RAWで撮るかJPEGで撮るか。カメラ初心者にとっては難しい選択となる場合がある。例えばRAW現像ソフトを動かすためのパソコンがハイスペックでなく快適に動作しなかったり、そもそもRAW自体の取り扱いがよく分からなかったり、容量が大きいから扱いづらいといった理由も聞かれる。
アドビからフォトプランが980円で提供されている。最新のPhotoshopとLightroomが月額980円で使いたい放題のクラウドサービスだ。Lightroomは主要RAW現像ソフトの中では一番スピードが速く、快適に使える。PhotoshopにもRAW現像機能はついているが、一枚をガッツリ編集していくようなプロフェッショナルなインターフェイスなので、使いやすさでいえばLightroomがダントツだ。Photoshopは肌処理などに活躍する。
しかし聞き慣れない方法に初めて触れたとき、人はやっかいだとか面倒だと感じ拒絶反応を起こすものだ。そこでRAWで撮らないことを前提とした場合、JPEGモードのみでの撮影現場ではどのようなカメラの設定が必要だろうか。今回はそのあたりを深く掘り下げていきたい。キヤノンのカメラで解説していくので、他のメーカーのカメラをお使いの方は、お手持ちの取扱説明書などで同等の機能を確認していただければと思う。
マニュアルホワイトバランス
まずはホワイトバランスの調整。人間の目は白い物を白く見えるように自動的に補正してくれるが、デジタルカメラは光源により調整する必要がある。そのためにホワイトバランス機能が備わっている。
マニュアル(カスタム)ホワイトバランスに設定することで、その場でのホワイトバランスを調整することが出来る。例えば白ホリゾントで撮る場合、マニュアルホワイトバランスに設定して、カメラの指示通りに白い壁を撮影して、その写真を基準にホワイトバランスが決まる。
グレーカード18%(ホワイトバランスカード18%)を使って、ホワイトバランスを調整することも出来る。元々グレーカード18%は適正な露出を導き出すためのツールだが、適切なホワイトバランスを取るためにも使える。反射率18%のグレーカードに加えて、適正なホワイトバランスを取るのに最適と謳う50%のグレーカードという製品もある。
キヤノンのカメラの場合は、グレーカードをフレームいっぱいにマニュアルフォーカスでピントを合わせて撮影し、MWBのメニューを実行して、そのサンプル写真を選んでセットする。カメラのホワイトバランスをマニュアルホワイトバランスにセットして完了。
ホワイトバランスを調整することで、白い被写体を白く撮ることが出来る。
ホワイトバランスとホワイトバランス微調整
マニュアルホワイトバランスで撮った写真の色が好みでないならば、今度はホワイトバランスを変えたり、ホワイトバランス微調整で色を調整する。カメラ任せのオートホワイトバランス(AWB)の他に、天候に合わせてプリセットされているホワイトバランスを選ぶことも出来るし、直接色温度「K」の数値で指定することも出来る。
キヤノンのカメラのホワイトバランスについて詳しく見ていこう。
- AWB(3000−7000K)
- 太陽光(5200K)
- 日陰(7000K)
- 曇り・薄曇り・夕焼け空(6000K)
- 白熱電球(3200K)
- 白色蛍光灯(4000K)
- ストロボ使用(自動設定。色温度情報通信機能がないストロボ使用時は6000K)
- マニュアル(2000−10000K)
- 色温度(2500−10000K)
一方ホワイトバランス微調整では、座標軸を使ってホワイトバランスの微調整を図る。その名の通りすでに設定されているホワイトバランスからの微調整。肌色を調整する際に重宝する。
慣れてきたら、肌の色がおかしいなと思ったら、色温度とホワイトバランス微調整の合わせ技で肌の色をパパッと修正することが出来る。
ピクチャースタイル
