ライティングの最良の講師はコスプレイヤー

ストロボでテニスボールを再現。
ストロボでテニスボールを再現。

一つの作品を深く愛しているコスプレイヤーは、至高の再現写真を求める。裏返して言えば、その愛が深ければ深いほど、カメラマンは求める写真に見合った腕を試されることになる。ライティングのバリエーションの引き出しをすべて開け、持ちうる限りの知識をフル回転させて、レイヤーの求める光の写真を撮る必要に迫られることだろう。

これはチャンスである。ただぼんやりと構図を決めて、ライティングをセットして、カメラを設定して、シャッターを切って、といった緩やかなワークフローに緊張がもたらされる。寝ぼけていた脳に「起きろ!働け!!」と命令が下される。つまりは腕を磨く良い機会だ。

作品愛の深いレイヤーさんと一緒にあーだこーだと言いながら構図やライティングを練るのはカメラマンとして、非常にエキサイティングで良い経験になるだけでなく、思わぬ発見をすることもある。写真の彼女と一緒に撮り合いや撮影に赴いたのは数回ほどだが、いつも新しい発見を僕にもたらしてくれる。

一番はじめにスタジオに撮り合いに行った際、白ホリゾントのコーナーで順番待ちをしていると、ショルダーバッグに小さなアンブレラが入っていることに気づいた。前に一度使って、違いがよく分からなかったので仕舞ったまま直すのを忘れていたのだ。

「下から当てると良いらしいですよ。前に他のカメラマンさんがやってました」

と彼女が言うので、早速白ホリゾントでの撮影で試してみることにした。しかしやはり違いがよく分からない。その日はそれで終わったが、その次の撮影で、体育館でハイキュー!のコスプレ写真を撮ることになった。モデルは別の女の子である。

カメラとストロボをセットして、はじめは2500円の小ぶりのディフューザーを使って撮ってみたのだが、ふと先日彼女の言った事が頭の中に思い浮かび、試しにアンブレラに付け替えて、ストロボを炊いてみる事にした。

するとどうだろう。今までとは違った、圧倒的に綺麗な写真を撮る事に成功した。体育館の撮影というのは実は凄く難しい。前にも一度撮った事があるのだが、床や壁の色が顔に色被りする上に太陽の光が入りづらくて暗いので、顔に影が落ち、なかなか綺麗に写らないのだ。しかも窓からの差し込む光と体育館の床の色が半々になるような場所では尚更である。

初めてアンブレラで効果的に撮れたコスプレ写真。model:Nano
初めてアンブレラで効果的に撮れたコスプレ写真。model:Nano

まだコスプレ撮影を始めて一年も経っていない頃に、体育館で上手く撮れなかったので、今回はストロボを使う事に決めていたのだが、思わぬ効果を得られたのだった。レイヤーさんにどちらの写真が良いかと聞くと、アンブレラで撮った写真の方がいいと言う。それ以降はアンブレラとストロボ一灯で撮っていった。

これが僕のアンブレラデビューだったのだが、そのきっかけを作ってくれたのが冒頭の彼女だった。

ストロボでテニスボールを打ってるように撮って欲しいと言われ

別の日、同じスタジオでテニスの王子様を撮る事になった。彼女が大好きな作品である。

彼女の方から言い出したのか、僕がたまたまそういう風に撮れたのか記憶にないが、ラケットにボールが浮かんでいるように撮れないかという事をあれこれと考えていた。実際にテニスボールを持ってくるのではなく、ストロボで光るボールを作るのだ。実にマンガチックな表現で、作品にも合っている。

というわけで次のような写真が撮れた。自分でもビックリした。

ストロボで光の球を作る。ライトスタンドは写り込んでいない。
ストロボで光の球を作る。ライトスタンドは写り込んでいない。model:Rina

奥の壁は弧を描いているのだが、ストロボで水平線の光の筋を描けないかと二人で試行錯誤したら撮れた。

壁にストロボで赤い光の帯を作る。なかなか上手くいかず試行錯誤した。
壁にストロボで赤い光の帯を作る。なかなか上手くいかず試行錯誤した。

次の写真は別の日に撮影した有名なシーンの再現。

「お前はテニスを忘れるだろう」
「お前はテニスを忘れるだろう」

ハイクオリティな写真を求めてくるレイヤーと一緒に撮影すると、間違いなくスキルが身につく。この日は、ステージで歌っているアイドル風のライティングにして欲しいとも言われた。前からアンブレラなしで直に光を当てて欲しいという事で、こちらは僕との意見が食い違い難渋した。次に撮る時には最良のライティングで彼女に喜んでもらおうと企んでいる。