ローガン・ラッキー インターネット業界が牛耳る富の世界と、置き去りにされた古き良きアメリカの田舎町とのリアルな対比と愉快な反抗

ローガンラッキー

時々マッチョなアメリカらしいアメリカ映画を観たくなる時がある。今回はそれを期待してローガン・ラッキーを観に行った。前日観たブレードランナー2049のパンフレットが売り切れていたので、置いている映画館を探したついでというのもあった。

予告編をウェブで見ると、サーキットのカーレースシーンが織り込まれていた。鈴鹿サーキットに遊びに行ったばかりなので、スクリーンでレースを見たいというのもこの映画を選んだ動機の一つ。

監督はオーシャンズ11のスティーブン・ソダーバーグ。よく出来た脚本。事故で片足を負傷したフットボール選手の兄ジミー・ローガン(チャニング・テイタム)と、イラク戦争で片腕を失ったバーテンダーの弟クライド・ローガン(アダム・ドライヴァー)の二人が組んで、兄が解雇された工事現場のサーキット会場地下にある莫大な売上金を強奪するという筋書き。協力者に金庫破りの名人で服役中のジョー・バング(ダニエル・クレイグ)や風変わりな兄弟を加えて計画を実行する。

映画が始まってしばらくしてからカントリーソングの、Take me home, Country Roadが流れる。日本人なら宮崎駿監督の「耳をすませば」でお馴染みの原曲が流れるのだが、こういう歌詞だったのかと胸を打たれた。広大なアメリカの母なる山や川、地名などが歌われ、見たこともない極東の日本人ですら郷愁に誘い込まれる。

歌詞にも出てくるウエストバージニアは、主演のチャニング・テイタムが学生時代にアメフトをやっていたり、当映画の脚本家が住んでいた近くでもあるとのことだが、今ここにはアメリカンドリームと呼ばれるようなチャンスは掴めないらしい。炭鉱が閉鎖されたのが理由だそうだ。この辺りの事情は北九州の筑豊や財政再建団体に転落した北海道の夕張市と重なるところがある。

そんな場所を舞台にしているわけだから登場人物たちもあまり恵まれた生活を送っているようにはみえない。しかし様々なシーンが古き良きアメリカを彷彿とさせる。メインの登場人物たちはインターネットの世界にも疎い。ツイッターをツイッターズと呼び、フェイスブックの創設者を小僧扱いする。それとは対照的に、クライド・ローガンがバーテンを勤めている店にやってきたTwitterのフォロワー数9万人の金持ちインフルエンサー、マックス・チルブイレン(セス・マクファーレン)は、喧嘩の末に燃やされた自分の車を「ドキュメントだ!」とスマートフォンで撮影するよう連れを怒鳴る。ここにもインターネットの世界にいる金持ちと、寂れた炭鉱跡の田舎町の貧乏人の対比が浮かび上がってくる。

服役中の金庫破りの名人ジョー・バングを1日だけ脱走させてサーキット場で強盗を働くのだが、ぼんやりと見ていたので、本当にこんなスキームで強盗が可能なのだろうかと疑問に思った。売上金の保管システムもなんだかルパン三世にあるような古いアニメのようだ。しかしそこは映画、深く突っ込んではいけない。フィクションにドップリと嵌り込んでストーリーのテンポの良さを楽しまなければ。しかしアメリカのサーキット場はビッグだ。やはり土地が広いからいくらでも広く作れるのだろうか。撮影には本物のカーレースイベントを使用したとのことで、アメリカの近衛兵やアメリカを歌い上げる女性歌手、空中から舞い降りてくる大きな星条旗など、これぞアメリカ!という感じのシーンが盛りだくさんだった。

クライマックスシーンが終わり、伏線でメイクしてもらったり衣装を整えていた女の子がステージコンテストで歌を歌うシーンがある。突然ジミーの好きなTake me home, Country Roadに曲目を変えてアカペラで歌うのだが、こういった子供を使った感動シーン、ビル・マーレイ主演の「ヴィンセントが教えてくれたこと」にもあったなぁと。この手の観客を巻き込むかような劇場型の感動シーンは、三人のゴーストでもその極みを見せたビル・マーレイの十八番なのでパンチが弱かったが、これを見たジミーは何を思ったか盗んだ金をコンビニ脇にほっぽりだすという、意外な行動に出る。金よりも故郷。テレビの報道では「オーシャンズ・セブン・イレブンだわ」なんてインタビューを受けた女性に言わせて自らの作品を茶化すお茶目な一面も。

しかし再び同じ手口で今度はちゃっかり現金強盗し、現金強奪スキームの際に迷惑をかけた職員(バースデーケーキにゴキブリ)や、巡回医療スタッフで高校時代の後輩の女、刑務所内の協力者の黒人などに粋な演出を効かせて現金をプレゼントするというハッピーエンドで終わる。ラストは、FBI捜査官の女も含めて酒場に全員が集まって酒を飲むという、これまたうまくできたシーンとなっている。

ラストの方に出てくるFBI捜査官の女がまたスパイスが効いていた。そろそろエンドロールかなと思っていたら続きがあってこの女が出てきて映画を観る集中力を持続させる。キャストはパンフレットを見ると大物揃い。日本人なのでわからないが、刑務所の所長はカントリーソングのアイコンと呼ばれている人だし、女性捜査官は女優でありプロデューサーでもある。終始滑稽な役回りだったマックス・チルブイレンを演じたセス・マクファーレンは、テッドの監督でテッドの吹き替えも担当した人物。

アメリカの南部が舞台の映画だが、南部というと人種差別が激しい地域とも聞く。その辺のところはこの映画にどう反映されたのか。スクリーンの見えないところでは何か含みがあるのだろうか。

登場人物は全員ガタイがでかい。ダニエル・クレイグはケイト・ブランシェット主演の「エリザベス」でアサシンを演じた時はこんなに筋肉がついていてオッサンみたいな荒っぽい声だっただっただろうか、007のジェームズボンドを演じた時はこんなに肉付きよく肥えていただろうかと不思議に思ったくらい。皆ガタイがよく刺青を入れてるので、体で全てを語る威圧感がどの登場人物にもあった。

とにかく見ているだけでご機嫌になる映画だった。もっとアメリカらしさを期待していたところもあったが、最後にハッピーな気分になれる映画は最高だ。あと、パンフレットのデザインがすごくカッコよかった。サーキットのカーレースをスクリーンで観たから、キャノンボールみたいなゴキゲンな映画も久しぶりに観てみたいなぁ。