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薄墨桜 – まほろば探訪 第46回

日没後の薄墨桜。ライトアップも相まって美しい姿を見せる。
日没後の薄墨桜。ライトアップも相まって美しい姿を見せる。

Yahoo!ニュースの読売新聞だったかどこだったか、薄墨桜が満開との記事と写真が載っていたのを見て、場所を調べてみたら岐阜とある。行けそうだし、前回の関ヶ原訪問の折に岐阜城に寄れなかったので、そのついでに寄ってみようと、岐阜城天守閣からの景色を堪能してから、薄墨桜のある場所へと向かった。目指すは岐阜県本巣市薄墨公園。

朝の内は晴れていたのだが、岐阜城を後にして、樽見鉄道の終着駅に着く頃には雲行きが怪しくなってきた。まぁ天気予報通りだ。

樽見鉄道はJR大垣駅構内より出ており、販売所で切符を買ってワンマン電車に乗る。都会っ子にとってこういう電車は珍しいもので、はじめ半分の運転手もとてもやる気がある人で、身振り手振りに隙がなかった。そういえば販売所のおじさんも大仰に手を振って観光客を誘導していた。旅情かき立てられる一幕だ。

終着駅に着くまでに、モレラ岐阜という不思議な駅名に立ち止まる。ティーンエイジャー達がたくさんゾロゾロと降りていったので、複合型のショッピングモールでもあるのだろう。そういえば電車のラッピングもモレラ岐阜だった。

終着駅について、しばらく平地を歩いてから、階段を上る。歩いて15分ほどで薄墨桜の咲く公園に辿り着く。観光客でいっぱいだったが、肝心の薄墨桜は散りかけて所々が剥げていた。天気も太陽に雲がかかることの方が多く、どうもパッとしない気分だ。これで太陽が出て、桜ももう少し咲き誇っていれば、また違ったのかもしれない

樹齢1500年の薄墨桜。
樹齢1500年の薄墨桜。
薄墨桜をクローズアップ。
薄墨桜をクローズアップ。

とはいえ薄墨桜の名の由来は、満開の時は白い花を咲かせるが、散りかけてくると、墨で薄めたような色になるのだという。一粒で二度美味しい桜というわけだが、実際にどういう色なのか、写真に撮ってみた。果たして散りかけた部分が墨で薄めたような色の由来と合致するのかどうか、どうも自信がない。全体を眺めてみると、確かに墨で薄めたような陰ったような色に見える。ひょっとしたら曇ってるし、カメラのホワイトバランスが少しズレているだけなのかもしれないが。

後ろの方は半分ほど散っている。
後ろの方は半分ほど散っている。

この薄墨桜、樹齢1500年だそうで、幹の真ん中に大きな亀裂が出来て萎えかけていたのを作家の宇野千代が保全を呼びかけて今のように蘇ったという。本体の薄墨桜の後ろに二本目の新薄墨桜も植えられていて、公園に入って右側から見るとなかなかに厚みのある桜景色だった。後ろには神社もあり御朱印状を売っていた。せっかくここまで来たのだから買っておけば良かったが、どうも曇り空で気分が湧かない。夕方になったが結局太陽は現れなかった。

趣向を変えて魚眼レンズで撮影。
趣向を変えて魚眼レンズで撮影。

薄墨公園はしっかりと整備されたところで、トイレが両端に二ヶ所あり、芝生は豊かでその合間を縫うように人工の川が流れ、鋼鉄の機械の羽根車ががっこんがっこんと音を立てながら水を流している。脇には簡素な野外音楽堂も備わっており、スペースの広い屋根付きの休憩所の他に観光協会の記念館や土産物屋も併設されていて、出店の建物などもある。宇野千代らの功績を讃える背の高い石碑も2つ設置されている。しかしどうも整備され過ぎなような気もして、山深い田舎に来たはずなのに、観光客の賑やかしさも相まって都会の中の公園にいるような気分だ。田舎の中で醸し出される都会的空気は研ぎ澄まされていて新鮮だが、やや興を削ぐという面もある。

しかし雨など降ると、この田舎の中にある整備されすぎた都会的公園が観光客を守るため本格的な機能を果たす。雨宿り。ライトアップを待っていたら遂に雨が降り出したのだ。休憩所に一時退却して、雨がやむまでじっと薄墨桜を眺めていることにした。側の壁には明治期に撮られたモノクロの薄墨桜の写真が貼ってあり、中学生か高校生のイケメンの男の子が時代的衣装に身を包んで舞を舞っている写真もあった。

薄明の中の薄墨桜。
薄明の中の薄墨桜。

ライトアップ開始は午後6時30分からだったか45分からだったか。休憩所の柱にライトアップ告知のポスターが貼ってあった。少し遅すぎやしませんか?とも思うのだが、というのもこの日の日没は記憶が正しければ午後6時17分頃で、そこから空が青くなるブルーアワーの時間帯が30分ほど続く。青い空でライトアップされた夜桜を撮るなら、日没直後にライトアップされているのが理想的なのだが、手元に残っているライトアップされた桜の写真の時刻は38分。何枚かブルーアワーのライトアップ夜桜が撮れたが、49分頃には普通のカメラの設定で真っ暗な空にしか撮れなかった。思いっきり明るさを上げれば空を青く撮れるが、ライトアップされた薄墨桜が白飛びしてしまう。

ブルーアワーの中で映える薄墨桜。
ブルーアワーの中で映える薄墨桜。
漆黒の闇の中で浮かび上がる薄墨桜。
漆黒の闇の中で浮かび上がる薄墨桜。

終電の時間も迫っていたし、小雨の中休憩所から飛び出して、薄墨桜と対面する。漆黒の中で雨に花弁を濡らせながら白く輝く薄墨桜。カメラが濡れようがレンズが濡れようが三脚が濡れようがお構いなし。そうして矢継ぎ早に撮っていく。

すっかり疲れ切って、終電を逃すと一晩明かすことになるので、機材を畳み帰ることにした。徹夜で撮れば月とのコラボレーションも撮れるだろうが、雨と曇り空でモチベーションが湧かない。星空との共演がなければ。

樹齢1500年の桜を背中に駅へと急ぐ。どうも物寂しくもある。