レンズのF値を上げれば上げる程、解像感は増していく。これは写真撮影の常識である。しかしこのF値も上げすぎるとレンズの解像力のピークに到達し、それ以後は解像力は下り坂となる。光の回折現象が原因による小絞り暈けが発生するからだ。
フルサイズ機ではF11、APS-C機ではF9が小絞り暈けが発生する目安とされる。「暈けるって言ったって等倍で見ないと解らない程度で、ウェブに上げる分にはそんなに気にならないでしょ?」と思われるかも知れないが、ウェブに上げるだけがデジタル写真の用途ではない。等倍鑑賞の楽しみもあるし、今後大きなデバイスが開発される可能性だってある。
月や飛行機の写真なら、等倍トリミングして焦点距離を水増しすることだってある。また縮小保存するにしても、小絞り暈けが写真の描写に影響を与えることも考えられる。
写真の良し悪しはこういう解像感の細かいこだわりで決まるわけではないが、月のクレーターの描写や細かいビル群の描写を旨とする風景写真では、レンズの内包している解像力にこだわりたくもなるし、メーカーにしても新しいレンズを出す度に解像力の性能を誇らしげに掲げているので、写真を趣味にしているならば、こだわらずにはいられない1点だろう。
では実際小絞り暈けがどういうものなのか、作例を見てみよう。使用カメラはCanon 5DsR、レンズはOtus1.4/85。
F16で撮影した方の写真は、F11で撮影した場合よりもぼやけて見える。パンフォーカスを狙って、風景写真で良く言われているF22迄絞るというセオリーを参考にF16辺りなら大丈夫だろうかと絞ってみたのだが、認識が甘かったようだ。一方F11で撮影した写真は、充分全域にわたってピントが合っている。カメラと写っている風景との距離が遠いせいだろうか。これだけぼやけるならF11で撮影した方が、画質の面から言うと差し障りない。
ここまで小絞り暈けが写真の描写に影響を与えると解ると、こだわりたくもなる。風景写真ではパンフォーカスを得るためにF22まで絞ることも例外ではない。そこまで絞っても小絞り暈けが発生しないレンズを選ぶ選択もあるし、キヤノン製のレンズならキヤノンの純正RAW現像ソフトDPPで小絞り暈けを解消する方法もあるだろう。
野外での長時間露光で明るさを抑えたいのなら、高級NDフィルターを使うという手もある。フィルターを着けても画質を劣化させずに長時間露光が可能だ。
一流の職人が細かいところにこだわりを持つのと同じように、写真撮影においても、細かい描写にはこだわりたい物だ。それだけで写真が上手にになりそうな予感がする。
風景写真では手前からと奥まですべてにピントが合っているように、小絞り暈けに目を瞑ってでもF22で撮るのが常道という意見もあるが、果たしてF値をそこまで絞る必要があるのかどうか、風景写真はあまり撮ったことがないので分からない。これから色んなシーンで実験を重ねて、自分なりに答えを導き出していこうと思う。