マネー・モンスター – アメリカの格差社会・持つ者と持たざる者を反映した金融サスペンス

マネー・モンスター

見始めてからこれはちょっとあんまり面白くないタイプの映画かなと思って観ていたら、さすがハリウッド映画、ストーリーが進むに従ってこちらの期待を良い意味で裏切っていく形で話がころころと転がっていく。

あらすじ(ネタバレあり)

名物司会者リー・ゲイツ(ジョージ・クルーニー)がホストをつとめる株式投資番組「マネー・モンスター」が生放送中にスタジオに侵入した24歳の男カイル・バドウェル(ジャック・オコンネル)にジャックされる。リーの推奨銘柄を鵜呑みにして買ったアイビスという新興銘柄がアルゴリズム取引で暴落し、1日で8億ドル分の損失を出したために、カイルのなけなしの全財産6万ドルが紙くず同然になったというのが動機だった。カイルは銃を突きつけ、リーに爆弾を仕込んだベストを着用させる。カイルがボタンを押した途端に爆発するという代物だった。指定した日の放送分のテープを再生するよう指示するカイル、ディレクターのパティ・フェン(ジュリア・ロバーツ)がスタッフにテープを探して巻き戻すよう指示すると、確かに司会者は債権や銀行口座に預けるよりもアイビスに投資した方が安全だとジョークっぽく口にしていた。言質を取った男だったが、警察が捜し出したカイルのフィアンセで妊娠中の女性がモニターに映り、カイルを「アンタは男じゃない、腰抜けよ!」と激しく罵ってセックスの時の癖まで暴露してしまう。その模様は固唾を呑んで見守る全世界に中継され、皆唖然とするのだった。

一方でパティはアイビスの広報担当者ダイアン・レスター(カトリーナ・バルフ)とコンタクトを取り真相を話すよう怒る。ダイアンは己の信念から上役の方針に逆らい独自に真相を追究しはじめ、スイスに向かっていたはずのアイビスのCEOウォルト・キャンビー(ドミニク・ウェスト)が実は南アフリカにいたことが分かった。アルゴリズムをプログラムした韓国人プログラマーからは、1つの銘柄を長く持ち続けることがないアルゴリズム取引ではあんなバグは起こりえない、人間の指紋がたくさん貼り付いていると示唆する。ダイアンから情報を得たパティはヨーダ声のハッカーにウォルトの情報収集を依頼する。様々な情報の突き合わせでウォルトによる南アの鉱山投資に絡んだ株価操縦が明らかになる。一方でリーはカイルに同情するようになり、交渉人のようにカイルを宥め始める。警察のスナイパーに銃撃されたのをきっかけに二人でスタジオを抜け出すと、ウォルトが記者会見を行う予定のウォール街のビルへと向かった。全世界が見守る中で、ウォルトの悪巧みを暴露する為に・・・。

良くも悪くもハリウッドらしい映画

初めはありきたりなストーリーかなと思ったが、ころころと話が転がり、最後はハリウッド映画にありがちな勧善懲悪のストーリーへと収まった。それが良いか悪いかは別としても、ストーリーが進むに従い映画にのめり込んでいく。だがわざわざ劇場に足を運んで見に行くまでもないなと言うのが率直な感想。これといった大規模なアクションや銃撃戦があるわけでもないし、大スクリーンで観るようなダイナミックなシーンもない。ヨーロッパ系映画のように等身大の人間ドラマに焦点が当てられているわけでもない。映画の大半はこじんまりとしたスタジオ内で進行していくし、そのまた半分は中継画面で構成されている。ウォール街をジャック犯と共に練り歩くシーンはエキストラもたくさんいて息を呑むが、それ以外は至って普通の映画で、日曜のけだるい午後にテレビ大阪(テレビ東京系)で放送していた最新の刑事物の海外テレビドラマを見ているようなクオリティだった。大画面のテレビで見るにはちょうど良い映画だ。

監督はジョディ・フォスター、主演はジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツという豪華な顔ぶれ、映画の初めにはSONYのロゴマークが誇らしく表示される。映画の最後の方ではテレビカメラがアップで写りSONYのロゴマークが少し被った形で垣間見えた。ビデオマーケットという有料配信サービスで見たのだが、ハイクオリティ画質での提供で、たしかにジョージ・クルーニーのピントの合った顔は精細に表現されていたが、この映画のストーリーでこのハイクオリティ画質はいるのかどうか疑問だった。映画のストーリー上、中継画面も多くてテレビ番組であることを観客に示唆するためにボンヤリとしたガサガサの画質だから、別にハイクオリティ画質でなくてもよいのでは?他にも『君の名は』やスターウォーズシリーズなどがハイクオリティ画質だったが、こちらの方を見た方が良かったかも知れないが、『君の名は』はもう劇場で見たし、スターウォーズはそんなに好みじゃないからハイクオリティ画質の恩恵を受けられない。

