。
ランドマークとなったので阿倍野に出かける理由が出来た。8年ほど前、阿倍野とはどういうところだろうと不思議に思いながら1,2度出かけたことがあるのだが、やはりよく分からない。近鉄百貨店があり、西に動物園と美術館があり、その先には通天閣とその裾野に広がるいかにも大阪らしいコテコテの店が建ち並び、視線を元に戻すと阿倍野再開発事業の一環であるキューズモールなどの新しい商業施設が幾つかあるので、若者や家族連れで賑わうオシャレな街となっているが、どうもごっちゃ煮のイメージがある。昔何かの折に遊びに行ったときには、駅の構内に驚くほど安いカレーを売っていた記憶があるが、あれはどこだっただろうか。再開発で取り壊されたのだろうか。阪神梅田駅地下の阪神百貨店東入口の向かいにあった老舗の立ち食い串カツ屋・松葉も再開発で立ち退いてしまった。市と揉めていたそうで、一度もそこで呑んだことはないが、小さい頃から目に焼き付いていた風景だったので寂しい限りだ。
あべのハルカスまでのアクセス方法
大阪市営地下鉄御堂筋線で梅田から天王寺まで乗り、改札を出た地下街から直接あべのハルカスへと出るエレベーターに乗る。なんともアクセスしやすいが、ほとんど来たことのない地下街は案内板を見ないと自然と足が動かない。
とりあえずあべのハルカスの外観を撮っておこうと、キューズモールの方へ出た。この広場は数年前にミュージシャンのLisaが無料イベントを開催していた。ちょくちょくイベントをやっているのだろうか。
数年前にも無料イベントをやっていたついでに撮影したのだが、あの頃はカメラを習いたてだったのと、マニュアルフォーカスのみのレンズだったので、F値が小さくシャープネスが若干弱い写真だった。今回はくっきりと上手く撮れた。
円を描いた通路には平日だからだろうか、人は居ない。それにしても高いビル。それに綺麗に建築物の輪の中に収まるような設計。60階建て300mの高層ビルは、まさに空を引っ掻くような感じで聳え立っている。
撮り終わったので足早にあべのハルカスへ。キューズモールから空中通路を通って直通で行けるから便利だ。歩道橋のターミナルにあべのハルカスの案内板。近鉄百貨店のエレベーターで16階まで上り、そこで入場チケット大人1枚1,500円を購入して、ゲートをくぐり更にエレベーターへ。
エレベータの中には今現在いるビルの高さがデジタル表示されている。ぐるぐると数字が巡り巡って292mあたりでストップ、60階に着く。
4,900円の年間パスポートも買おうかと悩んだのだが、出不精なので元取るために年に4回も来るかなと今回は見送った。年パスを購入すれば、再入場も無料になるし、予約入場が出来る。あべのハルカス美術館ミュージアムショップでオリジナルグッズなどが貰える。展望台レストランで食事を注文するとドリンクが無料でついてくる、近鉄百貨店あべのハルカス近鉄本店内で3,000円購入したら使える500円分の商品券2枚も特典としてもらえる。しかしどれも利用しそうになかったので見送り。
展望台ハルカス300
60階に着いてエレベータを降りるとさっそく壮観な景色がお出迎え。これは思っていたよりも凄い。ビルまたビル、どこまで行ってもビル。大阪という街はこういう形態であったのかと実感する。手前に天王寺動物園と美術館と公園があり、その斜め右あたりに広い敷地の神社か寺が都会の中で緑を形成し(四天王寺)、三本の幹線道路が北に延び、大坂城があり、高層ビルの群がりが重なり合い、遠くには山の連なりが見える。
午後5時30分に500円を払ってヘリポートに出たのだが、オレンジの枠内からの撮影と制限されていたために、写真で撮るには柵が邪魔で、夕日も撮ろうかと思ったがやはり柵があり、どのように撮れば良いのか迷うことになる。16-35mmの超広角レンズではカメラを頭上に上げても柵が写りまくりだったので、200mmとか400mmのレンズで撮れば柵が映り込まずに撮れそうだが、ビルのアップを撮って果たしていい絵が出るかどうか。
