2018年1月31日は、スーパー・ブルー・ブラッドムーンが起こるということで、ツイッターでも大賑わいだった。月が地球に最接近するスーパームーン、月に二度目の満月が訪れるブルームーン、月が皆既月食で赤く見えるブラッドムーン、この三つの現象が一度に発生する。
というわけで早速時間が近づいてきたのでカメラとレンズと三脚を抱えて撮影に行ってきた。
しかし寄りにもよって一月の寒い月に、数百年に一度といわれている歴史的な天体観測の日が訪れるなんて。風邪も治りかけで体がだるいしとぼやきながら屋上に出たが、不思議とそんなに寒くない。地上を歩いていたときは寒い寒いと凍えていたものだがどういうわけだろう。
関西はあいにくの曇り空。空一面を雲が覆っている。月見えるのかなと心配だったが、白い月はよく見えるが星が見えない。
国立天文台のサイトによると、部分食の始めが20時48.1分、皆既食の始めが21時51.4秒、食の最大が22時29.8分、皆既食の終わりが23時08.3分、部分食の終わりが0時11.5分。
21時07分から撮影開始。すでに白い月は欠けていた。みるみるうちに欠けていく月。雲に覆われているが月が明るいので肉眼でもよく見える。
使用カメラはCanon 5DsR。レンズはCanon 400mm F5.6 L USM。焦点距離が2倍になるエクステンダーCanon EXTENDER EF2×III。他は震動防止のためのリモートスイッチと三脚。
月撮影に必要な機材
- 一眼カメラ
- レンズ
- 三脚
- リモートスイッチ
いつも撮る月ならこの装備で楽に撮れるのだけれど、この日は皆既月食。月が暗くなる。最初の白い月が出ている内はまだ明るかったので、撮りやすかった。背面液晶モニターに写った月を見ながら、レンズをマニュアルフォーカスにしてピントを合わせる。
400mmという超望遠レンズになると、月に対してピント合わせもシビアで、ちょっとでも動かすとピントがズレる。遠くにある月のクレーターの模様がくっきりシャープに写るように慎重にピントリングを回してピントを合わせる。
エクステンダーで焦点距離を二倍にしているので、果たしてクレーターが最大限にシャープに写っているのかどうか、液晶モニターの拡大機能を使っても確信を持つのが難しい。これが800mmの望遠レンズならもっと写りが良いのだろうか。おまけに雲がかかっている。
月の模様はあとからRAW現像ソフトなどを使ってある程度シャープには出来るので、まぁ大丈夫だろうと。さて問題は明るさだ。
暗くなる月にカメラの設定でどう対処していくか
段々と月が暗くなってくる。はじめのうちはISO感度100、F11、1/40秒で撮影できていたが、シャッタースピードを1/30秒、1/15秒と徐々に遅くしても、やや暗めの月となってしまう。F11というのはCanon 400mm F5.6 L USMにエクステンダーCanon EXTENDER EF2×IIIを装着したときの開放F値。AFも効かなくなるのでマニュアルフォーカス(MF)のみとなる。超望遠レンズにしては15万円台と安く写りも良いが、暗い開放F値のレンズの不便さがこういうシーンに現れてくる。
しまいには1秒というシャッタースピードになってしまったが暗い。遂にISO感度を上げるときが来た。800にしたがまだ足りない。1600まであげるとようやく赤銅色の月を捉えることが出来た。
今回は5060万画素、ピクセルに直すと8688×5792ピクセルの大きさの写真で撮っているのだけれど、まず画素数が多くなると等倍で見たときに画素数が少ない写真と比べるとブレが目立つ。だからスローシャッターで撮ると月がブレるのではないかという懸念があったが、1秒撮影で等倍で見てもそんなに気にはならない程度だった。縮小表示すればブレは誤魔化せるだろう。
また焦点距離800mmで月を液晶モニターに映していると、実際に月が動いているのが確認できる。前回月を撮影したときに同じ機材で動画も撮ったが、400mmで撮影したときと比べて15分くらいで画面の端から端まで動いてくれたので楽だったのを覚えている。