ピクチャースタイルの設定は好みのピクチャースタイルを決めると良いだろう。お勧めなのはスタンダード、一番無難なピクチャースタイルだ。女性のポートレートを撮るときにはポートレート、風景写真を撮るときには風景モードなど、被写体によって変えていく。ピクチャースタイルはクセがあるので、試し撮りして最適なピクチャースタイルを決めるとよい。
キヤノンのピクチャースタイルは、色相や色の濃さ(彩度)、コントラスト、シャープネスの値を変えることが出来る。ただし、例えばスタンダードモードからこれらの値を変えても、ポートレートモードや風景モード、ニュートラルや忠実設定など他のピクチャースタイルと同じ色にはならない。実際にRAWで撮ってキヤノンの純正RAW現像ソフトDPPでピクチャースタイルを弄ってみれば実感していただけるだろう。特にコスプレの集合写真だとウィッグや衣装の色がカラフルなので比較してみると違いが分かりやすい。例えばスタンダードからニュートラルに変えてみて彩度を上げたり色相やコントラストを変えても、スタンダードと同じ色にはならない。必ずどこかの色が異なってくる。
そんな細かい色のことまで気にする必要ないじゃないかと思われるかもしれないが、コスプレ撮影を例に挙げると、例えば或る作品の新撰組の羽織の色、これが鮮やかな水色ではなく、公式のイラストにあるようなくすんだ水色が良いといった要望もある。ピクチャースタイルの違いが及ぼす彩度や色相の違いが重要になってくる。
キヤノンのカメラを購入するとDPPの他に様々なソフトが付属してくるが、その中に自分でピクチャースタイルを作成できるピクチャースタイルエディタ(Picture Style Editor)というソフトもある。このソフトを使ってもらえれば、ピクチャースタイルがあらゆる色の奥深くまで調整出来ることが分かる。カメラ内やRAW現像ソフトで調整できる基本の他に、六色軸の色相(H)・彩度(S)・輝度(L)と特定色の色相(H)・彩度(S)・輝度(L)を細かく調整することが出来る。
これほど色が細かく設定されているピクチャースタイルなので、ニュートラルや忠実設定からわざわざ値を変えてスタンダードやポートレートなど各ピクチャースタイルに近い色にしようと試みるくらいなら、初めから自分の好みの色合いにあったピクチャースタイルを選んだ方が手間がかからないので、試し撮りをして好みの色を選んでおこう。後からPhotoshopなどで色を調整する手間も省ける。
高輝度側・階調優先
白飛び防止のために、キヤノンには高輝度側階調優先という機能が備わっている。この機能をオンにすると、白飛びしやすいシーンで白の部分の階調が崩れずに写真を撮影することが出来る。白飛びしてしまいがちな被写体を撮るときにオンにすると、白飛びしていない写真を撮る事が出来る。ただし、黒の階調の方はノイズが出やすくなる場合があり、潰れやすくなるそうだ。真っ黒な部分の写真が多い場合には黒の部分が犠牲になるので、機能をオンにする際にはフレーム内の色の割合を吟味する必要がある。経験上そこそこの黒い部分なら階調は潰れてはいなかった。
高感度撮影時のノイズ低減
ISO感度を上げて撮るときのノイズ低減を調整できる。
長秒時露光のノイズ低減機能
JPEGで撮影する際のノイズ処理はカメラが自動でやってくれるが、バルブ撮影など長時間露光での撮影の場合にはノイズが通常の撮影よりも乗りやすくなる。そこで長秒時露光のノイズ低減機能をオンにして、ノイズを低減させることが出来る。星空撮影などでよく使われる機能だ。
オートライティングオプティマイザ
キヤノンのカメラにはオートライティングオプティマイザという機能が備わっている。オートライティングオプティマイザとはどういう意味だろう。オートは自動、ライティングは配光、オプティマイザのオプティマイズは最適化するという意味。サイト運営分野ではよくSEO(検索エンジン最適化)という言葉を聞くが、この略語のOはこれと同じ意味だ。つまり直訳すると、自動配光最適化機能。