スタッフ二人と、カメラ系スタッフ二人、警備員一人で、4人のお客をお出迎え。別の時間帯や休日ならもっと大勢人がいるのだろうかとも思ったが、最近命綱をつけてあべのハルカスの高さを体感できる新サービスが登場したので、そちらの方に人が流れたのだろう。
西から六甲山系が連なり、西宮あたりから平野が広がり京都まで北東の奥へと続く。東に目を向けると生駒山系が大阪の街を囲うように裾野を広げ、ぐるっと回って金剛山地、和泉山脈と続き大阪湾へと出る。スタッフが慣れた口調で風景を解説する。どこどこの先には何が見えますとランドマークを提示する。しかし中にはよく見えない物もある。太陽の塔はかろうじて見えた。切った爪がどこかへ飛んでいって探していたら畳に落ちているのを見つけたときのような、白い小さな物体。見つけたときの小さな喜び。伊丹空港も紹介されたが、どれがそうなのか見えづらかった。
展望台に戻ると、大勢の観光客が西側の窓に集まってスマホで写メを撮っていた。この日は赤く滲んだ大きな夕陽が水平線に沈もうとしていたのだ。これは珍しいとカメラを携えて窓に寄ったが、なかなかスペースが空かない。空いた頃には夕陽はほとんど沈んで見えなくなっていた。
ハルカス300で宝石の輝きのような夜景を撮影!
夜の帳もおり、三脚を立てて夜景撮影に挑む。平日に行ったためか、夜でも人は大勢はいなかった。むしろ夕陽の沈んだ時間帯の方が多かったと思えるくらいだ。夜8時を過ぎると人の数も少なくなる。撮りたい場所で結構自由に撮れる感じだ。
念のためスタッフの女性に三脚を使用しても良いか聞くと、良いとのこと。公式サイトのQ&Aには、使用可だが、混雑時にはご遠慮頂くとある。
日の出・日没前後の数十分は空が多層的なカクテル色に染まるマジックアワー、日没後30分は空がブルーに染まるブルーアワーの時間帯なのだが、結構時間が短い。カクテル色の空の夜景は撮るのが難しい。超広角レンズで広々とビルの輝きを撮ろうと思えば空は強調されなくなる。かといって標準レンズか中望遠レンズで空を強調しようとすると、ビルの写る範囲が狭くなる恐れがある。メインディッシュとも言える撮りたい北側の夜景はすでに青い。
キヤノンの純正RAW現像ソフトDPPを使って更に青い風味に調整してみた。
西側の窓からも撮影してみた。こちらはまだカクテル色の空に染まっている。しかしあっという間に青くなるだろう。
RAWモードで撮影しておけば、後からピクチャースタイルを好みの色に変えられる。今回はスタンダードから風景に変えてみたら、薄めの青から濃いめの青という感じで、空の色が劇的に変わりメリハリがついた。他にもDPPのシンプルなパラメータを色々弄るだけで、簡単に絵作りを変えることができる。有料の場所や撮影が大変な場所などでは、JPEGモードに合わせてRAWモードでも撮影しておくことをオススメする。そういう場所に二度も三度も訪れるのは結構疲れるから、同じ写真でたくさんの色やコントラストのバージョンの写真に画質を劣化させることなく仕上げることが出来るRAWモードは最強と言えるだろう。
ブルーに染まる空の夜景は結構簡単に撮れる感覚がある。しかし今回は夜景撮影だしせっかくこれだけの宝石のように無数に輝く大阪の夜景を眺望できるハルカス300なので、空をたくさん写すよりも輝くビル群を広く写した方が絵になるかなと空はあまり入れなかった。入れてもわずかな配分。雲も出ていないから長秒露光で雲の流れを捉えたダイナミズム溢れる写真も撮れない。出て欲しくないときに出て、出て欲しいときに出ない雲が憎らしい。