画素数が多くなればなるほど、焦点距離が長くなればなるほどスローシャッターでの皆既月食の撮影は厳しい条件に晒されることになる。となると赤道儀が欲しくなってくる。本格的に星撮影をすることになれば購入も検討したいところだ。しかし超望遠向けの赤道儀となると価格が100万を超えていたりするからなかなか購入に踏み込めない。焦点距離200mmくらいなら12〜15万円前後であるのでお手頃か。
ならいっそエクステンダーを外してF5.6で撮るか、200mmF2.8のレンズを持ち出して、月の大きさは小さくなるが開放で撮るか、という手も考えられるが、今回はISO感度をあげて対応することにした。ノイズを少なくするなら1DXを持ち出す手もあったのだが、やはり月を大きく写したいという欲求の方が勝り、5DsRでいくことに。
露出シミュレーション機能に関しても1DXの方が優れているから、暗い皆既月食の撮影ならこちらを持ち出した方がカメラの設定次第では液晶モニターで月をしっかりと確認できたかもしれない。大きさを取るか利便性を取るか難しいところだ。
月が暗くなっていくことでもう一つ問題が発生。ピントが合わせづらい。より正確にピントを合わせるためにピントリングを頻繁に回して調整していたのだが、遂に月がほとんど見えなくなり、変に動かしてしまったのでピントが合わなくなってしまった。三脚の位置とピントは固定していた方が良さそうだ。
雲にほとんど隠れてしまっているし暗いしで見えないが、目視と勘で合わせる。ISO感度1600ならまだ十分綺麗に写るが、ISO感度6400となると、ノイズが多すぎて精細さに欠ける。おまけにノイズで描写が潰れてピントもがっつり合っているかどうか判別がつかない。焦点距離800mmで撮る煩わしさは、一度月を見失うとフレーム内に月を再度収めるのが難しい点だ。しかしこれは些末なことだ。問題は雲に隠れてしまい赤銅色とはいえ月明かりがほとんど見えないことだ。
22時12分を過ぎて月が完全に見えなくなったので撤退。空が雲に覆われて条件が悪かったが、月が欠けていったり色が変わっていく様子は観察できたし、良しとしよう。
しかし欠けている月というのはなんとも艶めかしい。満月とは違い立体的でうっすらと濡れているような艶もある。
後は家に帰ってパソコンのRAW現像で処理。シャープネスをあげてクレーターをくっきりしたり、明るさをあげたり、色を濃くしたりする。ノイズ処理も忘れずに。RAW現像ソフトDxO PHOTO LABを使えば、高性能のノイズ処理PRIMEが高感度撮影の写真でも綺麗にノイズを処理してくれる。
皆既月食を撮るときのカメラの設定
皆既月食を撮るときのカメラの設定のコツとしては、始めに白い月でクレーターの模様が分かる程度の明るさでくっきりと写しておいて、撮れた月の明るさに応じて徐々にシャッタースピードを遅くしていく。月の動きでブレてしまうようなシャッタースピードに到達したらISO感度を上げると良いだろう。
月がブレて写ってしまうシャッタースピードは焦点距離や画素数によって異なるので、自分のカメラの液晶モニターで拡大表示してその都度確認する。
月を撮影するときのカメラの設定の起点
- ISO感度100
- F5.6〜F11
- シャッタースピード:ブレない&適度な明るさになる値
上記のように白い月を撮影したときの設定を起点にして、月の明るさに応じてシャッタースピードを遅くし、月がブレてくるようなら次はISO感度を上げていく。目安としては8688×5792ピクセルの大きさで800mmの焦点距離だと、シャッタースピード1/2秒が等倍で見て月がブレない限界だ。
今回は400mmF5.6のレンズにエクステンダーをつけたので開放F値が11になったが、F11もいらないかもしれない。明るさ確保を優先するならF5.6〜6.3でも十分写る。間を取ってF8あたりを基軸にしてもいいだろう。通常の月撮影と異なり、暗い被写体の撮影になることを忘れずに。