大阪堂島で開催されていたアートアクアリウム展に行ってきた。堂島というと、関西以外の人には余りピンとこないかも知れない。僕は関西住まいだが、その僕でもどこにあるのか余りピンとこない。大阪国際美術館の辺りですよと言われ、あーあそこか、となる。大阪梅田の西の外れ、典型的なビジネス街で大小のビルが建ち並び、どういうわけか、いつも空が曇っているイメージしかない。一角にはやたら高層ビルが林立している、なぜだかよく分からないが亡霊にでも取り憑かれているかのような薄暗いイメージのある地区だ。
アートアクアリウム展は今年で10周年らしい。大阪・東京・金沢の三都市で開催され、色んな種類の金魚を様々に趣向を凝らした水槽とライティングで展示している一大イベントだ。
金魚なんて興味なかったが、暗い場所でも綺麗に写るカメラを持っているし、どれカメラの性能を試すついでに、一度遊びに行ってみようという気になった。もし一眼レフカメラが趣味でなかったら、金魚にも煌びやかな空間にも興味のない僕は、堂島に足を向けていなかっただろう。
空はあいにくの雨模様。そしてこういうイベント会場に着くと大抵は行列である。30分待ちということだから3,4時間待ちはザラのUSJのハリーポッターのアトラクションに比べたらまだマシな方か。
しかし平日の休み明けの月曜なのにこれだけの老若男女が集うとは。最終日だからこんなに混んでいるのかな。とりあえず列に並ぶ。一度建物を抜けたかと思ったら、また建物の中に入り、また外に出て、また中に入る。イベント関連の交通整理の仕事なんてしたことないから、なぜ行列がこんなに折り重なっているのか分からない。アッチ行ったりコッチ移動したりと面倒だなぁと思いつつ、だいたい30分くらいの待ち時間で中に入れた。
こういう場所に来る前は大抵は足が重いものだが、一度会場の中に入ってしまうと気分は浮き足立つ。金魚なんて全く興味なくても、水晶のような水槽の中を泳いでいるたくさんの金魚の群れや、照明効果により移り変わる水槽の色などを眺めているだけで楽しい。小さい子供はきっとこういうのが好きに違いない。
細い通路に向かうと、世にも珍しい金魚が搬入されたとのことで、アナウンス専門学校で教育を受けた感じのある声で男性スタッフが流暢に解説していた。その客案内の手際の良さは慣れたものである。
隘路だから当然混雑する。僕は後ろの方から眺めてカメラを構える。するとどうだろう、まるでケーキのホールのような水槽に金魚が涼しげに泳いでいるではないか。金魚のことをこれほど美味しそうと感じたことはなかった。まるで京の都で天皇家に献上された贅沢な和菓子のようだ。金魚の生命を永遠の時空に閉じ込めているかのようだ。
さて、幾つかの水槽で金魚を楽しみつつ隘路を抜けると、メインホールとなる。壁に掲げられた様々な種類の金魚が描かれた提灯の群れが壮大に出現し、我々の目を奪う。豪華に積み上げられた水槽を手前に、その奥に広がる段差にはこれでもかと敷き詰められた細長い水槽の数々、階段の両側に添えられたハート型にも見える変わった形の近未来的なカラフルな水槽、天井からは豪奢なキラキラの飾り、そしてホール中央に鎮座するのは、誰もが子供の頃には持っていたであろう金魚鉢の形をした巨大水槽。これは子供の頃の記憶そのものなのだ。提灯と言えば祭り、祭りと言えば金魚掬い、それらの記憶を余す所なく引き出して膨らませたのがこのホールなのだと独り合点が行きながら飽くまで写真を撮っていった。
しかし暗い会場内で、写真が綺麗に撮れること程楽しいことはない。さすがはキヤノンのフラッグシップ機といった所か。今回は迷わずに1DXを持ってきた。5DsRと比べ高感度撮影でのノイズが少ないからだ。
持ってきたレンズは、Zeiss Otus1.4/85とCanon EF16-35mm F2.8 Ⅱ USM。タダでさえ視界が悪いのになぜマニュアルフォーカスのレンズを持ってきたのか。まぁ腕試しという奴だ。超広角ズームレンズを持ってきたのは、ホールを広々と撮りたかったから。これ以上の機材は持ち込みたくない。こういうイベント会場では機材は出来るだけ軽量にするに限る。フットワークを軽くしないと、イベントそのものを楽しめないというのもある。
初めのうちは、ライブビューでピントを合わせて撮っていたが、バッテリーを充電するのを忘れたので、電池を食うライブビューはオフにして、ファインダー越しにトルクを回しながらピントを定めて撮っていった。F値は当然開放の1.4。暗いからこれくらいしないと明るく撮れない。ISO感度も1600から8000の間で撮影した。
するとどうだろう、綺麗に撮れること撮れること。普段のマニュアルフォーカスでのピント合わせの鍛錬も功を奏し、開放F1.4でも金魚にピントを合わせることが出来た。まぁたくさん泳いでいるから、どれかにはピントが合う。動き回る金魚にピント合わせるのは難渋したが何とかなった。こちらはAFレンズの方が撮りやすかっただろう。
しかしこれだけの種類の金魚が一堂に会するイベントはそうそうあるものではない。餌代も大変だろうなぁ。
そういえば金魚と言えば、江戸時代は豪商の屋敷の水槽に珍しい金魚を侍らせていたと聞く。天井に水槽を設置して金魚を仰ぎ見る豪商の屋敷なんてのもあった。大阪といえば元は商人の街。豪勢な数の金魚がたくさんの水槽で泳ぐバブリーな姿を見て、ふと江戸時代の大坂にあったであろう贅をこらした商家に思いを馳せたのだった。