大雑把に説明すると、暗めに写ってしまった人物を明るくしたり、明るくなりすぎている箇所を暗めにしたりといった機能だ。(キヤノンの公式サイトには、「コントラストが低い場合には明暗差のはっきりしたメリハリのある画像にする」と書いてあるから、明るめの写真が若干暗くなるのはこれが要因か)。撮ってみないことには結果が分からない、ちょっと難易度の高い機能でもある。
他のメーカーのカメラをお使いの方は、似たような機能が備わっていないか、お手持ちの取扱説明書で確認してみよう。
JPEGモードと比較してRAWモードで撮るメリットを探る
以上に述べた機能は、RAWモードで撮れば、後からパソコンで画質を劣化させることなく編集することが可能だ。
ホワイトバランスやホワイトバランス微調整は、撮影現場でのカメラの設定と全く同じ感覚で調整できるし、ピクチャースタイルも同じく変更できるし、白飛びもガンマ調整のチャートを使えば修正することが出来る。ノイズ処理の度合いも自分の好みに応じて調整することが可能だ。撮ってみないと結果が分からないオートライティングオプティマイザもチェックボタンをオンにすればその結果を簡単に確認できる。
JPEGで撮る問題点は、カメラの液晶画面と実際にパソコンに取り込んだときの写真の色に、ややずれが生じてしまう点だ。現場での撮影でこれでOKと思っていたけれど、実際にパソコンに取り込んでみたら色が違う。これを避けるためには撮影現場にパソコンを持ち込んでテザー撮影を行うしかないが、これだと機材が増える。最近のカメラにはWi-Fi機能がついている製品もあるので、撮影した写真をスマホに取り込んで確認するという方法もある。問題はスマホの機種によっても写真の色は変わってくるという点だ。これはパソコンにも同じことがいえるが、パソコンの場合は高性能パソコンなら、一昔前のスマホと比べればまだ正しい色が出ているであろうし、キャリブレーションモニタを使い、モニタキャリブレーションで調整すれば極力統一的な色を表示させることが出来る。キャリブレーションの方法やモニターの色に関してはややこしいので、また後日機会があれば解説させていただく。
こういった煩わしさから解放してくれるのがRAWモードでの撮影。つまりRAWモードで撮るメリットというのは、適切な光やライティングで撮影していれば、これら現場で何度も試し撮りして設定しなければならない時間を省けるだけでなく、後からパソコンでじっくり腰を据えて自分好みの色合いに、画質を劣化させることなく調整できるということでもある。
JPEGモードで撮るメリット
JPEGで撮るメリットは、データサイズがRAWと比べて比較的小さく、故にパソコンでの処理が速い。それに加えて撮影現場でカメラの設定を最適に詰めておけば、撮影時にカメラが設定したとおりのノイズ処理や色調整をカメラ内で全部行ってくれるので、撮影したデータをそのまま渡せる点だ。データの受け渡しが容易と言い換えることも出来る。
一方RAWモードで撮るメリットは、後からパソコンで自分の撮った写真の各クオリティを最大限に理想化できる点だ。花火のような失敗が許されない撮影、難易度の高い撮影、理想の色を追求したい撮影、速さや及第点よりもクオリティを最重要視したい撮影などに向いている。
どちらにするかはやはりカメラマンの撮影スタイルや撮影内容によるだろう。仕事で速くデータを渡さなければならない場合はJPEGが最適だし、最大限理想化する必要がない撮影もJPEGがよい。「花火ごときでRAWなんて」という考えの持ち主の方もいれば「失敗がきかない一期一会の花火だからこそRAWで」という方もいる。そこまで色味にこだわらないという人もいれば、今はRAW現像は無理だが将来できるようになったらとRAWで撮ることも考えられる。結論はカメラマン自身の判断や撮影スタイルに委ねられる。