すっかり暗くなった。ここからはシャッタースピード20〜30秒という長秒露光の撮影になる。F11の設定だと、30秒くらいの長さにしないとメリハリの効いた十分な明るさが確保できない。
3本の道路の光の帯が北へと伸びている。その一番右の先にあるのが大阪城、真ん中の先には太陽の塔と新しく出来たエキスポシティの観覧車。西の方には通天閣やドンキホーテの9年ぶりに稼働した観覧車などが見える。更に西にはメロンパンのような形の京セラドーム大阪。なるほど、夜になると太陽の塔から目が出るというが、確かに光っているのは見える。
子供の頃に学研の付録で街のミニチュアセットがあって楽しく遊んでいたのを思い出す。あのミニチュアよりもビルの数は無数だ。
やはり超広角レンズが良い。16-35mmの広角側で撮っていった。テレ端の35mm側はあまり使う気が起きなかった。どうも中途半端に広い。それなら標準レンズで少しアップ目に撮った方が良いと、55mmのレンズに付け替えてみた。それほどアップにはならないが、こちらの方がビルを歪みなく真っ直ぐに撮れるというメリットがある。パースの効いた超広角レンズで撮ったのとはまた違った風味の写真が撮れる。
後はやはり背後の照明の映り込みを防ぐのが難しい。広げれば肩幅ほどの忍者レフを持っていった。下の方に映り込んでいるのを見つけた際には、レンズに噛ました忍者レフの下部分を前の方に押したり、レフを外してカメラの真横にかざしてみたりもして映り込みを防いだが、実に面倒だった。あるいは窓ガラスに対して斜めに向けて撮影していたからか。他の観光客にも気を遣うから場所も背に柱がある場所など邪魔にならない位置に立つよう心がける。これなら暗幕を使った方が手軽に防げるかもしれない。他にも一人カメラマンさんが来ていたが、暗幕を使って中央の吹き抜けを抜くような形で夜景を撮っていた。きっと新しい構図を導き出したのだろう。この日はちょうどプロジェクションマッピングを開催中だったので、紫の光が窓に映り込んだりする場所もあって苦労した。
家に帰ってから「夜景撮影 暗幕」で検索してみたのだが、ガラスに吸盤で貼り付けるような形で、ハルカスで見た申し訳程度の暗幕の使い方と異なっていた。結構目立つ使い方なので、あれなら忍者レフの方がまだ目立たないかなと。しかし暗幕、使えるものなら使いたい。しかしその勇気がない。
場所によって映り込みが激しかったり、全くない場所もあるので、場所を少し変えただけで写りこみを防ぐことは出来る。
ハルカス300展望台で夜景を撮るときのカメラの設定
- マニュアルモード
- F値:F5.6〜F11
- シャッタースピード:20〜30秒
- ISO感度:100
- マニュアルフォーカス
- ライブビュー撮影もしくはミラーアップ撮影
カメラの設定を見ていこう。16−35mmのレンズではF11で撮影。F11がCanon EF16-35mm F2.8L USMの持つ描写性能を隅々まで十二分に引き出してくれるからだ。ISO感度100、シャッタースピード30秒。長秒露光で撮るとノイズが乗りやすくなるとも聞くがどうだろうか。F11でシャッタースピード15秒から30秒と2倍にしても見た目で明るさが2倍になるという感じがしなかった。輝度のヒストグラムを見てみると2倍には寄っている感じはするが。
ここから更に明るくしようとするならISO感度を上げるという手もあるが、高画素のCanon 5DsRであることから、ISO感度を上げると細かいビルの描写がノイズやノイズ処理の際に潰れてしまうので、高画素描写がもったいない。むしろF値を下げた方がISO感度を上げずにすむので、差し障りがない。
