「武士」「炎」というキーワードを連想した際に、真っ先に思い浮かぶのが本能寺の変だ。子供の頃から観ているNHKの大河ドラマでアレだけ頻繁に放送されていれば、結びつかないわけがない。
そこから更に想像の翼を広げて、架空の人物が燃えさかる炎の中から出てくるというシーンをイメージする。しかし撮影場所は限られている。
ハコアム8階には和のスペースがあり、行灯のある畳の部屋と、障子の散乱した細い通路、竹の細い通路がある。この細い通路はカメラマンにとっては難所だ。何故ならソフトボックスやアンブレラが置きづらい。つまりライティングが難しく一工夫いる。ヘタをするとストロボを当てた感が満載となり、のっぺりとした表現になる。
このような隘路での撮影対策としては、1灯を通路の入り口の脇に置いて、レイヤーさんにはなるべく手前に来て貰うようにしてうまく陰影をつけ、背景の障子などは思い切り暈かす。
最初のうちは開放F4のズームレンズで絞って撮ったが、どうも人物と背景両方が平坦となって臨場感が出ない。これは背景を暈かして空気感も出して、この平坦とした背景を誤魔化してしまった方が良い事に改めて気づいた。
同じ場所で前に何度か撮ったが、数ヶ月も経つと忘れているものだ。記憶をたぐり寄せて思い出し、同じ方法で撮影してみる事にする。焦点距離24mmと55mm、開放F1.4を駆使して背景を暈かし、レイヤーの足下のすぐ後ろにストロボを2台。1台はオレンジ、もう1台には赤のカラーフィルターを装着。干渉し合わないように逆ハの字で置いてみる。
何故同じ色のカラーフィルターにしないかと言ったら、一枚ずつしか色がないから。セットで6,000円する製品だから、同じ色欲しさにもう1セット買うのに躊躇する。百均のカラーセロハンや、同じ製品のもっと安い廉価版を買えば良いじゃないかと思われるかも知れないが、その手のセロハンはヘタをすると(予想外のフル発光などで)ストロボ光で焦げて火事になる恐れがあるし、廉価版の方はその安さがひっかかり、品質に懸念が残る。
というわけで、成り行きからオレンジと赤のカラーフィルターを使ったのだが、これが良い感じで炎を再現してくれる。特に背景が破けている障子だと、強いストロボ光が当たって白く飛んだ部分が、燃えさかる炎のように見える描写にひと味加えてくれている。障子の数が足りず、余計な鎖が写り込んだり黒壁が背景の1/3ほどを占めてしまうのが玉に瑕なので、広角から標準レンズに切り替えて背景をなるべく切り取り、更に臨場感を出すことにした。
どのような難しい場所でもストロボさえあれば、いい絵が撮れるものだ。レイヤーさんの表情もキリッと決まっていて、テンションが高い一日だった。