大観衆、この場合はテレビ中継を見ている全世界の人々の前で、株価操縦という悪巧みを行った新興企業の欲深いCEOを懲らしめることで大きなカタルシスを得るのだが、まぁハリウッド的な映画だという感想がまず出てくる。良くも悪くも勧善懲悪・単純明快・分かりやすいメッセージ性がある。ジャック犯は24歳の若い男で、ニューヨークで時給14ドルで宅配業者のドライバーとして働いている。時給14ドルというと時給1000円(約11ドル)の日本と比べると高いイメージがあるが、こないだテレビのワイドショーで見た限りでは東京とニューヨークは物価が2,3倍の差があるみたいな事を言っていたので、仕事の内容に比べて低賃金であることが伺われる。この24歳の男がどういう家庭環境かを捜査官たちが賭けようとするのだが、独り身、もしくは母親と同居と相場が決まっているというようなことを言う。アメリカではこの手の凶悪事件を起こすのは、こういう家庭環境にある人間というイメージが過去の事件などから蔓延しているのだろうか。事実はというと、ジャック犯の男は母親が死んで相続した家を売却して得た6万ドルを「マネーモンスター」の司会者の推奨を鵜呑みにしてアイビス株を全力買いして一攫千金を狙い、アルゴリズム取引のバグによる暴落(真相はアイビスCEOによる不正取引)で紙くずにしてしまうのだった。しかも男にはフィアンセがいて妊娠していた。

株取引をしている人はセリフに面白みを感じる

或る程度経験を積んだ投資家視点から見ると、ジャック犯の男の投資方法は初心者のそれとも言えるし、軽薄に見える番組司会者が推奨する銘柄を何の裏付けや他の情報との突き合わせも無しに鵜呑みにして投資して大損するのは、まさに楽して儲けようとした男の自業自得で、大損をしたからといって自暴自棄になり、銘柄を推奨した司会者を拉致して心中を図ろうとする行為は愚か以外の何物でも無い。株式投資は基本的に自己責任の世界だ。インターネットや雑誌などに載っている玉石混合の情報を自分自身で分析して、最後に投資を決めるのは投資家自身だ。メディアリテラシーの高さが求められる世界だ。しかし株の値動きというのは一寸先は闇もしくは光明であることが多く、様々な情報やこれまでのニュースや取引、値動きの経験則から或る程度先の動きは予測できるものの、投資家が思うとおりには動かないのもまた事実。だから株は難しいといわれる所以だ。

一攫千金、日本でいうところの「億り人」を狙って1つの浮ついた銘柄に借金までして投資し、総てを失い莫大な借金だけが残る人もいれば、運良く億り人になった人もいる。今回の映画のジャック犯は親が残してくれたなけなしの財産6万ドルをすべて注ぎ込みタイミング悪くその投資先のCEOの悪巧みに巻き込まれて貰い事故を受けるような形で全財産を失ったのだが、物価の高いニューヨークで時給14ドルで働いている男が億り人を狙うのもアメリカ格差社会の一端を垣間見るようで、無理からぬ話もである。

アルゴリムズ取引に関しては、昨今度々株式市場で起こる暴落劇の要因として取り上げられており、映画の中でも昔はお金を送金するのには銀行が必要だったが今は光ファイバー網の中をたくさんのマネーが飛び交っていると光が走り抜けるサーバー基地の映像と共に喩えられているように、現実にアルゴリズムによる超高速の自動取引が大暴落を演じることが度々起こる。アルゴリズム取引は売り買いが超高速なので、映画の中の韓国人プログラマーが言うように個人投資家のように1つの銘柄に固執することはない。すぐに手放すのだから、暴落劇があったとしてもそれは一時的なもので、1つの銘柄で1日に8億ドルも動くことはないという。実際にアルゴリズム取引が原因と思われる暴落劇はしばらく経つと値を戻していることが多い。

件のアイビス株はどうだったかというと、アルゴリズムが原因ではないから値が戻らない。値を戻す手段として、ジャック犯に脅されたマネー・モンスターの司会者が機転を利かし、中継を利用して全世界の人たちにアイビス株を買うように懇願する。あなたの投資で私の命が救えると。ハリウッド映画にありがちな感動劇場お涙頂戴物の展開で、早くも株価が上がりジャック犯のなけなしの6万ドルも元に戻るどころか威勢を駆ってアイビス株が暴騰し億万長者の仲間入りになり、皆がハッピーになり映画は早くもフィナーレを迎えもっと深い黒幕の話に移るのかと思った。現実はというとアイビス株は放送後しばらくしてから数十セント上がったものの、次の瞬間には下落してしまう。奇しくも司会者の人徳のなさを曝け出した形となった。ハリウッド映画でもそこまで単純ではなかったみたいだ。

自暴自棄になって銃を手に取り鬱憤を晴らすというストーリーは銃社会アメリカらしくもある。もし日本が銃規制のない国なら、インターネットで鬱憤を吐き散らしている日本社会で、この手の事件は日本中至る所であらゆる社会の階層で起きているに違いない。