マニュアルフォーカスのみのレンズ、ツァイスのオータスで航空機撮影は可能だろうか。
ふらりと千里川土手に飛行機を撮りに行こうと思い立ち、せっかく下見がてらに撮りに行くのなら、マニュアルフォーカスのレンズで少し遊んでみようと、55mmのオータスを持っていくことにした。撮影の難易度が高くなるのは承知の上である。
実際に土手に立ってみて、爆音を伴いながら飛行機が頭上を飛び抜けていく雷神の如きスピードを体感し、これは無理だと思った。いつもマニュアルフォーカスで開放F1.4でガチピンになる方法で主に撮っているが、まず飛行機が速すぎて、その方法ではピントを合わせる余裕がない。
こういう場合はやはり鉄道写真と同じで、置きピンにすると良いのだろうか。しかし一面は空である。何処にピントを置いたら良いのか皆目見当がつかない。
これはAFの超広角ズームで撮るしかないかなと諦めかけていたところへ、別のルートからやってくる飛行機は、ゆっくりと飛行していることに気づいた。しかも今いる立ち位置から見ると、平行に一直線に飛んでいるので、ピントを合わせる余裕がある。
さっそくOtusに付け替えて、いつもやっている開放F1.4でもガチピンになるピント合わせを駆使しながら、狙いを定めて撮影していった。
今回は開放ではなくF4まで絞ったので、ピントも合わせやすい。撮影では無駄な無理をしないに限る。特にピントを合わせなければならない被写体が極端に小さい場合、意味もなく開放で撮って、解像感も引き出せなければピントもろくに合っていないような写真を量産しかねない。
絞ると案外ピントが合わせやすいことが分かったので、今度はファインダー越しに肉眼で飛行機を捉えて、指先に記憶させた勘だけを頼りにフォーカスリングを回してピントを合わせることにした。指がトルクに吸い付く感覚を覚えながら、ピントを合わせてシャッターを切る。
飛行機の横腹を撮る撮影は、ピント合わせにそう難渋しない。問題は正面から飛んでくる飛行機に対して、マニュアルフォーカスでどうピントを合わせるかだ。油断をしていると次の飛行機がやってきた。頭上の瞬間を1枚、滑走路の方へ去って行く後ろ姿を2枚撮影したら、内1枚は無事ピントが合っていた。
ピントが緩いもう一枚の写真も、ウェブで縮小して見る分にはピントが合っているように見える。正面からも撮影することにした。
滑走路をゆっくりと旋回する旅客機も撮ってみた。やはりこう小さいと望遠レンズを持ってきたら良かったと悔やまれる。
夕陽が沈み、空港の向こう側にある空が淡い色の重奏を描いている。敢えて暗がりの中で、マニュアルフォーカスでピント合わせに挑戦してみる。しかしなかなか難しい。滑走路へ吸い込まれていく旅客機は想像以上にスピードが速く、あっという間に小さくなってしまう。ピントは合っていないが、暗闇で何とか誤魔化すことが出来た。
マニュアルフォーカスで空を飛んでいる飛行機を撮影するのはなかなかエキサイティングだ。指で滑らかなトルク感を味わいながらピントを合わせて写真を撮る愉しみをまた堪能できた日だった。