胡桃の実を掌に忍ばせる真田昌幸 – 真田丸第2回感想

真田丸 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)

毎週日曜夜8時が待ち遠しくなってしまった。真田丸第2回。

甲斐武田家の滅亡が描かれる。天目山に向かう途上の田野で、武田勝頼は自害。落ち延びているにしては軍容もしっかりしており、おそらく農家を利用したものと思われる陣屋も設けられていた。

勝頼、切腹前に偉大なる父信玄の幻を見る。一言も発しなかった。覚悟を決めた勝頼の姿に入る光芒がとても綺麗。これだけ勝頼の最期をしっかりと寄り添って描いたドラマを見たのは初めて。実は甲斐武田家は応永の時代に一度滅んでおり、天目山がかつて武田信満が自害した場所であることも、きちんと描かれていた。

もう一人の悲劇の武将、小山田信茂。演じるのは温水洋一。直前になって主君勝頼を裏切る非常に難しい役どころである。難しいというのは、余りにも武田家が偉大すぎ、その反面余り知られていない小山田家の甲斐領内における歴史的位置づけを知っているからだ。

主君に忠義を果たさぬ裏切り者ということで死罪を申し渡されるが、下克上の思想が跋扈していたこの時代に、家臣が主君を裏切るのは日常茶飯事。甲斐の東に位置する郡内は小山田家が代々治めてきた所領であり、元は独立した国人で、小山田出羽守信有の代に、抗争を繰り広げていた武田家と姻戚関係を結び、一門衆として臣従した経緯がある。決して敵前逃亡する様な臆病者ではなく、長篠合戦でも戦場に踏みとどまった知勇を兼ね備えた優れた武将だった。

ちなみに徳川家に寝返った穴山梅雪は、長篠合戦の折、勝手に戦場離脱して、高坂弾正昌信をして激怒させ、梅雪に切腹を申しつける様勝頼に迫ったという。梅雪のこの行為が長篠合戦敗因の1つになったという説もある。

温水洋一演じる小山田信茂は、死罪の申しつけに怯えまくって引きずり出される演技をしていたが、何とも複雑な思い。ドラマを面白くするためには、こういう役どころも必要なのだろう。覚悟を決めて静かに死んでゆく勝頼と対比させることで、武田家滅亡の悲劇を強調したかったかの様に見える。

勝頼の首は簡易な祭壇に丁寧に納められていたが、この後晒される運命が待っている。一節には首実検をした織田信長が足蹴にしたとも言われている。その三ヶ月後に信長も本能寺の変で自害。

真田昌幸の元にも信玄の幻が現れる。そのとき、草刈正雄演じる昌幸の手の中には2個の胡桃の硬い実が握られていたが、勝頼の死を示唆する様に割れてしまう。

昌幸が掌の中で胡桃の実を弄ぶのは、池波正太郎原作の小説「真田太平記」の中で描かれており、その原作を元に30年以上前に制作されたNHK大河ドラマ「真田太平記」で丹波哲郎演じる昌幸も同じように胡桃の実を掌の中に忍ばせていたが、おそらくそれを継承したものだろうか。かつて「真田太平記」で真田信繁を演じていた草刈正雄が、丹波哲郎と同じ演技をしていて、よくぞやってくれた!と、とても気分が高まった。

史実でも昌幸が胡桃の実を掌の中に忍ばせていたかは謎であるが、池波正太郎の作品の中では、素破(忍びの者)を呼び寄せる際に、この胡桃を落として鳴らすという描写がある。

幻として現れる信玄公は一言も喋らない。戦に出る時のあの鎧冑の出で立ちは、全身で見ると、どうもほっそりとしていて、頼りなげに見える。他のドラマでもそうである。床几に座っていると、どっしりとしていて様になるのだが、立ち上がると、どうも威圧感に欠ける姿だ。

死直前の勝頼の前に父信玄の霊が現れる演出は、現在刊行中の戦国時代をテーマにした宮下英樹原作の人気マンガ「センゴク天正記」でも採用されている。こちらの信玄はなかなか多弁である。マンガなので台詞を言わせなければ成り立たないのだろう。信玄が如何に息子勝頼に信玄時代の負債を背負わせたか、武田家滅亡の一因が信玄の時代に合ったことを匂わせる内容となっている。

真田丸のこのシーンを見た時、ひょっとしたら脚本家は、センゴク天正記を読んでいたのかもしれないと思った。

焼け落ちた新府城に現れた徳川家康と本多正信のペア。家康の懐刀で謀臣である正信を演じるのは。朝の連続テレビ小説「あさが来た」にも出演しているベテラン俳優の近藤正臣。数年前に同じく大河ドラマ「龍馬伝」で、土佐藩主山内容堂をトリッキーに演じた。スマートな顔立ちにしては、アクの強い怪優でもある。

さてその本多正信と、家老筆頭の石川数正が鉢合わせるシーンがある。視線で火花を散らしているのを見ると、どうやら因縁のライバルの様だ。穴山梅雪のような裏切り者は出したくないと嘆く家康に、数正は徳川家は鉄の結束でそのような者は一人も出ないと断言する。もちろんこれはフラグを立ててのセリフである。歴史好きならその後の展開は手に取る様に見えるだろう。

内野聖陽演じる徳川家康も、やはり三谷幸喜節が効いていて面白い。焼けた香炉を掴んでしまい、アチアチする家康。まるでドリフのコントだ。主家を裏切った穴山梅雪を妻の前でボロクソにけなしながらも、梅雪を迎える次のシーンでは自ら梅雪の手を取り慇懃に労を労う家康の姿は狸親父そのもの。織田はますます栄えるでしょうなと言う正信に、「生き延びられればそれで良い」と嘆息する家康は、まだこの頃は天下への野心はないようである。自家が滅びないように尽力するのに手一杯なのだろう。

かつてNHK大河ドラマ「風林火山」で家康のライバルであり信奉者でもあった武田信玄の名軍師山本勘助を演じた内野の演技も見所だ。

最後になったが、ドラマ冒頭の解説は、信長の野望のシナリオを選んだ時のイメージにソックリだ。毎回高揚する。スタッフロールに信長の野望を一代で築き上げたシブサワ・コウの名前があるのも誇らしい。