この設定からF値を小さくしていくと、更に夜景が明るく撮れるが、写真がボケてしまうだろうか。F11とF5.6の遠景の部分を拡大して見やすくなるよう同じ明るさにしてみたが、あまり違いは見られない。
超広角レンズの方はどちらのF値も遠景がややボンヤリとした描写になっている。本当に豆粒大の夜景だが。55mmの標準レンズでは全体がくっきりと写っている。
夜景撮影時のピントの合わせ方
明るい内はオートフォーカス(AF)でもピントが合うが、夜景となるとピントが迷ったりするので、レンズをマニュアルフォーカス(MF)に切り替えて、ライブビューにしてピントを合わせた方が楽だ。フレームの前の方にあるビルの文字を等倍拡大させてピントリングを回し、ピントが合っているかどうかを確認する。確実にガチピンで撮れるだろう。
夜景撮影に必要な機材
- デジタル一眼カメラ
- 超広角レンズ(ex.16mm-35mm), 標準レンズ(ex.50mm)
- 三脚
- リモートスイッチ(任意)
- アングルチェンジャーQ(任意)
- 忍者レフ、もしくは暗幕(施設の規約確認と周囲への配慮必要)
ハルカス300で夜景撮影する際に必要な機材も見ていこう。ISO感度、シャッタースピード、F値をマニュアルで変えることが出来るデジタルカメラ。デジタル一眼カメラならそれらの機能は備わっているだろう。
レンズは超広角レンズが撮りやすい。50mmの標準レンズも1本持っていけば二通りの絵作りが出来る。
三脚は30秒のような長秒露光で撮るなら必須。手持ち撮影も出来るが、シャッタースピードが0.6秒が限界な上、ISO感度を上げないといけないのでノイジーな写真になりせっかくの細緻な夜景の描写が潰れてしまう。
リモートスイッチを使うことで、シャッターを押すときにカメラに伝わる指の振動問題から解放される。
縦構図でも撮ってみたがカメラの重心がどちらかによってバランスが悪くブレた写真になりやすいので(ひょっとしたら重心の悪さではなく撮影現場の振動などが原因かもしれないが)、ベルボンから販売されているアングルチェンジャーQのような補助機材を持っていくことをオススメする。横構図・縦構図と重心を変えずに簡単に変更できるし、アングルチェンジャーQについてくるスペアシューを装着しておけば、三脚からカメラをワンタッチで取り外すことが出来るので非常に便利。
忍者レフは手軽だが、暗幕の方が確実に窓ガラスの映り込みを防げるかもしれない。場所も取らなさそうだ。
ハルカス300展望台から夜景を撮るときに持っていきたいレンズ
- 16mm-35mmの超広角ズームレンズ
- 50mmの標準レンズ
- 85mmの中望遠レンズ
- 円周魚眼で撮れる魚眼レンズ
今まで見てきたとおり、超広角レンズで撮ればパースの効いた、大阪平野に広がる夜景を余すところなく撮れる。11mmの焦点距離でも撮ってみたかったが、等間隔で銀色の仕切りで区切られているのでひょっとしたら映り込むかもしれない。
標準レンズで撮れば、奥まで伸びていくビルを歪みなく真っ直ぐに撮ることが出来る。中望遠レンズでアップ目でも高層ビル群を撮ってみたいところだ。
通天閣は結構明るいので、F10、シャッタースピード20秒に落としてみたOtusはF8が一番解像力が出るような気がするので、F11まで上げて撮りたくないという意識が働く。
魚眼レンズで宇宙船の窓から覗いているような写真を!
魚眼レンズの円周魚眼を使えば水晶玉の中に大阪の夜景が写っているような写真も撮れる。宇宙船の窓から夜景を覗いているよう写真にも見える。
この日は昼の3時過ぎに来てちょっと早かったので、夜1時間程だけ撮って帰ろうかとも思ったが、撮り始めたら夢中になってしまって結局夜の9時半くらいまで撮影していた。外観の夜景も撮ろうと思ったが、交差点の歩道が工事中だったので断念。また機会があれば訪れたい。