ファミコン黎明期に、ドラゴンクエストシリーズでお馴染みの堀井雄二が制作した「神戸ポートピア連続殺人事件」というゲームがあった。このゲームはその意外なオチから今でも語り草となっており、「犯人は○○」のフレーズは、何か現実に事件が起こる度に、ニュースサイトでネタコメントとして度々使われている。我々の世代の意識の中で仮想空間と現実が交差する人工島、ポートアイランド。
ポートアイランドは神戸在住の人たちにとって、行こうと思えば電車に乗ってすぐに行ける程度の距離だ。しかし六甲アイランドと同様、人工島を結びつける電車の運賃の高さがネックとなって、なかなか足を運ぼうとは思わない場所でもある。
だって何もない。企業と団地と展示場があるくらいだ。普段神戸っ子がどこかに遊びに行こうとなったら、三宮や元町、ハーバーランドの選択がある。誰も好き好んでポートアイランドに遊びに行こうとは思わない。
それでもポートアイランドに向かおうと思ったのは、海を隔てて神戸の街並みや六甲山が一望できるからだ。みなと神戸花火大会の日ともなると、普段は閑散としている公園に大勢の花火客が押し寄せて人の波を形作る。
もう一つの理由は、摩耶ロープウェイが社会実験とやらで無料だったので、夜景を撮ろうと意気込んでいたのだが、いざ無料のバス停の前で色々と会話を耳に挟んでいると、朝方は3回バスを回しても混雑が減らなかったとか。ロープウェイ乗り場も行列になっているだろうし、夜景ともなればあの狭そうな展望台は人で埋め尽くされ撮影どころではないだろうと思ったからだ。そこで急遽場所を変えた。
JR三宮駅を出て階段を上がり、無人電車のポートライナーに乗った。その無機質な施設は、まるでエヴァンゲリオンの世界だ。エスカレーターのアナウンスまで女性の声の自動音声が流れている。
実際にポートライナーに乗ってみると、乗り心地は良い事に気づかされる。車窓から神戸の青い空と深く淀んだ海、緑に萌える六甲山を見渡せる。小学生の女の子が三人くらい乗り込んできた。地元の子たちだろう。夏休みらしくはしゃいでいる。
せっかくなので一周してみることにした。アパレル会社のワールドのビルが三棟見え、アシックスのガラス張りのオフィスが見え、佐川急便の建物が見え、団地の数々が見え、ぐるっと一周回って、中公園の駅で降りる。
街並みは、近未来的でありながら、どこか古ぼけた感がしないでもない。80年代初頭は目新しかったのだろうが、雨風に晒され白くピカピカの建物も汚れてくるのだろう。取り残された近未来の世界といった感じがして、どことなく殺風景だ。
しかし都市再生を目指した再開発も進んでいるそうで、中学・高校や大学、研究機関などが多く移設されているのだそうだ。しかし殺風景であることに変わりはない。中公園駅からビルに入ったが、殺風景という言葉以外に見当たらない、がらんとした空間が広がっていた。
地上に出て足を着けてみた。広々としている。道が唸るように延びている。これはどちらかというと生活者のためというより、産業のための道路だと肌身で感じた。横断歩道もどこにあるのか分かりづらく、道幅が異様に広い。うかうか渡ろうものなら、トラックに轢かれてしまいそうなくらい、車本意の道路だ。43号線と似たようなものだろう。
目的の北公園に行くのに、どこを歩けば良いのかサッパリ分からない。グーグルマップを見てもさっぱりだ。横断歩道はないし、そもそもこの辺り一帯の道路は産業用らしく、歩行者のことはあまり考えられていない。その証拠に歩道は途中で途切れ、Uターンしてしまう始末。
異様に長い古ぼけた歩道橋を渡った。太陽は照りつけているし、大学があるのか学生らしき女が向こうから歩いてくる。この狭い道幅を。
しおさい公園の方にも足を運ぼうとしたが、距離が遠そうだったので断念した。研究所か何かの建物が延々と続いている。あの向こう側まで歩かないと行けないのだろうかと思うと気分がゲンナリしてきた。
あれやこれや歩いて行って、ようやく北公園に辿り着いた。ここは綺麗に整備されている。神戸大橋の雄大な姿が目の前に広がっている。煉瓦模様の床が美しい。異人館もあるが公開はされていないらしい。
海を挟んでポートタワーと、オリエンタルホテル、ハーバーランドの観覧車が見える。あとは山、山、山。神戸という街は海から見ると夜景が乏しいようにも思われる。やはり六甲山と海に挟まれた狭い地形だからだろう。
日も暮れ出すと夜釣りを楽しむ人たちが増えだした。カップルは意外と少ない。アクセスが悪いからだろうか、もしくは釣り人が多すぎて存在感が薄れてしまっているせいか。
夜景はなかなかのものだ。ライトアップされ赤々と燦然と輝く神戸大橋、その向こうに見える神戸の夜景。ひと味変わったデートスポットとしても最適だろう。